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2CELLOSが振り返るチェロで起こした革命、音楽とファンに捧げた10年の軌跡

Rolling Stone Japan / 2021年9月17日 17時30分

2CELLOS(Photo by Olaf Heine)

「1960年代にジミ・ヘンドリックスをナマで観た時以来の衝撃」と彼らを大絶賛したのは、エルトン・ジョン御大だった。もちろんジミヘンをナマで観た経験を持つ人は限られているだろうが、恐らく2CELLOSは世界中の多くの人に、同程度のただならないインパクトを与えてきたに相違ない。突如クロアチアから現れたふたりの若きチェリストは、クラシック音楽のスキルと美意識を全開にして、新旧のロックとポップスの名曲を、そのエネルギーや高揚感を損なうことなく再解釈。あうんのケミストリーでラウドに、ファンキーに、精緻にチェロに鳴らし、ロック・ファン/クラシック愛好家を問わず、音楽を愛する世界中の人々を魅了してきた。

そんな異色のデュオが、しばしの充電期間を経て3年ぶり6作目のアルバム『デディケイテッド』を送り出す。これまで作品ごとに少しずつ新しい試みを取り入れて進化してきた彼らだが、エアロスミスからビヨンセに至るまでのヒット曲・代表曲をカバーしている本作では、言わば原点に回帰。改めて、2台のチェロで可能な限り多様でエキサイティングなサウンドを作り出そうという、基本的な課題と正面から向き合っている。ジャンルを超えた音楽への深い愛情と敬意をなみなみと湛えたこのアルバムで、新たなスタートを切るふたりが、キャリアを振り返ってくれた。

ちょうど10年前に活動を始めた2CELLOSの最新アルバム『デディケイテッド』は、いつになくポエティックな、モノクロームのジャケットに包まれている。ふたりのメンバー――ステファン・ハウザーとルカ・スーリッチ――は、どこか”チェロを抱えた旅人たち”といった雰囲気を醸していて。聞けば彼らの背後に延びている道は、過去10年間に自分たちが辿った道筋を象徴しているのだというが、その出発点を辿ると、2011年1月に公開されて世間を騒然とさせた1本の映像に行き着く。マイケル・ジャクソンのファンク・ロック・ソング「スムーズ・クリミナル」をふたりが2台のチェロだけでリメイクする、圧巻のパフォーマンス映像だった。「あれが全ての始まりで、プロを目指して音楽を学ぶ学生だった僕らは、ショウビズの世界に飛び込んだわけだ」と、ステファンは当時の状況を振り返る。



「ふたりとも、何も分かっていないキッズだったよ。こうして10年の月日が過ぎた今も、自分たちが何をやっているのか分かっていないんだけどね(笑)。でもトップからスタートしたんだから、いい始まりだったな。日々練習に打ち込んで、全てを音楽に捧げて、色んな想像を膨らませながら夢を追い続けていたら、最初から大きな扉が開いて、一番高いレベルでスタートを切ったわけだ。あのレベルを維持していくのは本当に大変だったし、スタート地点の自分たちに恥じないように、僕らはそれまで以上にハードワークをこなしてきたんだよ」。

そう、クロアチアのザグレブ大学付属の音楽院で出会い、以後ヨーロッパ各地の名門音楽学校で研鑽を積んで様々なコンクールで好成績を収めていたふたりは、クラシック界での将来を約束されたチェリストだった。しかし、ロックを筆頭に他の音楽ジャンルにも情熱を抱いていたことから、ふと”チェロでロックする”という斬新なコンセプトを思い付いて、デュオでの活動を本格化。「スムーズ・クリミナル」のバイラル・ヒットをきっかけに大手レーベルとの契約を手にし、「ミザルー」からU2の「約束の地」にニルヴァーナの「スメルズ・ライク・ティーンスピリット」まで、半世紀分のロックの名曲を独自に解釈した1stアルバム『2CELLOS』(2011年)で、スピーディーに世界デビューを果たすのである。

さらなる快進撃、ふたりのソロ活動

その後間もなく、有望新人を敏感に察知するエルトン・ジョンにツアーの前座に起用されるなどして、着実に知名度を高めてファンを増やした彼ら。2nd『イントゥイション』(2012年)と3rd『チェロヴァース』(2015年)では、曲によってゲスト・シンガーや鍵盤奏者を交えて音に広がりを持たせ、スティーヴ・ヴァイをフィーチャーしたAC/DCの「地獄のハイウェイ」などは大いに話題を呼んだものだ。

同時にアヴィーチーの「ウェイク・ミー・アップ」を取り上げたりと、ポップでダンサブルな楽曲でより軽快な表現を試みた2CELLOSは、4作目『スコア』(2017年)でまた趣向を変えて、映画とTVドラマのサントラに特化。ロンドン交響楽団とレコーディングを敢行し、あの『ゲーム・オブ・スローンズ』に使われた曲のメドレー(ミュージック・ビデオはドラマのロケ地であるクロアチアのドゥブロヴニクで撮影)などで、スケール感を究めた。そして続く5作目『レット・ゼア・ビー・チェロ』(2018年)は、クラシックあり映画音楽あり、ロックありポップありの集大成的なアルバムに仕上げていたが、ここまで『イントゥイション』を除く4枚が見事に全米ビルボード・クラシカル・アルバム・チャート1位に輝き、”クラシック・クロスオーヴァー”とざっくり総括されるアーティストたちの中でも、破格の成功を手にするのだ。




そんな快進撃を後押ししたのは、このようなハイペースなアルバム発表に加えて、やはり精力的に取り組んだツアー活動だろう。「どんなロックバンドと比べてもらっても構わない」とステファンがライヴ・アクトとしての自信を語るように、ふたりがステージで繰り広げる、まるで四つに組んでチェロで格闘するかのようなテンション溢れるパフォーマンスは、懐疑論者たちを黙らせるだけの説得力に不足ない。それゆえに彼らは、LAのハリウッド・ボウルやロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで満場のオーディエンスを沸かせ、3年前の来日時には日本武道館公演を売り切るほどの存在に成長したわけだが、2018年末になってようやく2CELLOSとしての活動をスローダウン。かと思えば、すぐに各自ソロでの音楽作りに取り掛かり、ルカはヴィヴァルディの『四季』に新たなアレンジを加えてアルバムを制作し、ステファンもエンニオ・モリコーネへのトリビュート作品から”サマー・ビーチ・パーティー”と題したラテン・ポップのカバー・シリーズまで多岐にわたる試みを行なって、充電期間をエンジョイすることに――。




「僕らはふたりとも、2CELLOSとしてはプレイできない、様々な音楽の形式に興味を抱いている。だからここにきて、ソロ・アーティストとしての活動に専念できて良かったよ。最終的にはそうすることによって、2CELLOSとしての活動もより面白いもの、かつ力強いものになる。今後は両方を並行して続けられるよう、努力するつもりなんだ。そうすることでミュージシャンとしても人間としても僕らは満たされるわけだから」(ルカ)。

「ビーチ・パーティーから厳粛な音楽に至るまで、僕らにはどんなことでも可能なんだ。そんなアーティストは滅多にいないよ。いや、ほかには誰もいないな。みんな専門的なエリアがあるものだけど、僕らの場合は選択肢が豊富なんだ。”お葬式から結婚式までなんでも承ります”ってね(笑)」(ステファン)。

最新アルバムのテーマは「原点回帰」

結果的に一連のソロ・プロジェクトは、ふたりのキャラクターや嗜好の違いを浮き彫りにし、”陰陽”と評すると大袈裟かもしれないが(もちろんルカが陰、ステファンが陽だ)、2CELLOSが典型的な補完的デュオであることを見せつけたと言えるのだろう。またステファンは、お互いからしばらく距離を置いて過ごしたことが、『デディケイテッド』にポジティヴな影響を及ぼしたとも指摘する。「さすがに四六時中一緒に過ごしていると、コラボレーションも難しくなるけど、休みを挿んで気分をリフレッシュしたせいで、レコーディングに集中できたんだ。久しぶりにふたりで一緒にプレイするのがすごくエキサイティングだったし、ツアーで多忙だった時期には、絶対にこのアルバムは作れなかったと思う。十分な時間を費やしたからこそ、納得のいく作品を完成させられたんじゃないかな」。

ではアルバムに着手した時には、どんなゴールを描いていたのか? 引き続きステファンが説明する。「頭にあったのは、原点に戻ることだった。本来の僕らの姿にね。2台のチェロだけで、ほかには何もいらない。余計なものは足さない。僕らはそうやって活動を始めたわけだから、”チェロをプレイするふたりの男”の姿を、改めて人々に見せたかったんだ」。なるほど、彼が言う通り今作は数曲にドラマーが参加しているのみでゲストはおらず、結成当時のテンプレートを踏襲。ドラマティックなロック・アンセムを中心に、エモーショナルな訴求力に秀でた曲を厳選し、ベースライン、ギターリフ、メロディ、グルーヴ、或いは空気感、それぞれのエッセンスを抽出して従来にも増して大胆な解体・再構築を行ない、2CELLOSの世界に落とし込んでいる。


Photo by Olaf Heine

例えば80年代からは、彼らが「史上最強のロック・アンセムかもしれない」と評するボン・ジョヴィの「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」や、スラッシュのアルペジオ・ギターをチェロで室内楽調に塗り替えたガンズ・アンド・ローゼズの「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」(「エンディングのクレイジーなギター・ソロをチェロで再現するのはかなり難易度が高かったよ」とルカ)をセレクトし、90年代からは、ブルースとバロック音楽のミックスするようにしてエアロスミスの「クライン」をカバー。また、共にルカの愛聴曲だというイマジン・ドラゴンズの「ディーモンズ」(「本当に美しくエモーショナルな曲でメロディはチェロでプレイすると最高なんだ」)やワン・リパブリックの「ホエアエバー・アイ・ゴー」(「リズミカルでありながら同時にメロディックでもある曲だね」)といった、モダンなロック・アンセムにも光を当てている。さらにその合間では、最近のポップソング――エド・シーランの「アイ・ドント・ケア」やビリー・アイリッシュの「バッド・ガイ」――でグルーヴ表現を掘り下げるなど、演奏のアプローチはミニマリストながら、ヴァラエティには事欠かない。

「やっぱり新しい曲もやらなくちゃいけないし、もちろん古い曲もやらなくちゃいけない。だから、古典的なロックの名曲やバラードを新しい曲とミックスして、バランスのとれたアルバムを目指したのさ。若い世代にも大人のリスナーにも、みんなに楽しんでもらえるようにね。僕らは常に、7歳から77歳までをターゲットにしているんだよ(笑)」(ステファン)。




中でもハイライトを挙げるとしたら、ルカが「まさに後光(halo)を想起させる」と自負するビヨンセの「ヘイロー」、もしくは、映画『アリー/スター誕生』の主題歌「シャロウ~『アリー/スター誕生』愛のうた」だろうか。レディー・ガガとブラッドリー・クーパーが歌った極上のメロディを丹念にチェロでなぞる後者は、その美しさを幾重にも引き立てている。

「ぶっちゃけた話、ゴミみたいな音楽ばかりの今のご時世、いい曲なんて滅多に見つからないんだよ。だから『シャロウ~』のような素晴らしい曲に出会った時には、迷わず取り上げないと(笑)。しかもバラードだというのも、最近では珍しいよね」(ステファン)。



こんな辛辣なポップ批評も、彼らがいかに普段から多様な音楽に触れ、こだわりをもって選曲にあたっているかを物語っているというものだ。殊に『デディケイテッド』は、10周年を意識して気合いを入れて完成させた作品でもあり、”捧げる”を意味するアルバムタイトルにも、ふたりの真摯な想いが反映されている。彼らが音楽に注ぐ情熱とファンへの思い入れを示唆していることは言うまでもないが、ここには、”dedicated”と”decade(10年)”の響きの近似性に目を付けた、言葉遊びも含まれているのだとか。

「つまり、”音楽とファンに自分たちを捧げてきた10年間を祝う”というような感じだね。10年前を振り返ると、思わずハッピーな、素敵なスマイルが顔に浮かぶんだ。あれから僕らは色んな体験をしてきたけど、今でもこうして元気にやっているし、今もいたってノーマルだよ」(ルカ)

「うん、ふたりともドラッグもやらないし、酒もそんなに呑まないし、すごくヘルシーだね。なぜって僕らはそういう風に育てられたんだ。ごく普通の家庭で育ち、しっかりした価値観を身に付けて、自分を律することができる人間になった。そもそもチェロの練習に忙しくて無駄にできる時間なんかなかったし、甘やかされていない。どれだけ成功しようと、どれだけお金を儲けようと、ブレたりしないのさ。そんな幼い頃からの体験が、今の人生の強固な土台になったんだよ」(ステファン)。



2CELLOS
『デディケイテッド』
発売中
視聴・購入:https://lnk.to/2CELLOS_DedicatedRJ

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