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外出自粛でギターを買う人が急増 コロナ特需で楽器の小売が好調

Rolling Stone Japan / 2021年2月3日 19時0分

Courtesy of Reverb

2020年、オンラインでの楽器の販売数が劇的に飛躍した。「いまでは、1日1000本のギターを売っています」と、初めて年間売上が10億ドル(約1050億円)超を達成した北米楽器通販大手SweetwaterのCEOは話す。

ある人にとってギターはトイレットペーパーと同じくらい欠かせないものだ。新型コロナのパンデミックが数多くの事業に致命的な打撃を与えたり、壊したりと世界経済に大混乱をもたらすなか、Amazonやプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)といった米国企業は開いた口がふさがらないほど見事な会計報告を発表した。そして予期せぬ事態の展開により、どうやら大手楽器小売チェーンにも同じようなことが言えそうだ。

本誌のインタビューで北米楽器小売大手のSweetwater、Guitar Center、Reverbは、オンライン売り上げという点では素晴らしい1年だったと述べた。2020年、オンライン販売のみのSweetwaterは42年という会社の歴史において初めて10億ドル(約1050億円)を超える売上を記録した。それだけでなく、2020年の取引人数は150万人以上と、2019年の100万人から増加した。同社のCEOを務めるチャック・スラック氏は、いままでの年は通常で1日1万5000件ないし2万件の注文をこなしていたが、昨年と比べて2020年は40パーセントアップという結果になったと話す。それに加えて「ブラックフライデー・セールが定着した」ことによって1日の注文件数は2万2000件ないし2万4000件、ピーク時でなんと3万件にまでアップしたと言う。

世界最大のハンドメイドマーケットプレイスを運営する米Etsyの子会社であるReverbは、Etsyとよく似た構造のオンライン販売限定のマーケットプレイスを通じて楽器販売を行っている。第4四半期の流通取引総額(GMS)に関するデータはまだ公表していないものの、同社CEOのデヴィッド・マンデルブロ氏が本誌に述べたところによると、Reverbは2020年の第2四半期に四半期のGMSとしてはもっとも高い数値を叩き出した。それだけでなく第3四半期の数値は、前年の同時期と比べて30パーセント以上の伸びを見せたのだ。

3社のなかで唯一実店舗を展開するGuitar Centerの売り上げも同じように上昇した——債務整理のために米連邦破産法11条の適用を申請したにもかかわらずだ。Guitar Centerは正確な数値を公表していないものの、チーフマーケティング&コミュニケーションオフィサーのジェニン・デイヴィス・ダダリオ氏は、同社のオンラインビジネスが「より多くの消費者がサイトを頻繁に訪れることによって急成長し、2019年と比べてほとんどの部門の売り上げが伸びた」と話す。Guitar Centerによると、2019年と比較した際、2020年のオンライン売り上げは2倍以上伸びた。

>>関連記事:破産寸前だった米大手楽器店の華麗なる復活劇


● 迫られる戦略変更

新型コロナが米国に大打撃を与えた2020年3月以前にSweetwaterは48万平方フィート(約4万5000平方メートル)の倉庫を新設していた。その理由はスラック氏曰く、家族経営の同社の売り上げが毎年着々と伸びていたからだ。だが、米国の人々が自宅から動かなくなるにつれ、その売り上げは急激に伸びた。同年4月、スラック氏は直近の1週間だけで11月の感謝祭の時期にしか見られないような数値を超えたと本誌に語った。スラック氏はもっと広い倉庫が必要だとすぐに気づき、5万平方フィート(約4600平方メートル)の追加スペースの建設を指示した。同施設は夏を前に完成した。

スラック氏は、パンデミックによってSweetwaterが毎年恒例のオンラインイベント、GearFestを延期しなければならなかったと述べる。例年どおりなら、GearFestは中西部インディアナ州フォートウェインにある同社キャンパスで開催されるはずだった。2019年の参加者数は1万8000人だったが、バーチャルという形での2020年の参加者数は12万5000人を超えていた。スラック氏は、今後は対面式のイベントを復活させたいと期待を寄せているものの、引き続きバーチャルという選択肢も残しておきたいと本誌に語った。

それに加えてSweetwaterは昨年、臨時職員を除いて400を超える雇用を新たに創出した。「通常なら400人体制の倉庫を700人まで大幅に増員し、そこから徐々に減らしていく予定です」とスラック氏は話す。「(倉庫の従業員は)すべて臨時職員です。ですが、増員のほとんどは倉庫担当の正社員と新規の営業担当です。セールスエンジニアとして119人を新たに採用したことに加え、さまざまなレベルのエグゼクティブも採用しました。福祉担当として女性もひとり雇いました。全部門にわたって新しい人材を採用したのです……セールスエンジニアをひとり雇うごとにアドミニストレーション担当とさらに多くのテクニカルサポート要員も採用しなければなりません。サービス部門の人員をさらに増やす必要もあります……いまとなっては、2000人を超える人たちが弊社で働いています」。120人ないし130人のセールスエンジニアを近い将来採用しようと考える同社は、こうした臨時職員の存在なしに2020年を切り抜けることはできなかった。「(増員は)倉庫でのフルフィルメント業務のためです」とスラック氏は言う。「いつものように1日1万4000〜1万6000件ではなく、2万2000〜2万8000件の注文をこなしていた時期は、猫の手も借りたいほどでした」。

同年8月、Reverbのマンデルブロ氏は同社の従業員数が190人であることと、同年の終わりまで採用活動を継続し、「プロダクトチームを40パーセントほど拡大する」と、シカゴを拠点に活動するアフリカ系アメリカ人の起業家の支援団体・Chicago Innoに語った。同社の担当者は採用に関する詳細を明かさなかったものの、1年を通じて採用活動を続けていると、本誌に明言した。

ダダリオ氏は、Guitar Centerが「全米の290を超える店舗においてオンライン、アプリ、あるいはコールセンター経由で注文した商品が最寄りの店舗で受け取れる非対面式の店頭受取サービスを急速に導入した」と述べた。それに加えて同社は、「対面式のサービスからオンライン購入に移行する顧客の増加に対応するため、商品選び・梱包・配送キャパシティを増やし、講師に一対一のオンラインレッスンのやり方を指導し、インストアレッスンの受講生をオンラインに移行させた」。

Guitar Centerには新たな人材を採用する余裕はなく、実際に「相当な数の従業員を一時解雇するだけでなく、一部のポジションを撤廃し、ビジネスに生じた変化に対応すると同時に店舗閉鎖命令に従わなければいけませんでした」とダダリオ氏は言う。「一時解雇された従業員の大半ができるだけはやく職場復帰できたことを嬉しく思っています」。

Guitar Centerは可能な限り早急に破産申告を行うことに力を注ぎ、このプロセスをなんとか年内に終わらせることができた。12月22日にすべてのプロセスが完了したのだ。「Guitar Centerは、8億ドル(約840億円)近い債務の消失と1億6500万(約173億円)という新たなエクイティ・ファンドによって以前よりも強いバランスシートとともに復活しました」とダダリオ氏は語る。「それに加えて、資本増強取引によってGuitar Centerの流動性は大幅にアップし、これが継続中のオペレーションを支え、戦略的な成長イニシアチブに投資すると同時にビジネスプランの実行を可能にしたのです。弊社は長期的かつ持続可能な成長をサポートするのに欠かせない財政面ならびにオペレーション面での柔軟性を手に入れました。このプラスの勢いの継続に向けて、弊社は構えの姿勢を示しています」。


● 爆発的なギターブームの到来

Sweetwater、Reverb、Guitar Centerの3社は、外出禁止期間中にもっとも売れた楽器はギターだと、口を揃えて述べた。「2020年の状況を踏まえると、確実に言えることがひとつあります。それはギターブームが到来したという点です」とReverbのマンデルブロ氏は言う。「ギターの発注数と検索数は大幅に伸びており、そのなかでもFender、Gibson、Taylorといった有名ブランドのエレクトリックギターをはじめ、アンプ、ギターストラップ、エフェクターなど、ギターと一緒に使う機材やアクセサリーの検索数も伸びています」。アコースティックギターとアコースティックギター用アンプの検索数は、昨年と比べて50パーセント上昇した。

マンデルブロ氏は、TaylorのGS-Miniのようにリビングルームにぴったりの絶妙なサイズ感が特徴のアコースティックギターが圧倒的に人気だと語る。だがReverbでは、「ブライアン・セッツァーが自身の公式Reverb Shopで販売した1965年製の美しいFender Stratocasterのような、超レアなヴィンテージギターも売れ続けている」と言う。限定モデル、小さな工房が手がける”ブティック系”エフェクターもことのほか人気だ。マンデルブロ氏は、KLONやMU-TRONといったヴィンテージブランド製の定番およびレア物エフェクターの販売価格が2020年に「高騰し」、限定モデルのエフェクターがReverbで数分内、場合によっては1分もたたないうちに売れたと述べた。

「いまでは、1日1000本のギターを売っています。衝撃的な数ですよ」と、Sweetwaterのスラック氏は続ける。2019年のピーク時には、1日800〜825本のギターを売ることはあったが、いまとなっては1日1000本が平均だ。

米Fenderの南北アメリカ・欧州・中東の営業部門のエグゼクティブ・ヴァイス・プレジデント(EVP)を務めるタミー・ヴァン・ドンク氏は、ギター業界にとって2020年は「ジェットコースターのような」1年だったと語る。「3月に(ギターの)需要が消滅し、4月に回復し、5月以降は爆発しました」とヴァン・ドンク氏は語る。「弊社は、7億ドル(約735億円)超という史上最高の売り上げをもって2020年を締め括りました。2019年と比べて17パーセントのアップです」。米GibsonのCEOを務めるジェームズ・”JC”・カーレイ氏は、「それは最良の時代でもあり、最悪の時代でもあった」と、イギリスの小説家チャールズ・ディケンズの名言を用いて2020年に言及した。「4月、5月、6月の3カ月は難しい時期でした。それ以降は埋め合わせとは程遠い、凄まじい需要があったのです」。Gibsonの会計年度は今年の3月に終わりを迎えるため、まだ最終的なデータではないものの、8月以後は「売り上げを着実に伸ばし、成長を続けている」とカーレイ氏は言う。

>>関連記事:ファン層を拡大するフェンダー社、CEOが語る「ギタービジネスの未来」

およそ1年前、販売されているギターのざっと3分の1ぐらいがオンライン販売によるものだったと、カーレイ氏は述べる。その頃カーレイ氏は、実店舗とオンライン販売の比率が50/50になるのは5年後だろうと予想していた。「私たちは、50/50という予想が現実のものとなった状況を目の当たりにしているのです」と本誌に述べた。「ポスト・コロナ時代においても、楽器業界は50(実店舗販売)/50(オンライン販売)という比率に落ち着くと思います……必要は発明の母だと言いますが、必要はギターへのアクセスとギターの進化の母でもあるのです」。


● 新規顧客の登場

楽器小売チェーンは、2020年にかけて新規顧客と音楽を初めて習う人の数が急増することに注目した。これはつまり、昨年のはじめと比べてビジネスの裾野が広がったことを意味する。

Guitar Centerのダダリオ氏は、ギターの売り上げが伸び続ける背景には、「エントリー価格——とりわけ抜群のコスパで人気を誇るGuitar Center Exclusive対象の初心者向けの楽器の人気がある」と続ける。それに加えて、女性や若い世代のギタープレイヤーが増えたことも指摘する。「楽器を弾いてみたいという40歳以上のギタープレイヤーも増えています」。さらにダダリオ氏は、次のように続ける。「さらにステイホーム期間中は、11〜15歳と40歳以上の年齢層のレッスン受講生が増え続けています」。

Reverbのマンデルブロ氏は、ポッドキャスト用であれ、DIY式の音楽制作であれ、レコーディング機材を買う人の増加というトレンドを指摘するものの、初心者の増加はそれを凌ぐと述べた。顧客との会話を通じてマンデルブロ氏は、1日中パソコン画面を見つめなければならないストレスや気晴らしとして新たに音楽に興味を持つ人が増えていることに気づいた。「パンデミックの到来によって仕事探しに困っているブルックリン在住のフリーランスの人から話を聞きました。その人は、空白の時間と心を埋めるため、Reverbでマンドリンを買ったそうです」とマンデルブロ氏は言う。こうしたベーシックな楽器は、次から次へと最新機器が生まれる現代から逃避させてくれるドラッグのようなものだと言い添えた。「4〜6月または7〜9月にかけてReverbで初めて音楽機材を買った人は、またReverbのサイトを訪れて別の機材を購入してくれます」と氏は語る。

春から初夏にかけての需要データを見直しながらFenderのヴァン・ドンク氏は、500ドル未満の商品の売り上げが92パーセント伸び、500〜1000ドルといった価格帯の高級ギターを購入する”経験者”が26パーセント増えたと述べる。「ソフトウェアとしては、Fender Play(訳注:レッスン動画等を配信している同社のアプリ)の3カ月無料キャンペーンを提供したことで100万人近くがギターを習いはじめました」と彼女は言う。

Gibsonも先日、独自のアプリを発表した。同アプリは、ARを使って一対一でギターの弾き方が習えるいくつものツールを提供している。同社の代表によると、同アプリは発表から1週間で予想数の2倍の登録者を記録したそうだ。

「多くの人は、『前からギターを弾いてみたかったんだ』と言います」とGibsonのカーレイ氏は語る。「すると、こうした人たちがある日突然ギターを弾きはじめたんです。その一方、経験者やプロレベルの人たちは『まいったな、欲しいギターがありすぎる。理想のギターを手に入れずに死んでしまうなんてあり得ない。よし、買っちゃえ!』といった具合でしょうか。こうした事態は7月、8月頃から同時に発生しました……私が思うに、過去10年と比べて昨年ほど多くのギタープレイヤーが誕生した年はないのではないでしょうか。このレベルを業界として維持できれば、私たちは今後10、20、30年にわたって新世代のギタープレイヤーを獲得することができるのです」。

>>関連記事:「破産宣告」からの復活、ギブソンCEOが語る「100年のビジョン」

カーレイ氏は次のように続ける。「SGを弾いているグレタ・ヴァン・フリートのメンバーやギターを弾くアンガス・ヤングの姿をローリングストーン誌の表紙で見た子どもは、『ママ、僕にもギター買ってよ』と言うでしょう。300ドルあればEpiphoneのギターが買えます。1000ドル出せば、エントリーレベルのGibsonだって買える。それに5000ドル出せばカスタムメイドのギターだって手に入るんです。なかには20年ないし30年かけて理想のギターをようやく手に入れる人もいます。それは素晴らしいことです。こうした人たちは、30年ギターを弾くという冒険をしてきたのですから」。

From Rolling Stone US.

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