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2021年に絶対に見過ごしたくない「4枚の重要アルバム」 2021年4月~6月期リリース編

Rolling Stone Japan / 2021年7月18日 8時45分

ジャスティン・ビーバー 2021年7月10日、米ラスベガスで 撮影(Photo by Denise Truscello/Getty Images for Wynn Las Vegas)

音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。

ここにお届けするのは、2021年6月25日発売号の誌面に掲載された2021年2ndクォーターを象徴するアルバム4選の記事。2010年代初頭に確立された「分業制ポップ」の理論的発展と帰着を代表するのがジャスティン・ビーバー最新作だとすれば、そこからの意識的な離脱を目指しているのが今のラナ・デル・レイだろう。また、数年来ライブ中心のシーンとして活況を呈してきた英国サウスロンドンのインディシーンから遂に傑作と呼べる作品が生まれたことも記しておきたい。ジャスティン・ビーバー、ラナ・デル・レイ、セイント・ヴィンセント、ブラック・ミディ――今聴くべき4枚を紹介しよう。

【動画を見る】ジャスティン・ビーバー「Anyone」ミュージックビデオ

1. Justin Bieber / Justice



ジャスティン・ビーバーは2010年代のポップ産業の荒波に揉まれながらも、常にその中心できっちりと責任と役割を果たしてきたアーティストである。一時は「品行方正なアイドル」というパブリックイメージを押しつけられてメンタルのバランスを崩し、その「奇行」を面白おかしく報じられたりもした。しかし、2015年の『Purpose』で自分らしい表現を追求する「アーティスト」として復活。2018年にヘイリーと結婚して精神的な拠り所を手にしてからは、メンタル面も作品も安定期に入っている。昨年のパンデミックの最中にアリアナ・グランデとのコラボでチャリティソング「Stuck With U」を出したのも、いい意味でポップスター的な振舞いだっただろう。

そして通算6作目の『Justice』は、これまでの波乱万丈な道のりを経た上での、成熟したポップスターの理想的なアルバムとなった。つまり、自分がやりたいこと、スターとして果たすべき社会的責任、軽薄なポップ音楽として大衆に求められるもの――その3つがバランスよく共存しているのだ。

その音楽性のベースは、前作『Changes』で今の自分が本当にやりたいサウンドとして打ち出したR&B。ただ同時に、デュア・リパやザ・ウィークエンド最新作でブームが再燃している80年代ポップ調、ナイジェリアのバーナ・ボーイを迎えたダンスホール、キッド・ラロイをフィーチャーしたポストジャンル的ポップなど、今みんなが聴きたい旬なサウンドやゲストも的確に配置している。リリックは妻への愛と感謝をメインに据えつつ、パンデミックで不安を抱える人たちに寄り添う気持ちや、人種差別への抗議を表明することも忘れない。抜け目ないと言えばそうだが、そこでいやらしさを感じさせない上手さもある。何より、ジャスティン自身が楽しみながら作ったことが伝わってくるような風通しのよさが爽快だ。デビューから10年以上、今の彼が辿り着いた境地はとても魅力的に思える。


2. Lana Del Rey / Chemtrails Over The Country Club



あくまでポップスターという枠組みの中で自分の在り方を模索してきたのがジャスティンだとすれば、最早ヒットチャートで存在感を示すことに未練を見せていないのがラナ・デル・レイだろう。『Chemtrails Over The Country Club』は、あまりに現行のポップのトレンドからかけ離れたカントリー/ジャズ/フォーク路線。前作『Norman Fucking Rockwell!』(2019年)の70年代ロック/シンガーソングライター志向も完全なる独自路線で驚かれたが、それ以上に今作はディープで静謐――人によっては取っつきづらいとすら感じられるだろう。ジャスティンとデル・レイでは、どちらが正しいというわけではない。デル・レイのように、自分自身のアートを追求するために、これまでの富や名声を投げ出す覚悟で臨むのも一つの選択だ(前作以降、彼女の批評的な評価はかつてなく上がり、セールスは伸び悩んでいる)。

アルバムのハイライトは、やはり「White Dress」とタイトル曲。どちらも派手なフックはなく、2ndヴァースまでほぼビートレス。ともすれば、あっさりと聴き流せてしまうかもしれない。だが、メロトロンやレコードノイズなどを駆使した細やかな音の工夫は冒険心に満ち、聴き手次第で如何様にも解釈できる両義的なリリックはさり気ない社会批評性も感じられる。この達成だけでも彼女の挑戦は成功だと言っていい。

もっとも、デル・レイがポップのレースから離脱したことは、2010年代のポップが音楽的な斬新さを競うものではなく、ヴァイラル重視のマーケティング至上主義的な傾向が強まり、やや退屈になったことと裏表である。チャイルディッシュ・ガンビーノは2018年に「Feels Like Summer」のMVで加熱するポップゲームを地球温暖化に準えて批評的に切り取ったが、その翌年にデル・レイがそのゲームから降りることを宣言した最初のアルバム『Norman Fucking Rockwell!』を出したことは偶然とは言い切れない。2010年代的なポップの潮流が消費期限に達し、2020年代へと本格的に移行する端境期が訪れている――デル・レイの変化はそれを私たちに知らしめるものでもあるだろう。


3. St. Vincent / Daddys Home



音楽面のみならず、社会意識の面でも2010年代から前進し、新しい時代を定義すること。セイント・ヴィンセントの『Daddys Home』は、そこに極めて意識的に挑戦しているアルバムだ。

「パパがうちに帰ってきた」というタイトルは、実際に長年刑務所に入っていたヴィンセントの父親が刑期を終えて帰ってきたことからつけられている。本作の音楽的な影響源になったという70年代前半のロックやファンクも、幼い頃に父親がヴィンセントに聴かせていた音楽。その意味では、これは私小説的な要素が色濃いアルバムと言える。

だが同時に、ここには彼女の社会的主張も込められていると考えていいだろう。本作のタイトルをより抽象化して捉え直すと、「罪を犯した男性を如何に許せるか?」ということ。2010年代はトキシックマスキュリニティの問題が議論され、差別の是正が推進された。一方で、男性を含む差別の加害者にどこまで責任を負わせるのかという点でキャンセルカルチャーの問題も発生した。ヴィンセントは本作で、そうした2010年代に浮上した一連の議論を一歩先へと進めたいという意図もあったのではないだろうか。


4. black midi / Cavalcade



2010年代のポップを定義づけたスターの一人、ザ・ウィークエンドは元々アンダーグラウンドのミックステープカルチャーから登場した。それを思い返せば、2020年代に入った今再び、アール・スウェットシャツ『Some Rap Songs』以降のアンダーグラウンドヒップホップをはじめ、地下の胎動に人々の関心が向き始めているのはおかしなことではない。誰もが新たな時代の音がアンダーグラウンドの奥深くから聴こえてくることに期待しているのだ。

2010年代半ばから独自の濃密なアンダーグラウンドシーンを形成してきたサウスロンドンのインディバンドたちも、今年に入ってから次々とアルバムが全英トップ10入り。明らかに世間の注目度が変わってきている。ブラック・ミディの二作目『Cavalcade』は、そんなサウスロンドンへの期待に応えるかのように飛躍的な進化を遂げた。

ポストロック/ポストハードコアを下敷きにしつつ、予測不可能な目まぐるしい展開でジャズ、ノイズ、ポストパンク、クラシックなどがカオティックに混交される様は極めてスリリング。前作より遥かに緻密かつ構築的になったサウンドで緊張感を持続させながら、ときに爆発的なエナジーを放出して聴き手に強いカタルシスをもたらす。言わば、ここにあるのは「周到にコントロールされた混沌」だ。そして今、人々はその混沌の先に何かが生まれる瞬間を見逃さないように、彼らやサウスロンドン一派の動きにじっと目を凝らしている。

Edited by The Sign Magazine





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