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ノー・ロームに聞く、ポスト・パンデミック時代におけるポップ音楽のあり方

Rolling Stone Japan / 2021年12月6日 18時0分

ノー・ローム(Photo by Aya Cabauatan)

フィリピン・マニラ出身の24歳、ノー・ローム(No Rome)がデビュー・アルバム『Its All Smiles』をリリースした。The 1975のマシュー・ヒーリーに見出され、ロンドンを拠点に活動するシンガー/プロデューサーが作り上げたのは、新たなポップソングのフォーミュラの勃興を目の当たりにしているような興奮を感じさせるような一枚だ。

シューゲイザー、サイケポップ、インディR&B、ガラージ、サンプリング・ミュージックなどなど、90年代から2020年代に至る様々なポップ・ミュージックのジャンルを横断し、そのセンチメンタルで夢想的なフィーリングを絶妙に融合させた全10曲(日本盤CDにはボーナストラック2曲追加収録)。

2021年4月にリリースしたチャーリーXCX、The 1975との「Spinning」など最近のコラボレーション曲ではダンス・ポップの曲調も見せていたが、アルバムは全体的にギターサウンドをフィーチャーした方向性を追求している。故郷のマニラで曲作りをし、ロンドンとミネアポリスでのレコーディング、リモートでの制作を経て完成したデビュー作は、国境/ジャンルを超えたオンラインでのクリエイティブの混交が当たり前になりつつある”ポスト・パンデミック”のポップ・ミュージックのモードを象徴する一枚とも言えるだろう。

アルバムの制作背景について、そしてノー・ロームが今の時代をどう見ているかについて、話を聞いた。


Photo by Aya Cabauatan

―アルバム『Its All Smiles』、素晴らしかったです。長い時間をかけて作ってきた作品だと思いますが、ノー・ロームというアーティストのどんなアイデンティティを表現する1枚になったと感じていますか?

ノー・ローム:まずはとにかくこのアルバムがリリースされることが嬉しい。どんなアイデンティティを表現したかというよりは、この作品を作ることで開放感を得られていることのほうが大きいかもしれないな。自分の頭の中にあった音のアイディアや感情を表に出せたからね。そういう意味で、今回はよりエクスペリメンタルだったと思う。クレイジーなアイディアの数々を使って、クリエイティヴになり、いかに良いサウンドを作れるかいろいろと試してみたから。

―以前に別のインタビューで「2枚のアルバムを作っていて、1枚目はギターメインのロックサウンド、2枚目はダンス・ミュージックのサウンドになる」と語っていました。こうした2つの音楽性を分けてアウトプットしようと考えた理由は?

ノー・ローム:一つのアルバムに全てを詰め込みたくはなかったんだ。二つに分けて、自分なりに音楽をオーガナイズした方がいいと思った。『Crying In The Prettiest Places』(2019年のEP)が機能したのは5曲だけ収録されたショートプロジェクトだったから。その規模で色々なジャンルをミックスしたからよかったけど、あれよりも大きなスケールでどうやったらそれができるかは考えられなかった。20〜25曲くらいのまとまりがない作品を作ろうとは思わなかったんだよね。リスナーも、一度に沢山の情報が一気に与えられるよりも、まとまりのあるもののほうが受け止めやすいだろうし、アルバムをリリースするなら、最初から最後の曲までをまとめて楽しんでほしいし。



―『Its All Smiles』はギターサウンドが大きくフィーチャーされたアルバムですが、あなたにとって、ギターの音色はどのようなエモーションの象徴となっていますか?

ノー・ローム:ギターは、ものすごくソフトなサウンドからものすごくラウドなサウンドまで、表現できるサウンドが幅広い。エフェクトも使えるし、アンプも使えるし。今回の作品で僕が選んだのは、よりディストーションがかかっていてラウドな方。感情を表現したらそうなったんだ。

―何がそっち側を選ばせたのだと思いますか?

ノー・ローム:デモを作った時点でも既に結構ラウドだった。曲を作っていた時の自分が、色々なことに向き合ってたからだと思う。歌詞の内容も、ああいう歌詞を書きたいと思わせる状況からインスパイアされていたんだと思うし、当時の僕の感情が「僕の話を聞いてくれ!」と熱くなってたんだろうね。少なくとも、その感情は描写したかったと思う。それを表現するためには、何かめちゃくちゃで、アグレッシブなもののほうが自然だったんだ。戦いに入るというか、論ずるというか。その時の感情へのレスポンスが今回の音楽なんだ。

―シューゲイザー〜サイケポップ的な「When She Comes Around」や「Secret Beach」で歌われていることを踏まえると、孤独や逡巡、ある種の傷つきやすい内面性をモチーフにした表現とギターサウンドが結びついているように思いますが、どうでしょう?

ノー・ローム:それは確実にある。歌詞ではそういうテーマに触れたかった。今回は、そういった感情をアーティスティックに音楽で表現したんだ。

「ポップ」は音楽を超えた意味を持つ

―「Remember November / Bitcrush*Yr*Life」や、今回のアルバムには収録されていないですが、「1:45AM (feat. Bearface) 」といった曲では、UKガラージの影響も感じられます。クラブ・ミュージックはあなたにとってどんなムードの象徴になってきたんでしょうか?

ノー・ローム:UKのクラブ・ミュージックの中でも最初に僕がハマったのは、ドラムンベースとガラージ。その次がハウスだった。ハウスはフィリピンではすごく人気なんだけど、僕は最初はそこまでハマらなかったんだ。でも、MJコールからガラージとドラムンベースを教えてもらったり、イギリスに引っ越したこともあって、そこからイギリスのクラブに行くようになり、どんどん魅了されていった。そういう音楽ってしょっちゅう聴くものじゃないから、特別感があるんだよ。ベッドルームで聴くものじゃないし、友達の家で聴いてもあまり機能しない。パーティーという特別な環境で聴くからこそ楽しいというのが惹かれる部分なんだと思う。クラブとか、友達と乗ってる車の中でとかね。ガラージを聴いているとエネルギーが湧いてくる。それが大好きなんだ。ただパワフルなだけでなく、スタイリッシュなところもカッコいい。そんな作品を作ってみたくて出来上がったのが「1:45AM (feat. Bearface)」。あの曲はめちゃくちゃ悲しいけど、すごくスタイリッシュなガラージ・ソング。スタイリッシュな音楽っていくつかあると思うんだけど、ガラージは確実にその一つだと思う。



―また「I Want U」はNujabesやDJシャドウなどに影響を受けたとのことですが、こうしたサンプリング・ミュージックはどんなインスピレーション源になりましたか?

ノー・ローム:僕が最初にサンプリング・ミュージックに興味を持つきっかけになったのはNujabes。Jディラから入る人も沢山いるけど、僕の場合はNujabesからJディラを知った。最初にNujabesを聴いてすごく気に入ったから、他にNujabesのような音楽を作っているのは誰だろうと探してみて、そこでJディラを知ったからね。DJシャドウもその一人。彼の音楽のドラムにものすごく惹かれたんだ。「このドラムはどこから来たんだ!?”」とものすごく食いついたのを覚えているよ。あのブレイクビートは最高。僕の大きなインスピレーションになっている。他に影響を受けているのはアヴァランチーズ。彼らの音楽性は”プランダーフォニックス”というジャンルとして言われることもあるけど、僕が「I Want U」を作っていた時は、まさにそのサウンドを目指していたんだ。例えばアヴァランチーズの「Since I Left You」は全てがサンプルで出来ている。僕の場合はギターとベースを弾いているけど、目指していたアイディアはそこだったんだよ。



―あなたの音楽性はとても幅広くジャンルレスなものだと思いますが、あえて自分の作風をキャッチコピーとして言い表すならば、どんな言葉がしっくりきますか?

ノー・ローム:それを答えるのは難しいな(笑)。でも、もしノー・ロームの音楽をカテゴリーでわけるなら、僕はポップかR&Bを選ぶかな。シューゲイズR&Bなんてのもいいかもしれないけど、この言葉だとそれが何なのか追加で説明しないといけなくなるし、シューゲイズっぽいのも、今回のアルバムでたまたま自然とそうなった感じだしね。だから、普段はどんな音楽を作っているのかと聞かれたらポップかR&Bだと答えてる。僕自身が一番インスピレーションを得ているジャンルだし、僕の音楽はメロディが頭に残るし、歌詞のトピックも近いと思うから。ポップは音楽を超えた意味を持っているし、僕はポップ・カルチャーも好きだしね。

―2019年の『Crying In The Prettiest Places』には不安や鬱などメンタルヘルスをテーマにした楽曲もありましたが、そこから成功とツアーの日々、パンデミック下のロックダウンの日々を経て、表現しようと思ったことはどう変わっていきましたか?

ノー・ローム:『Crying In The Prettiest Places』の時の状態にはもういないと思う。今の僕はその時よりも大人になったし、よりハッピーだと思うから。まあ、たまには落ち込んだりもするけどね。でも、今はアーティストとして、そして人間として、自分がどんな位置にいるかが以前よりも理解できている。前は今起こっていることが永遠に続くんじゃないかと思っていたけど、今はそれが現在という時点だからこそ起こっているんだとわかるようになってきた。ツアーや色々なことを経験して、本当に沢山のことを学んだ。自分でも成長したと感じるし、今もまだまだ様々なことを学び続けてる。音楽を作るためにフィリピンからロンドンに引っ越したというのもかなり大きかったし、今ではその経験のダークな部分も美しい部分も受け入れられている。何かに陥らず、経験を大きな塊の中の一つとして捉えることができるようになったと思う。前よりも、違いや変化を受け入れるようになって、物事を様々な角度から見れるようになった。だから、自分の音楽でも色々な異なる世界や見方を表現したいと思うようになった。アーティストとしてもそれは大切なことだと思う。

―アルバムを『Its All Smiles』というタイトルにした理由は?

ノー・ローム:希望を込めたタイトルにしたかったから。希望に満ちたタイトルにすることが第一の理由だった。曲の歌詞はセンチメンタルだけど、アルバムタイトルに希望を持たせて皮肉っぽくしたくて。あともう一つは、ビル・エヴァンズの曲で「Im All Smiles」という美しい作品があってあるんだけど、それが僕のお気に入りのトラックだから。1970年くらいのピアノソングで、あの曲からはかなりインスパイアされたんだ。『From Left To Right』というアルバムに収録されている曲で、亡くなりそうな兄弟についての曲らしい。辛いことがあっても笑顔で徐々に乗り越えていこうという内容も合っていると思って。



今は色々なルールが試されている時

―アルバムのソングライティングはマニラで行われたそうですが、ロンドンを離れて地元に戻った理由は?

ノー・ローム:マニラに戻った一つの理由は、マニラでショーをやる予定があったから。あとは、2019年はずっとツアーをしていて、色々と大変だったから家が恋しくなって、家族に会いたかったんだ。そしたら帰ってからパンデミックが始まってしまって、最初は1〜3ヶ月くらいの滞在のつもりが、1年になってしまった。だからその間にマニラで曲を書いて、ほとんど夜に書いていた。あの頃はなかなか眠れなくて。アルバム制作の最初の半分はフィリピンのスービックっていうビーチタウンに住んでいたんだけど、パンデミックの間は観光客がいなかったから、昼間は殆ど人がいないビーチにいって時間を過ごして、家に帰ってきて夜になると曲を書き始める、という毎日を過ごしていた。友人たちと一緒に住んでいたというのもあって、夜が一番集中できたんだ。そのあともっと上の階に部屋があるアパートに引っ越したんだけど、フロアの階数が上がると、夜景がもっと良くなって、そこにインスピレーションを受けるようになって、もっと夜型になっていった。高い所から見る夜景って最高だろ? そこに引っ越してからものすごく創作意欲がわいて、その勢いで曲作りを仕上げたんだ。

―レコーディングはロンドンとミネアポリスで行ったとのことですが、どんな経緯だったんでしょう?

ノー・ローム:そのあと3月にまた海外にいけるようになったからロンドンに戻って、ボーカルをレコーディングして、その後、親が体調を崩したからまたフィリピンに戻った。今はもう大丈夫なんだけどね。そしたらまた飛べなくなっちゃってさ(笑)。そのままフィリピンに残って、ミネアポリスの共同プロデューサーにロンドンで録ったボーカルを送って、リモートで作業したんだ。ロンドンでのジョージ(・ダニエル/The 1975)との作業以外は、全ての作業がリモートだった。BJバートンもサチもアレックス(Xela)も、ジョージ以外は全員。

―コロナ禍で生活や音楽制作の拠点を変えたことはどんな刺激になりましたか?

ノー・ローム:すごく刺激になったよ。フィリピンで自分の周りにあったものが曲作りに活かされたと思う。例えば、実家で昔自分が持って聴いていた音楽を見つけたり。当時の今みたいに小さくない大きなiPodが出て来て、その中に30GB分の音楽が入っていたんだけど、あれをまた聴き直したのはすごくよかった。その音楽のサウンドに影響を受けたというよりは、昔聴いていた音楽を聴いてすごくエモーショナルになったことが影響したと思う。フィリピンの実家にいたことで、ノスタルジックな感情がたくさん湧いてきたから。それに、しばらく会っていなかった昔の友達に会ったことも刺激になった。彼らと会話をしていると、いつもインスピレーションをもらうんだ。



―ここ1、2年は、ミュージシャンがワールドツアーを行うこともほとんど無くなり、国境を超えた往来が制限される日々が続いています。一方で、リモートでのコミュニケーションや共同作業も今まで以上に一般化しました。そのことによって、グローバルなポップ・ミュージックのあり方はどう変わってきたと感じていますか?

ノー・ローム:ポップ・ミュージックは大きく変化していると思う。音楽とのつながり方も、フィジカルなセールスからSpotifyやYouTubeに変わってきているし、音楽を使った収益化の方法も変化してきているしね。どんな変化もそうだけど、変化の中では良いものも沢山生まれるし、良くないものも沢山でてくる。良いものにめぐり逢うまで悪いものを手にするのは自然なこと。今は皆が自分に何ができるかを色々とやって試している時なような気がするね。アメリカではワクチン接種をした人のみにチケットを販売し、ロンドンではほぼコロナ以前の状態に戻っているし、今は色々な異なるルールが試されている時。アーティストも、どのようにしてパフォーマンスができるか模索しているんだ。ツアーをしたくないアーティストもいるし、今の状況で何ができるかを考え、皆がクリエイティヴになっていると思う。これからどうなっていくんだろうね。VRも結構活躍しているみたいだけど。VRでオンラインコンサートをやったり、BTSのコンサートを30ドルでオンラインで楽しめたり。ファンにとって、30ドルでオンラインでライブが楽しめるなんて嬉しいことだよね。これからもっと面白くなっていくんじゃないかな。

―では、最後に聞かせてください。2020年代は世界的に大きな価値観の変動の時代になっているように思いますが、そういう時代にデビューアルバムをリリースしたポップ・ミュージシャンとして、社会にどういう影響を与える存在でいたいと思っていますか?

ノー・ローム:うーん、難しいな。正直わからない。音楽が作りたいということは変わらないけど、何を発信したいかは常に変わっていくと思うから。伝えたいことが出てきたら、それをその時作っている音楽でアートとして表現する。それは毎回違うんだ。でも総合的に音楽を通して伝えたいのは「クリエイティヴになろう」ということ。それは何も間違っていないし、みんな自分が表現したいことを自分の方法で自由に表現すればいいと思う。SNSでよくあるように、人のことを気にしたり、人のために何かを妥協して作るんじゃなくて、自分自身がエンジョイできるものを作ることが大切だと思う。

【関連記事】The 1975が惚れ込んだ22歳、ノー・ロームが語る「憧れの日本」と「アジア人の挑戦」



ノー・ローム
『Its All Smiles』
発売中
視聴・購入:https://smarturl.it/vl8lam

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