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オリヴィア・ロドリゴ×アラニス・モリセット対談 若くしてスターになった二人の共感

Rolling Stone Japan / 2021年11月2日 19時0分

オリヴィア・ロドリゴ、アラニス・モリセット(Photo by Yana Yatsuk for Rolling Stone)

オリヴィア・ロドリゴが経験した怒涛の一年を理解できる人がいるとすれば、アラニス・モリセットだ。互いに相手の音楽の大ファンだという2人のソングライターは、この日が初顔合わせ。太平洋を眺めるサンフランシスコの倉庫で、黒のブレザー姿で対面した。アラニスは目にも鮮やかな真っ赤なヒールで決め、かたやオリヴィアは履き心地がいい(本人談)厚底レザーブーツで、今にもディスコに繰り出そうかというファッションだ。

対談前に、ハロウィンや(オリヴィアが大好きな祝日)ドイツなど(アラニスは子供の頃に一時期住んでいた)他愛もないおしゃべりをする2人。やがてプライベートな話題になると、タトゥーは入れているか、とアラニスがオリヴィアに尋ねた。「いいえ! まだ18になったばかりだから!」と、オリヴィアが笑いながら言う。「一つ入れたら、もっと入れたくなるような気がして」。そこへ憧れの人物が一言アドバイス。「既婚の47歳でない限り、タトゥーなんていれるもんじゃないわ」




オリヴィアとアラニスは30歳近く離れているが、どちらも多様な道のりを辿ってきた。2人とも子役としてスタートし(オリヴィアはDisney+の『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』、アラニスはカナダのコメディ番組『You Cant Do That on Television』に出演)、音楽活動に専念するや予想外の大成功を収め、胸の奥をつぶさに語ることで失恋という普遍的な感情を揺さぶった。ヒットシングルのミュージックビデオでは、2人とも車を走らせ、交錯する感情を行き来している(「Drivers License」「Ironic」)。

「普通なら曲作りではあまり語らないようなことを、あなたはとても正直に語ってますよね。そういうところが大好き」と言うオリヴィアは最新アルバム『Sour』が絶好調。今年もっともストリーミングされた一作となった。「あら、あなたも同じでしょ」と答える47歳のアラニスは、『Jagged Little Pill』リリース25周年ツアーの真っ最中だ。「すごく嬉しいの。さんざん寄り道したけど、いつかきっとあなたみたいな人に会えると思ってた」

「やだ、どうしよう」とオリヴィア。「顔が赤くなっちゃう」

まずは「自分のために」曲を書く

オリヴィア:13歳の時に衝撃を受けたのを覚えています。両親と車に乗りながら『Jagged Little Pill』を聴いていた時だった。「Perfect」が流れて、「なにこれ」って思ったんですよね。それから数日後、音楽の先生に「先生もこういう曲が書けますか?」って聞いちゃった。そこから音楽や作曲に対する見方がガラリと変わりましたね。

アラニス:あの曲のテーマは何だったかしら? 完璧主義? それとも意識の流れについて?

オリヴィア:私や友達のみんながずっと切に感じていたことだったと思います。そういうことを、他の人が口にするのはそれまで聞いたことがなかった。普段の生活でも、会話でも、ましてや流行りの曲の中でも。

あなたが歌うようなテーマは、なかなか歌えるものじゃない。あなたにとっては大変ではないかもしれないけど、聴く側にしてみたら……。ロックダウン前にブロードウェイでミュージカル版『Jagged Little Pill』を見に行って、そこで初めて「So Unsexy」を聴いたとき、「こういうことを全部言えちゃうなんて、信じられない」と思ったのを覚えています。自分のすごく弱い部分、胸の奥にある部分。この時あらためて思ったんですよね、「ああ、曲作りって私が想像していたよりもずっとすごいことなんだ」って。

アラニス:あなたがどうやって曲作りをするかわからないけど、私の場合はまず自分のために曲を書くの。部屋に一人きりでね。

オリヴィア:私もいつもそう。

アラニス:それが世間で共有されると、もう私のものではなくなる。私のストーリーであることには変わりないけど、他の人の解釈を聞くと興味をそそられるわね。私の経験と全く同じこともあるし、私の育った環境とはまったく関係ないところもある。聴く人によって、いろんな風に受け止めてもらえるの。

でも、曲作りは文字通り一人きりになって、胸の奥をさらけだすところから始まる。嬉しいことに、みんながあなたと同じようなことを言ってくれるの、「ワオ、なんて勇気があるんだ」って。どの辺がそうなのか不思議なのよね、自分にとっては勇気があるとは思わないから(笑)。ただ、やらなくちゃいけないという感じ。自分がそうしないと――こういう形で自分を表現しないと、あっという間に具合が悪くなるんじゃないか、という気がして。

オリヴィア:おもしろい!


Photographed by Yana Yatsuk for Rolling Stone. Produced by Walaa Elsiddig and Jenny Martin. Morissette: Styled by Sara Paulsen for Art Dept. Hair styled by Marcus Francis for A-Frame Agency. Makeup by Rachel Goodwin for A-Frame Agency. Jacket by Nanushka. Anine Bing T-shirt and Mother pants from Shopbop. Earrings by Andy Lif. Rodrigo: Styled by Chloe + Chenelle for A-Frame Agency. Hair styled by Clayton Hawkins for A-Frame Agency. Makeup by Molly Greenwald for A-Frame Agency. Sweater by AREA. Pants by Marine Serre.


アラニス:あなたはどう? やらなくちゃ、という感じ? 曲を書いたり自分を表現していないとおかしくなりそう、みたいな?

オリヴィア:私は毎日曲を書くようにしています。だから私も一緒ですね、純粋に自分のために書いてる。「誰もが気に入って、共感できるような曲を書こう!」ってピアノの前に腰を下ろしても、上手くいかないと思う。

私もずっと曲を出してきたけど、どれももう私のものじゃない。「わあすごい、このアーティストは私のためにこの曲を書いたんだ、今の状況にぴったり」と思った曲は数えきれないほどあるけれど、でも実際はそうじゃないんですよね。わかります?

アラニス:うん、その通り!(笑)

オリヴィア:100%そう。私がいま経験していることは一から十まで、アーティスト本人も経験済み。でも、ここがアートの素晴らしいところなんだけど、自分の人生の一部分を切り取って、それらの隙間を埋めることができる。相手がそこに投影するものをコントロールしようとすると、魔法は消えてしまう。

アラニス:投影が度を超すこともあるわね。でも、世間の目にさらされている人、とくにアーティストは、間違って社会活動家になっちゃった感じがする。だって、世間は私たちというスクリーンの上になんでもかんでも投影するんだもの。照明を当てて、間違ったことや嫌っていることを投影する。小さいころ――多分7歳だったかな、父が教えてくれたことがあるの。「いいかい、お前に対する世間の受け止め方は3種類ある。みんなから愛されて、やることなすこと何でもOKという状態。みんなから嫌われて、やることなすこと何でもダメな状態。それから全く気にかけてもらえない状態。そのどれかしかないから、がんばれ!」

この言葉がずっと頭に残ってた。結局周りの人々はみんな、自分がある程度分かってもらえている、理解されていると感じたいのよね。私は今ツアー中なんだけど、毎晩ステージの上でいろんなことを目にして、いろんなことを感じられる。あなたがライブパフォーナンスでどう感じるかわからないけれど、撹拌機みたいな感じなの。エネルギーをとらえて、錬金術みたいに体の中から絞り出して、さらに取り除く、みたいな。

オリヴィア:面白い表現!

デビューアルバムの成功にどう対処した?

オリヴィア:おかしな話だけど、私はまだちゃんとしたライブをやったことがなくて。隔離期間中にレコードを出したから。

アラニス:そうだったわね。どうだった?

オリヴィア:正直、大満足です。1stシングルを出して、それが上手くいって、こんなに早い段階で成功するなんて思ってもいなかった。今までやっていたみたいにベッドルームで曲を書いていなかったら、実際より頭でいろいろ考え過ぎていたかもしれない。

アラニス:ということは、曲がリリースされて、世間の反応を全く予測していなかった。そこへきて大勢の人から大歓迎されたわけね。最初はどうやってそれに対処したの? もちろん今もその渦中にいるわけだけど。

オリヴィア:私たちはデビューアルバムがものすごく大ヒットしたという、似たような経験をしていますよね。それって不思議な気分じゃないですか。少なくとも私にとってはあっという間でしたね。一夜にして変わったみたいな感じ。私は5歳の頃から仕事して、ずっと曲を書いてきたから、決して一夕一朝ではありません。でも、「ベッドルームで曲を書いてました」っていう状態から「どうしよう、大勢の人がこの曲を知ってる」という状態になるまでは本当にあっという間だった。もちろんものすごくラッキーだと思います。でも時々、自分とは関係ないような感じがしてしまって。

アラニス:自分事じゃなくなるのよね。

オリヴィア:そう。クリエイティビティには魔法のような素晴らしい力があるとずっと思ってるし、素敵な曲を届けるのが自分なら最高ですよね。でも、自分とは何の関係もないこともある。曲にあまりエゴを持ち込まないようにしているんです。

アラニス:それは非常に賢明ね。



オリヴィア:あなたはアルバムが出た時、どう対処したんですか? 批判や注目に対応するのに苦労した?

アラニス:もう見世物小屋状態よ。いじめられたこともたくさんあったし、嫉妬されたこともあった。憧れの存在だった人たちが、実は意地悪な女の子だったとかね。

オリヴィア:私も同じ!

アラニス:22歳になったころに批評を読むのは止めた。私個人の成長や進化とは全然関係がないから。頼まなくても、私が見落としている部分を指摘してくれる人は周りにたくさんいたしね。それにセラピー好きだから、いつも大勢のセラピスト軍団がいる。でも結局は、「誰にわかってもらえているか」ってところに落ち着いた。

オリヴィア:私も同じような経験をしました。ソーシャルメディアの時代に音楽を出すのは、時にすごく厄介なことで。若い女性に対して、信じられないくらい非現実的な基準を押し付けてくるでしょ。私もあなたと同じように、今はもう見ないようにしてる。

みんなそういうのを見なくてもいいと思うんですよね。私たち人間は本来、大勢の人が着るものや口にすること、話し方についてどう考えているか、知らなくていいと思う。そういう線引きをもつことがすごく大事。そんなのリアルな人生じゃない、って気づくことがね。そうでしょう? そういうのはオンライン上に作られた世界で、人類という大きな存在の一面でしかないわけで。

アラニス:Instagramとかについて意見を聞かれるんだけど、あれはクリスマスシーズンのNYのショウウインドウと同じだと思う。見せるためだけのもの。

オリヴィア:まったくその通り。私の場合、12歳でInstagramを始めたから大変なんです。青春時代のすべてを人々の前にさらしてきたから。人間としての自分と、Instagram上の自分とを区別するのは難しいですね。

長い間、その2つを分けるのに苦労してきました。私は優しくて、賢くて、すごいことをたくさんしてきたのかもしれない。でも、それをInstagramで紹介しないで、誰の眼にも触れられなかったら、実際にはなかったことになっちゃうんですかね?

アラニス:私たちの世代にはいろんなことが変わったわ。私も最近ソーシャルメディアについて考えてるの、今の時代ソーシャルメディアで自分自身はどの程度まで判断されるんだろうって。

子役の経験、失恋と怒り、2作目のプレッシャー

オリヴィア:もうひとつ私がおもしろいなと思うのは、あなたが子役だったこと。私もそうだった。曲作りの際、自分の感情を深く掘り下げるのに演技が役に立ったと思いますか? ある意味、私はそう感じました。

アラニス:どんなところで演技が感情表現の役に立った?

オリヴィア:特定の感情をうまく活用できたことですかね。11歳の時、初めて演技のレッスンで泣くシーンをやって。心が浄化されるような感じで、「これってセラピーみたい」と思ったんですよね。これって音楽にも置き換えられる気がしていて。私のアルバムには、文字通りピアノで泣きながら書いた曲もあるんです。

—お二人とも失恋をテーマにしたアルバムが大ヒットしています。失恋の話題がこれだけ多くのファンを引き付けるのはなぜでしょう?

オリヴィア:失恋はとても普遍的だからだと思う。多くの人がもっとも心を動かされる感情ですよね。私自身も、大失恋してボロボロになったときほど深い悲しみを感じたことはないから。「Drivers License」を出したのはすごくユニークな経験でした。私の人生はちょっと変わってるので、撮影セットで育ったから他のみんなのように学校に行ってないし。だから「この曲に共感してもらえるかな?」って心配でした。

「Drivers License」は私の人生の辛い時期について歌った曲で、あの曲を出した時、性的志向や性別や年齢に関係なく、大勢の人の心に響くのを目の当たりにしました。40歳の男性がやってきてこう言うんですよ、「やあ、すごく胸を打たれたよ」って。全く同じ経験をしているわけじゃないのに、「自分が高校生だったころ、初めて失恋した時のことがよみがえった」って。私にとっては魔法のようでしたね。こういう感情が普遍的だってことが分かっただけじゃなく、音楽には魔法のような力があって、特定の時間に引き戻すことができるんだって。音も、味も、においも全部よみがえる。これって音楽特有ですよね。

アラニス:私が思うに、愛や怒りや痛みといったエネルギーは世界を動かすのよ。物事を明るみにして、滞っている流れを再び動かす。悩みや不安に襲われた時――たいていこの2つは一遍にやってくるんだけど――そこからちょっと抜け出すには、ちょっぴり怒りを呼び起こすと上手くいく。私が自分の音楽で届けたいのも、こういう親密さなの。いわば人間性への招待状ね。「ヒューマニティ」(人間らしさ)という大きな流れがあるけれど、社会からは見過ごされている。だから音楽にどっぷり浸るの。音楽には醜いことも、美しいことも、輝かしいことも、恐ろしいことも、すべて受け入れる懐の深さがある。OKボタンみたいにね。


Photograph by Yana Yatsuk for Rolling Stone. Olivia: Vintage suit, vintage beret from Lidow Archive. Luichiny Boots from Arlalda Vintage. Ring by EÉRA

オリヴィア:ずっと2作目のプレッシャーについて考えているんですけど、あなたもそういうプレッシャーは感じましたか?

アラニス:『Jagged Little Pill』の後、行く先々で、スーパーへ買い物に行っても言われたわ、「次のアルバムはいつ? 私も男なんて大嫌い!」って。すぐには曲を書く気分になれなかった。難問に立ち向かわなくちゃいけない、というプレッシャーはたくさん感じるわ。私にとっては、今人生で起きていることをどうとらえるかが大事なの。プレッシャーも含めてね。

オリヴィア:人間関係を暴露されたり、つつき回されたり、土足で入ってこられたりして大変でしたか? 外には出したくない私生活を根掘り葉掘り聞かれたとか?

アラニス:ええ。私は誰かの人生をぶち壊してやろうと思って曲を書いているわけじゃない。そうするつもりなら、実名と住所入りにするでしょうね。誰かを痛い目に遭わせたり、あからさまに復讐してやろうと思って書いたわけじゃない。もっとも、復讐を妄想するのは最高だと思うけどね。私にとっては復讐の妄想がすべて。

あなたがどこまで使命とか意図を持っているのかわからないし、もしかしたら生きるのに精いっぱいなのかもしれないけど、私の場合はずっと表舞台に立ち続けるというサービス精神みたいなものに支えられている。好奇心旺盛なのよね。あなたが頑張る理由は何? 75歳になっても音楽を続けているとしたら、ずっと現役でいられる理由は何だと思う?

オリヴィア:私もいつもそういうことを考えてる。時々ちょっと不思議になるんですよね、なんでみんな自分が望んだことを自分に押し付けるんだろうって。

アラニス:あら、厳しいわね。

オリヴィア:アメリカ大統領になりたいと思ったら、こういう変なことになるでしょう。相当なプレッシャーと批判がかかってくる。

私にもはっきりした答えはわかりません。私が音楽をやり続けるのは、ベッドルームで曲を書くのが好きだから。「会話で説明するよりも、もっとうまく自分の気持ちを完璧に伝えられる」って思うから。

アラニス:私の場合は、曲が私の手を離れて人々に深い影響を及ぼすのを見ること。それが今も現役でいる理由ね。

オリヴィア:素敵。ツアーはどんな感じ? ちょっと気になったんです、私はまだツアーしたことがないから。いつか私もあなたのように母親になりたい。子供を連れてツアーに出るってどんな感じなんだろう。

アラニス:そうね、コロナの時代に子供3人を連れてツアーに出たいかと聞かれれば、間違いなく「まっぴらごめん」って答えるでしょうね。でも、ツアーは最高よ。私は15の時からツアーをしている。生粋の野良犬気質なの。

オリヴィア:私もハリウッド・ボウルに観に行きますね。

アラニス:嬉しい!

オリヴィア:最後にこれだけ聞いておかないと後悔しそう。この業界で育っていくうえで、何かアドバイスはありますか?

アラニス:そうねえ。もしやり直すことができるとしたら、もう何人か周りに友達を作っておきたかったわ。もう少し心の支えというか、気持ちをぶちまけて、一緒に消化してくれる人がいればよかった。日記にしたためるのもいいけれど、もし時間を戻せるなら、情が厚くて自分を無条件で愛してくれて、大丈夫かと気にかけてくれる人を魔法で呼び出したいわね。そういう人はいる?

オリヴィア:うん、いると思います。

アラニス:そういう人が必ず側にいるようにして。私も助け舟を送るわ。感受性が高い人向けのツアー用サバイバルキットをね。

From Rolling Stone US.


Photographed by Yana Yatsuk for Rolling Stone. Produced by Walaa Elsiddig and Jenny Martin. Morissette: Styled by Sara Paulsen for Art Dept. Hair styled by Marcus Francis for A-Frame Agency. Makeup by Rachel Goodwin for A-Frame Agency. Jacket by Nanushka. Anine Bing T-shirt and Mother pants from Shopbop. Earrings by Andy Lif. Rodrigo: Styled by Chloe + Chenelle for A-Frame Agency. Hair styled by Clayton Hawkins for A-Frame Agency. Makeup by Molly Greenwald for A-Frame Agency. Sweater by AREA. Pants by Marine Serre.

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