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D.A.N.が語る、多層的な世界に隠されたイメージとリアリティ

Rolling Stone Japan / 2021年10月27日 0時0分

D.A.N.(Photo by Taro Mizutani)

前作『Sonatine』からおよそ3年の月日を経て、D.A.N.による待望の新作『No Moon』がリリースされた。通算3枚目となる本作は、かねてより彼らのサウンドに内包されていた「SF的世界観」がより顕著な形で表出。光と闇、生と死、現実とヴァーチャルといった「境界線」を行き来するような歌詞の世界、多層的かつ多次元的なバンドアンサンブルはこれまでになくカオティックかつ肉感的だ。

新型コロナの感染拡大によるステイホームが続き、次第に平坦化していく私たちの暮らしや心を「月が消滅した世界」に喩えながら、それでも次のフェーズを模索する櫻木大悟(Gt, Vo, Syn)、市川仁也(Ba)、川上輝(Dr)の姿が刻まれた本作は、彼らの新境地であり最高傑作といっていいだろう。

─今作『No Moon』は、前作『Sonatine』の頃からあった「SF的な要素」をより強く感じます。以前のインタビューで川上さんが、櫻木さんの歌詞は日常の情景とSFっぽい描写を突然結びつけることで、「今いる場所の揺らぎ」を表現しているとおっしゃっていましたが、今作でもそういった表現が散りばめられていますよね。例えば「Floating In Space」の、”偶然拾った 惑星の破片”というラインだったり、「Bend」ではそれこそ”ファンタジーと現実のあいだ”と歌っていたりしていますし。光と闇、生と死、現実とヴァーチャルといった「境界線」を描いているのは、コロナ禍で「死」をより身近に意識したことによって、それがよりリアルに立ち現れてきた感覚があるからなのかなと思ったのですが。

櫻木大悟:今おっしゃったようなことももちろんそうですし、過去、現在、未来を多次元的に交差させたくなったというか(笑)。いろんなレイヤーがあって、いろんな出来事があって、それに付随していろんなことが派生していくような、そういうマトリックス的なイメージが頭にあり、それを音像化したかったのかもしれないです。

─多元的な世界観というのは、映画でいうと例えばクリストファー・ノーラン監督作『インターステラー』で描いていた4次元超立方体テラサトの空間や、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作『メッセージ』におけるヘプタポッドの時間観念みたいなもの?

櫻木:あるいは、『TENET』の逆行時間とか。もともとそういうものからインスピレーションは受けていたと思うんですけど、より自分たちの演奏やソングライティングのスキルが追いついてきて、音像やアンサンブルとして表現できるようになったのが大きいと思います。例えば、生ドラムとリズムマシンを混ぜていくとか、仁也だったらチェロとかベースをレイヤーしていくとか、それぞれがいろんなレイヤーを持ってきて組み合わせていくことで、今までよりも多層的なサウンドになっていったのかなと。

─なるほど。今作を聴いたときに最初「プログレッシヴな作品だな」と思ったんですけど、様々な展開が1曲の中に組み込まれていたり、アンサンブルがより複雑になっていたりするのは、そういう多層的、多次元的な世界観を表現しようとしていたからなのですね。ちなみにアルバムタイトルの『No Moon』にはどんな由来があるのですか?

櫻木:本作の最後に収録されている曲が、アルバム全体を象徴していると思ってそのタイトルを持ってきました。「月が消滅してしまった世界」を想像して作ったというか。月の持つエネルギーとは全く正反対の波動によって、月が打ち消され失われた世界をこのアルバムでは描いていると思ったんです。

 D.A.N. - No Moon





「今の僕らの状態を、月が消滅した世界にオーバーラップさせている」

─そういえば、アルバムの中でインタールード的な役割を担っている3つのインスト曲には「逆位相」を意味する「Antiphase」というタイトルがついています。逆位相とは、位相が正反対の波を重ねることで、お互いの音を打ち消し合う現象のことですが、今おっしゃった月が消滅する話とも通じますね。

櫻木:まさにそうで、月の正位相に逆位相を合わせると「No Moon」の状態になるという。思えばこの1年半、これまで生きていた我々の波動みたいなものが、コロナによって完全に打ち消されてしまったわけじゃないですか。そういう意味でコロナ禍はまさに「Antiphase」な状態というか。正反対の波動の狭間に立たされて、どんどんしんどくなっていく今の僕らの状態を、月が消滅した世界にオーバーラップさせているわけです。

─まさに『TENET』における、反粒子と粒子の「対消滅」を彷彿とさせます。

櫻木:確かにそうですね(笑)。「消滅する」という意味では確かにイメージは近いけど、ただ『TENET』のように世界そのものが消滅するというよりは、月という象徴的なものがなくなってしまった我々の胸に、ぽっかり穴が空くような感じ……死にはしないのだけど、重要なモチーフが欠落した状態でも生きていかなければならないという、

─死にはしないけど、少しずつ心の空洞が広がっていくような。

櫻木:月が消滅したことで、自然環境や生態系が崩れたり、僕らの身体や精神にも異変が起きたりするかもしれない。何か大切にしていたものが失われることの象徴として、ここでは月を挙げていますけど、それぞれが大切に思っているものに置き換えてもらえば、僕らがここで言わんとしていることも理解してもらえると思います。いずれにせよ『TENET』は相当インスパイアされましたね。何回も劇場へ観に行きました(笑)。

市川仁也:映像的にも『TENET』のインパクトはデカ過ぎましたね。3人ともそれにかなり引っ張られたままアルバム制作に入っていったので。あとは、さっきおっしゃっていた『インターステラー』からのインスピレーションも大きいです。個人的には相対性理論や量子力学の解説動画などをYouTubeでいろいろ観て、「宇宙ってそんなヤバイことになっていたのか」と思ったのも『インターステラー』の影響だし(笑)。

D.A.N. - The Encounters [feat. Takumi (MIRRROR) / tamanaramen]





「自分たちの内側からマインドを変えていく」

─ちなみにコロナ禍で3人はどのようなことを考えていましたか?

櫻木:コロナ禍になって1年くらいは、それ以前の世界に戻りたいという気持ちが大きかったんですけど、それだとどんどん苦しくなることがわかってきて。であれば、自分たちの内側からマインドを変えていかなければいけないんじゃないかって。アルバムを作りながらそんなことを考えていました。

市川仁也:コロナ以前から人々が漠然と抱えていた「不安」が一気に形を帯びて、目の前に突き出されたのがこの1年半だったと思います。経済的な不安や人に会えない不安、もちろんコロナそのものへの不安や、それを含めて「今後どうなっていくんだろう?」という将来への不安。そういうものと、否が応でも向き合わなきゃいけないような状況になり、いろいろと考え過ぎてしまう人もいたのだろうなと思います。

川上輝:コロナ禍になってしばらくは、希望がなくなってしまった感じはありましたよね。特にしんどかったのは、監視社会のような状況になってしまったこと。SNSとか異様な雰囲気というか、誰かを吊し上げることが日常的になっていたし、音楽に携わっている人たちが虐げられているような気持ちにもなりました。「変な世の中になってしまったなあ」と思って最近はネットも見ないようにしていますけどね。

市川:僕らには音楽があって、曲を作るという行為でなんとか心を保っていられたというか。曲を位作っている時は、いつもと変わらないテンションでいられるので、音楽に救われる部分は多かったですね。今のこの状況に適応していくまでの間は、特にそのことを強く感じました。

川上:今できることをやるだけですよね。いろんな意見がある中、大きな流れをいかに掴むかが大事だと思うし、そこを見逃さないようにして活動を続けていけばいいのかなと思っています。

─アルバム冒頭曲「Anthem」にも、”Revolution For Changes”などコロナ禍で生まれたと思しきフレーズも入っていますよね。

櫻木:はい。誰もが聴いて盛り上がってくれるような、文字通りアンセムみたいな強力な楽曲が作りたくて。

D.A.N. - Anthem



─この曲は櫻木さんのラップを大々的にフィーチャーした新境地ともいえる内容です。前回のインタビューでUKのラッパーを聴いていたとおっしゃっていましたが、その影響もあるのかなと。

櫻木:おっしゃるとおりで、BBC Radio 1Xtraという今イケてるラッパーの曲がずっと流れているUKのラジオチャンネルをよく聴いていました。今までずっとミニマルな、渋さみたいなものをD.A.N.は追求してきたわけですが、渋いだけだとつまんないなと最近思うようになってきて。例えばスケプタやパ・サリエウみたいな、ちょっとチャラくて「あがるっしょ!」みたいな要素を(笑)、今までのアンサンブルにいいバランスで配合したいなと思ったんです。

─いいバランスというか、これまでの櫻木さんのイメージをひっくり返すくらいのインパクトがありますよ。

櫻木:(笑)今までの自分のスタイルをいったん捨てて、新しい自分を楽しむのも一つのテーマでしたね。それこそさっき言ったような、「自分たちの内側からマインドを変えていかなければ」みたいなこととも繋がっているのかなと思います。「自分」というものの枠組みを決めてしまわず、いろんなことを「自分である」と思うというか、むしろ「自分を持たない」ということなのかもしれないです。


「今回は『とにかく勢いよくやろう』」

─「Fallen Angle」のノイズをレイヤーしていく中盤も、今までのD.A.N.にはなかった展開だなと思いました。

櫻木:ああ、確かに。ちょっとロックっぽいエッセンスが加わっていますよね。

D.A.N. - Fallen Angle



─しかも、何か動物の鳴き声のような音が入っていませんか?

櫻木:よく気づきましたね(笑)。あれは狼の遠吠えを混ぜているんです。輝のアイデアだったんですけど、すごくいい隠し味というか、アクセントになったなと思っていますね。

川上:どこか寒い地域の、針葉樹がたくさん聳え立っているような場所で、月夜に照らされた狼が遠吠えしているイメージをこの曲に感じたんです。ちょうど『バイオハザード』のゲーム実況をよく見ていたときに思いついたから、そこからの影響もあるのかもしれない(笑)。新作『バイオハザード7 レジデント イービル』が割とそういうトーンなんですよ、ブルーグレーを基調としていて。

─ゲームからのインスピレーションも結構あった?

川上:ありましたね。映画やゲームはまさに、日常と地続きでありながら今まで見たことのない世界をリアルに見せてくれるので。例えば『DEATH STRANDING』とか、コロナ直前に発売されたのに今の分断された世界を見事に予見しているというか。ゲームデザイナーの小島秀夫さんは、『メタルギアシリーズ』もそうですが以前から核心をついてくるゲームをたくさんつくっていて。今回もこのタイミングであんな作品を世に出すなんて天才だなと思いましたね。

─市川さんは、アルバム制作中にどんな音楽を聴いていましたか?

市川:大悟から教えてもらったオリバー・コーツというアーティストをよく聴いていました。レディオヘッドやローレル・ヘイローの作品や、ジョニー・グリーンウッドが手掛けたサントラに参加しているチェロ奏者で、エレクトロやアンビエントっぽい作品も作っている人なんですけど、以前話したように最近チェロを始めたのもあって、彼の持つメロディセンスやチェロの使い方、エフェクトのかけ方など今作でも結構影響を受けている気がしますね。    

大悟がロンドンから帰ってきたときに、レゲトンとグライムにドハマりしていて(笑)。「マジでやばかった」と言っているのを聞いて、僕もそれに感化されてミニマルテクノや渋いハウス、ダブステップ、ベースミュージックなど去年あたりから色々掘っていました。グライムのアーティストがライブをやっている動画とか見ると、カットインの仕方とかめちゃめちゃ雑で(笑)、それが逆にカッコ良かったりするんですよね。

─なるほど。

市川:これまでのD.A.N.は、いかにスムーズに楽曲が進んでいくか、流れるような展開を緻密に構築できるか?みたいなところに美学を見出していたけど、今回は「とにかく勢いよくやろう」みたいな感じで、展開や構成なんかも強引に変化させていくとか、そういうアプローチが多くなったのは明らかにこの辺の音楽の影響だし、やっていてとても楽しかったですね。


小林うてなとの邂逅

─ところで今作には小林うてなさんが、1stアルバム『D.A.N.』以来の参加を果たしていますね。

櫻木:「Floating In Space」が出来上がったときに、うてなにも歌ってもらったら世界観がより広がるかなと思ったんです。僕の歌とのコントラストにもなるし、この曲のダークな音像は、スティールパンも含めた彼女自身の存在感ともすごくマッチするだろうなと思って。まずはそういう経緯で協力していただいて、そこから「Anthem」にも参加してもらいました。D.A.N.にとってうてなは欠かせない存在だと改めて思いましたね。

─最近はまたD.A.N.のライブにも、サポートメンバーとしてうてなさんが加わるようになりましたよね。

川上:人は変化するし関係性も変化していく中で、一緒にやりたい時もあれば、そうじゃない時もあって、それがまた巡り巡ってこうやって一緒にやれているのはありがたいことだなと思っています。

─先日うてなさんにインタビューした時、D.A.N.について尋ねたところ、「出会った頃から3人がどんどん進化していくから、それに応えられるように自分もアップデートしなきゃという気持ちにさせてくれる」とおっしゃっていたんです。

櫻木:逆に、僕らが少しずつ彼女に追いついてきたと思っていますけどね(笑)。もともと彼女はすごく才能があるし、いろいろなことを器用にこなせる方なじゃないですか。音作りに関する話とか、やっと僕らも対等に話せるようになってきたのかなと思っていますね。

<INFORMATION>


3rd album 『NO MOON』
D. A. N.
SSWB / BAYON PRODUCTION
発売中

1. Anthem
02. Floating in Space [feat. Utena Kobayashi]
03. The Encounters
feat. Takumi (MIRRROR) / tamanaramen]
04. AntiphaseⅠ
05. Bend
06. Fallen Angle
07. AntiphaseⅡ
08. Aechmea
09. Take Your Time
10. Overthinker
11. AntiphaseⅢ
12. No Moon

 digital link
https://ssm.lnk.to/NoMoon

<Normal CD>
Price:¥2,800+TAX
Catalog No.:XQNM-1001 (SSWB-013)
Jan code : 4562350464414
Format:CD

<Premium BOX>
Price:¥8,000+TAX
Catalog No.:XQNM-91001 (SSWB-014)
Jan code : 4562350464452
①CD|②T-Shirts|③Photo Card|④Remix CD|⑤ステッカー

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