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チャイルドシートで拉致、性的人身売買業者「陰謀論」の動画が拡散されるまで

Rolling Stone Japan / 2021年10月20日 6時45分

イタリア、シシリア島のカターニア(Photo by Getty Images)

「このようなチャイルドシートを突然見かけたことはありませんか?」。TikTokの動画で女性がこう尋ねる。彼女が指さす先には、駐車場に打ち捨てられたチャイルドシートのFacebook投稿写真。「これはごく普通のチャイルドシートじゃありません……実は罠なんです」。これは無防備な被害者を拉致して性の奴隷とするために、性的人身売買業者がおとりとして置いた「人身売買用のチャイルドシート」なのだ、と女性は続けた。

【画像を観る】「性奴隷」にされた自己啓発団体の被害者たち

「もし無作為に置かれたチャイルドシートを見かけたら、電話してください。ホットラインに電話して知らせてください」とその女性は締めくくり、性的人身売買ホットラインの番号を示した。「チャイルドシートをこんな風に放置する親なんて1人もいません。相手はあなたがチャイルドシートに近づいて辺りを見回している間に、素早くあなたを拉致するつもりです」。その女性は次の動画で、自分が住む町の歩道でも同じチャイルドシートを見かけたと主張したが、2本目の動画に映るチャイルドシートは最初の投稿写真に写っていたものとは違っていた。

動画を投稿した女性は@princessbellesunflowerことペイジ・マリー・パーカーさん。12万2000人のフォロワーを抱えるTikTokユーザーで、ソーシャルメディア上でタロット占いを提供する自称「スピリチュアル・ガーデナー」だ。人身売買の専門家という肩書がないにもかかわらず、彼女の動画は大々的に拡散し、投稿されてからたった1日で1220万回も閲覧された。

パーカーさんはローリングストーン誌に宛てたDMで、動画を投稿したきっかけは友人がFacebookにあげた「チャイルドシートの罠」という投稿だったと語った。ドライブ中に2つのチャイルドシートが歩道に捨てられているのを見るまでは、大して深く考えていなかったという。彼女はTikTok動画を投稿する前に、人身売買ホットラインに連絡した。「世間が気づいているかどうか確かめたかったんです」と本人。

10月12日、ウィルクスボロ警察はチャイルドシートの噂に関する投稿をFavebookに公表した。そこにはパーカーさんの動画にあった写真も載っていた。だが、人身売買業者が写真のチャイルドシートを使ったとは一言も書いていない――実際のところ内容は正反対だった。「添付された写真はFacebookに投稿され、ウィルクスボロのWal-Martであった出来事ではないかとの噂が広まりました」と、10月12日付の投稿には書かれている。「問題の投稿には、人身売買業者が犠牲者を誘い込むために駐車場にチャイルドシートを放置した、と言及されています。ウィルクスボロ警察はこの件を調査し、チャイルドシートが駐車場に放置されていた状況を突き止めました」

警察の投稿によれば、Wal-Martの顧客2名が新しいチャイルドシートを購入して車に装着し、古いほうを駐車場に捨てただけだったという。「何らかの犯罪活動に関与しているようすは全くありませんでした」と締めくくられていた。パーカーさんの動画が26万4000人以上にシェアされていたのに対し、警察の投稿をシェアしたのはわずか255人だった。


全米人身売買ホットラインには電話が殺到

ウィルクスボロ警察のフォローアップ投稿で動画の背景を知った一部の人々は、パーカーさんのアカウントに動画の削除を求めるコメントをした。TikTokで人身売買にまつわる誤情報を暴いているTikTokクリエイター、@BloodBathBeyondことジェシカ・ディーンさんもこれに加わった。「なぜ社会は、ワイリー・E・コヨーテがロードランナーを捕まえるのと同じやり方で人身売買が行われていると賛同するのでしょう? 私にはまったく理解できませんが、実際の人身売買はまったく違います」と、ディーンさんは動画で語った(この暴露動画の閲覧回数はたったの2万回。パーカーさんのTikTok動画と比べるとはるかに少ない)。

Polarisが運営する全米人身売買ホットラインでディレクターを務めるミーガン・カッター氏の話では、ホットラインにはこの24時間だけで、パーカーさんの動画に基づいた「かなりの数の」タレコミ電話が寄せられているという。「皆さん電話をかけてきて、TikTok動画と同じことを繰り返すんです。投稿でそうしろと要請しているんですから、当然ですね」と彼女は言う。「問題にもなりかねません。我々は助けを求める犠牲者ではなく、こうした電話に対処するために時間と人員を割き続けているのですから」。カッター氏いわく、人身売買業者が被害者をさらう目的でチャイルドシートを置く、というのは「我々が把握しているパターン、あるいは犠牲者から聞いたパターンとも一致しません」

こうしたフィードバックに対し、パーカーさんはあくまでも主張を貫いているようだ。ローリングストーン誌に語ったところは、ウィルクスボロ警察が投稿したことは知っているものの、「でもやっぱり、社会では何か起きているような気がします。私の投稿があんなに拡散したってことは、同じように感じている人が大勢いるんだと思いますよ。他にもFacebookやTikTokにはおかしな行動を収めた動画や写真がたくさん投稿されています。信じているのは私だけじゃありません」。彼女は問題の投稿をこのままアップして、周囲に「目を光らせる」ようメッセージを発信するつもりだ、と言った。「この問題について黙っているべきだ、と皆さんに感じてほしくないんです」(現在動画は既に削除されている)


恐怖を売りにしたコンテンツはあっという間に拡散される

パーカーさんが投稿でシェアしたような性的人身売買に関する露骨な誤情報は、いまやTikTokの隅々まで広がっている問題だ。TikTokのアルゴリズムは次第に、高いエンゲージメントを稼ぐ確率の高いセンセーショナルなコンテンツを宣伝する傾向にある。例えば去年の夏には、性的人身売買業者がWayfair社の高級家具を隠れ蓑にして子供を密輸しているという陰謀論があったが、最初に拡散したのはTikTokだった。ごく最近では4月、人身売買業者が全米のスーパーマーケットTargetの店舗で被害者を物色しているという噂が同アプリで話題になった。「パニックを引き起こす動画はエンゲージメントが非常に高いんです」。TikTokの誤情報を研究するアビー・リチャーズ氏はかつてローリングストーン誌にこう語った。「誰かが『大変だ、こういうことが自分の身に起きた』と言うのを見ただけでたちまち広がります。恐怖を売りにしたコンテンツはあっという間に拡散します」

こうしたコンテンツはアメリカの性的人身売買の現実を見えにくくする。見知らぬ他人が暗闇の陰に隠れて、無防備な被害者を拉致しようと待ち構えるということはめったにない。性的人身売買の発生件数に関して信頼できるデータはほとんどないものの、Polarisをはじめとする反人身売買団体によれば、被害者の大多数は権利を奪われた人々――例えばホームレスのLGBTQの若者や規制薬物中毒者など、すでに仲介者を知っているケースがほとんどだ。

チャイルドシートのデマのような話題が拡散すると、実際の人身売買の被害者に重大な害が及ぶこともある、とカッター氏は言う。「ソーシャルメディア上に間違ったセンセーショナルな話が流れ、それが人身売買に関する話題の主流になれば、実際に人身売買の経験者はそうした話に自分たちを重ね合わせることができなくなることもあり得ます」と彼女は言い、こうした拡散動画によって反人身売買団体のリソースが逼迫し、かつ実際の犠牲者が助けを求めにくくなっている、とも付け加えた。

ローリングストーン誌はTikTokにコメント取材を求めたが、TikTokから返答はなかった。だが問題の動画が今後削除されようとされまいと、残念ながらこうした拡散動画の実情――今回の場合は、2人の客が新品を買って古いチャイルドシートを捨てただけ――は、見知らぬ男が潜伏して駐車場で無警戒の女性をさらう、という話よりもずっと面白みに欠ける。

「ごみを捨てるのはよくないことですよ」とディーンさんも言う。「大そうな陰謀論をでっち上げるより、面倒くさがりな人に腹を立てたらどうですか?」

【関連記事】家具に子どもを閉じ込め人身売買? 米国発の陰謀論「Wayfairゲート」が拡散中

from Rolling Stone US

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