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ニルヴァーナやジミヘンの「新曲」を制作、AIプロジェクトの真意とは?

Rolling Stone Japan / 2021年5月8日 9時0分

Photo illustration by Griffin Lotz for Rolling Stone. Photographs used in illustration by Frank Micelotta/Getty Images; Agencia el Universal/AP; Michel Linssen/Redferns/Getty Images

カート・コバーン、ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソン、エイミー・ワインハウス……27歳の若さで亡くなった「27クラブ」による”新曲”がAIプログラムによって制作された。その背景にはメンタルヘルスへの認知を広める新プロジェクトの存在があるという。

【動画を見る】ニルヴァーナ、ジミヘン、ドアーズ…AIソフトで製作された「新曲」

1994年にカート・コバーンが亡くなってからというもの、ニルヴァーナのファンは彼が生きていたらどんな曲を作っていただろう、と思いを巡らせてきた。だが、彼が自殺する数カ月前にニルヴァーナが収録した、しわがれ声の粗削りな混乱を憂う「ユー・ノウ・ユーアー・ライト」や、R.E.M.のマイケル・スタイプとコラボレーションするか、あるいは完全にソロとして活動するかもしれない、と仲間内に漏らした言葉を除いて、彼が残したものは疑問符ばかりだ。

そこへ今、とある団体が人工知能ソフトウェアを使ってコバーンの作曲スタイルをまね、ニルヴァーナの”新曲”を作成した。ギターリフは穏やかな「カム・アズ・ユー・アー」風の爪弾きから、『ブリーチ』の「スコッフ」のような狂おしい激情まで幅広い。”太陽が君に降り注ぐが、俺にはさっぱりわからない”(The sun shines on you but I dont know how)という歌詞や”知ったことか/太陽におぼれて、俺は満ち足りている”(I dont care/I feel as one, drowned in the sun)という驚くほど高揚的なコーラス部分も、いかにも情感的なコバーンらしさを備えている。

だがボーカルを除いて――ニルヴァーナのトリビュートバンドのフロントマン、エリック・ホーガンが担当――言い回しからなりふり構わぬギターパフォーマンスにいたるまで、曲のほぼすべてはコンピューターの産物だ、と曲を作成したクリエイターは言う。コバーンの自殺という悲劇に目を向け、現存するミュージシャンが鬱で助けを得られることを示すのが彼らのねらいだ。

「Drowned in the Sun」というこの曲は、ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリソン、エイミー・ワインハウスと、いずれも27歳で他界したミュージシャン風の曲をコンピューターで作曲・演奏するというプロジェクト「Lost Tapes of the 27 Club」の一環。いずれもAIが各アーティストの楽曲30曲弱を分析し、ボーカルメロディやコード進行、ギターリフ、ソロパート、ドラム・パターン、歌詞をつぶさに研究して、”新曲”がどんなサウンドになるかを予測して作り出された。このプロジェクトを手がけるのは、メンタルヘルスに悩む音楽業界関係者を支援するトロントの団体Over the Bridgeだ。


ニルヴァーナ風の「Drowned in the Sun」

「もし僕らが愛するこれらミュージシャンが、メンタルヘルスのサポートを受けられていたらどうなっていたでしょう?」 Over the Bridgeの理事メンバーで、広告代理店Rethinkのクリエイティブディレクターでもあるショーン・オコナー氏はこう語る。「なんとなく音楽業界では、(鬱が)日常化していて、美化されています……彼らの音楽は、苦悩そのものと見なされています」

AIプログラムによる曲作りのプロセス

曲を作成するにあたり、オコナー氏とスタッフはGoogleのAIプログラムMagentaを使用した。特定のアーティストの楽曲を分析して、作曲スタイルを学習するのだ。かつてソニーもこのソフトウェアを使ってビートルズの”新曲”を作った。エレクトロポップ・グループのYachtは、これを使って2019年のアルバム『Chain Tripping』を制作した。


ビートルズ風の「Daddys Car」



Lost Tapesプロジェクトにおいて、Magentaはアーティストの楽曲をMIDIファイルで分析した。自動演奏ピアノと似たような仕組みで、ピッチやリズムをデジタルコードに置き換え、シンセサイザーに出力して曲を再生する。コンピューターは各アーティストの音符のチョイスやリズムの癖、ハーモニーの嗜好をMIDIファイルで検証し、新しい音楽を作る。それをスタッフが詳しく調べ、最高の部分を取り出すのだ。

「入力するMIDIファイルが多ければ多いほど、出来もよくなります」とオコナー氏。「僕らも1人のアーティストにつき20~30曲をMIDIファイルで用意し、それぞれサビの部分、ソロパート、ボーカルメロディ、リズムギターに分けて、1度にひとつずつ入力しました。曲全体をいっぺんに入力すると、(プログラムも)どんなサウンドにするべきか混乱してしまうんです。でもリフの部分だけたくさん用意すれば、AIが書いた5分の新しいリフが出来上がります。そのうち90%は聞くに堪えないような代物ですけどね。それを全部聞いて、面白そうな部分をちょっとずつ探していくんです」


エイミー・ワインハウス風の「Man, I Know」

オコナー氏と彼のチームは、人工ニューラルネットワークと呼ばれる一般的なAIプログラムを使って、同じように歌詞も作り出した。アーティストの歌詞を入力し、出だしの数語を選んでやると、プログラムが音韻や抑揚を予測し、歌詞を完成させた。「試行錯誤の連続でした」とオコナー氏は言って、スタッフはMagentaが生成したボーカルメロディに音節がぴったりフィットする言い回しを求めて「何ページも」歌詞を精査した、と付け加えた。

AIの曲を歌うボーカル探し

ひとたび曲が出来上がると、音楽スタジオが各パートをアレンジして、ミュージシャンをよみがえらせた。「楽器のパートはほとんど、様々なエフェクトを加えたMIDIです」 完成した楽曲について、オコナー氏はこう語った。そのあとボーカル探しに取り掛かった。「たいていの場合、僕らが起用した人はみなトリビュートバンドで活動していましたから、抑揚をつけるとかして、可能な限り本物らしく歌うことができました」

エリック・ホーガンは、アトランタのトリビュートバンドNevermind: The Ultimate Tribute to Nirvanaで6年間フロントマンを務めている。はじめは一夜限りのハロウィンの余興のつもりで、ホーガンが友人とフー・ファイターズやストーン・テンプル・パイロッツやニルヴァーナを演奏する口実に過ぎなかった。だがニルヴァーナのステージが大反響を呼んだのをみて、グランジ1本でやることにした。Over the Bridgeのチームから「Drowned in the Sun」のボーカルを頼まれたとき、彼は(まさに文字通りの意味で)信じられないがクールなプロジェクトだと思った。「言葉を交わした後も、現実のこととは思えなかったよ」と本人。「そしたら、ファイルとギャラが送られてきたんだ」

最初に曲を聴いたとき、彼は驚きで言葉を失った。「これをどう(歌い)こなせっていうんだ、と思ったよ」と彼は振り返る。「AIの曲を作った人間に(曲を)鼻歌で歌ってもらわなくちゃいけなかった。(コバーンだったら)どんな感じにしただろう、と想像するのは変な感じがしたね。ちょっとばかり方向性を示してもらわなくちゃならなかったが、そこから先は順調だった」


ドアーズ風の「The Roads Are Alive」


ジミ・ヘンドリックス風の「Youre Got Kill Me」

オコナー氏とスタッフはリサーチと曲作りに1年を費やし、さらに半年かけて収録した。その過程で各アーティストに精通したキモ入りのファンを探し出し、盗作の恐れがないか調べるのを手伝ってもらった。ドアーズ風に作った「The Roads Are Alive」が、実際にドアーズが作曲した「ピース・フロッグ」と瓜二つではないか、と懸念したが、最終的には別物だと判断した。「スタジオエンジニアが『ピース・フロッグ』を実際に演奏してくれました」とオコナー氏。「『ピース・フロッグ』はこう、この曲はこうとやってくれて、たしかに違う、OKこれなら安心だ、となりました」

AIによる楽曲制作の可能性とは?

ニルヴァーナはコンピューターが模倣するアーティストの中でもとくに難しいことが判明した。ヘンドリックスのようなアーティストは、すぐに彼とわかるリフで「パープル・ヘイズ」や「ファイア」などの曲を構成している一方、コバーンは重厚でパンクなコード進行で演奏することが多く、コンピューターを混乱させた。「どうしてもウォール・オブ・サウンド風になってしまうんです」 Magentaが生成したニルヴァーナ風の音楽について、オコナー氏はこう言った。「どの曲にも一貫してニルヴァーナだとわかる共通点が少ないので、コンピューターが学習して新しい曲を作る際の大量のサンプルが足りないんです」

「(「Drowned in the Sun」は)非常に正確で(ニルヴァーナの)雰囲気が味わえるが、出版停止命令を喰らうほどじゃない」というのがホーガンの意見だ。「ニルヴァーナが最後にリリースした曲、つまり「ユー・ノウ・ユーアー・ライト」を見れば、あれにも同じような雰囲気がある。カートは彼が書きたいと思ったものをただ書いた。本人が気に入れば、それがニルヴァーナの曲になる。(「Drowned in the Sun」の)アレンジには、ここは『イン・ユーテロ』っぽいな、こっちは『ネヴァーマインド』っぽいぞ、と感じるところも確かにある……AIのことがよく分かったよ」

ホーガンがとくに感銘を受けたのは、コンピューターがはじき出した歌詞だそうだ。彼の意見では、コバーンの書いた歌詞はつねに「ごたまぜ感」があるが、今回の歌詞はコバーンらしいメッセージを失うことなく、よりダイレクトだと彼は感じている。「考えが完全にまとまったと感じがする」と彼は言う。

「俺は変わり者だが自分では気に入っている、というのがこの曲の趣旨だ」と彼は言う。「完全にカート・コバーンそのものだよ。彼ならまさしく言いそうな感じだ。”太陽が君に降り注ぐが、俺にはさっぱりわからない”――最高じゃないか。基本的に、俺なりの曲の解釈はこうだ。『俺は最低、お前も最低。違うのは、俺はそれでいいと思っているが、お前はそうじゃない』」(この曲を聴いてホーガンは、ギターも自分が演奏すると申し出たが、プロデューサーはこれを断ってコンピューターに演奏させた)

ということは、「Drowned in the Sun」はある意味、神や宇宙の摂理に抗うフランケンシュタインのような産物なのか? 「倫理の話題をするには、俺は適任とは言えないと思うよ」とホーガンは笑って言った。「だって、俺は他の誰かに成りすまして全米を回っているわけだから」

「こういうのにケチをつけて、『ああ、本物の音楽が死んだ』というような奴が大勢出てくるだろうね」と彼はこう続けた。「でも俺は一向にかまわない。ツールとしては相当イケてると思う。将来的に、法律面でどうなるかはわからないが。最初はいい感じだと思って始めたものも、問題を抱えるようになるかもしれないしね」

Over the Bridgeの狙いは、ひとえにメンタルヘルスの対処について関心を高めることだ。同団体ではアーティストの啓蒙と孤独感の緩和のために、Facebookページを立ち上げてサポートしたり、Zoomでのセッションやワークショップも行っている(楽曲を販売する予定はない)。「誰か1人が『私もあなたと同じような気持ちなんです』と言ってくれるだけで、少なくとも何らかの支えを得られたと十分感じられる時もあります」というのはLemmon Entertainmentの代表を務めるマイケル・スクリヴン氏。ちなみに同社のCEOも、Over the Bridgeの理事の1人だ。

このプロジェクトで、AIミュージックにどれほどの努力が割かれているかにも目を向けてほしい、とスクリヴン氏は期待を寄せる。「これを作るにも、段階の序盤、中盤、終盤で、尋常でない数の人が関わっています」と彼は言う。「いつか(AIが)生身のミュージシャンに取って代わるだろう、と考える人も大勢いるかもしれませんが、現時点では聞くに堪える曲を作るには多くの人間の手が必要です。それは大きいですよ」 どの曲も、オコナー氏、Magentaの技術者、音楽プロデューサー、スタジオエンジニア、ボーカリストの手が不可欠だった。「ボタンを押して、一瞬でアーティストを一掃するなんてことにはなりませんよ」とオコナー氏も言う。

「(Over the Bridgeの人々には)もっとAIを追求していってほしい」とホーガンも言う。「この分野にはもっともっとやれることがある」

From Rolling Stone US.


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ニルヴァーナ風の「Drowned in the Sun」


ドアーズ風の「The Roads Are Alive」


ジミ・ヘンドリックス風の「Youre Got Kill Me」


エイミー・ワインハウス風の「Man, I Know」

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