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YAJICO GIRLが語る、「どこか懐かしい響き」の正体

Rolling Stone Japan / 2022年1月19日 19時0分

YAJICO GIRL(Photo by domu)

大阪出身の5人組バンド、YAJICO GIRLによる5曲入りEP『Retrospective EP』が完成した。

昨年2月にリリースされた2ndアルバム『アウトドア』では、プロデューサーにMUSIC FOR MUSICのTejeを起用。ロックバンドのフォーマットを基軸としつつ、それにとらわれないサウンドスケープを展開していた彼らだが、今回も引き続きTejeとタッグを組んで、ダンスミュージックやハイパーポップ、ゴスペルなど様々なジャンルをクロスオーバーさせながら、これまで以上に実験的な作品を作り上げた。

かねてよりフランク・オーシャンやケンドリック・ラマー、チャンス・ザ・ラッパーなどに傾倒しながらYAJICO GIRLの可能性や定義を押し広げてきたヴォーカルの四方颯人。故郷の大阪を離れ、コロナ禍で「回顧」や「ノスタルジー」をテーマに歌詞を書いたという彼の目には今、どのような景色が映っているのだろう。

─新作『Retrospective EP』はいつ頃から作り始めたのですか?

四方:前作となる2ndアルバム『アウトドア』を2021年2月にリリースして、その直後くらいからデモを作り始めました。レコーディングは5月、6月くらいだったかな。当初はアルバムやEPのようなまとまった形で出すのではなく、1曲ずつシングルを出していけたらいいなと。そのうち形になりそうな曲が5曲くらいになって、それらを仕上げていくうちに「EPで出そう」という話に落ち着きました。

─前作に引き続き、Tejeさんがプロデューサーとして参加しています。彼との出会いは、YAJICO GIRLにとって大きな転機になったのではないでしょうか。

四方:そう思います。彼と出会う前、バンドのメンバーだけで作ったアルバム『インドア』では、「海外のあのバンドのサウンドに近づけたい」と思いつつも、やり方が分からず自分たちが持っている機材を駆使して無理やり再現しようとして、それが期せずしてYAJICO独自のサウンドになっていたと思うんですけど、Tejeさんと一緒に作った『アウトドア』以降は彼が持っているたくさんの引き出しを使うことによって、自分たちが思い描いていた通りのサウンドに近づくことが出来るようになった。そこは大きく進化した部分なのかなと思っています。

─Tejeさんとのやり取りは、基本的にはリモートで行っていたのですか?

四方:『アウトドア』のときは、コロナ禍でもあったしほぼリモートでやり取りをしていたのですが、今作を作っている時はちょうどコロナもひと段落していたし、僕らとTejeさんの相性も良いことがわかったので、実際に会ってやり取りすることが多くなりました。これまでは割と自分たちの中で「制限」を設けていたところがあったけど、Tejeさんと「次はもっと(YAJICOの)音楽性を広げたいよね」という話をしていたのもあり、楽しみながらも様々な実験を試みた作品に仕上がりました。

─これまでで「制限」をかけていたのはどうしてだったのでしょう。

四方:今はパソコンに音楽ソフトがバンドルされているし、フリーの音源だっていくらでもあるから、やろうと思えばどんな音楽でもある程度は作れるじゃないですか。その中で「僕ららしさ」みたいなものをちゃんと確立するには、ある程度自分たちで制限をかけないと難しいと思ったんです。それに僕自身、アルバム全体を貫くテーマやコンセプトがあるものが好きなので、「こういうアルバムを作りたい」と決めた時点で、それにそぐわない楽曲はセレクトから外していたんです。でもEPの場合はそういうテーマやコンセプトもなかったから、1曲ごとにやりたいことをやろうという発想になったのだと思いますね。


タイトルを「回顧=Retrospective」にした理由

─なるほど。ちなみに、本作を制作している時期にインスピレーションを与えたのはどんな音楽だったのでしょうか。

四方:例えばTikTokでバズっているちょっとジャンキーなサウンドや、最近リバイバルしている2000年代ハイパーポップのようなバキバキのエレクトロサウンドも「一度はやってみたいよね?」みたいな話はメンバーとしていました。それと、「どことなく君は誰かに似ている」という曲ではハウスっぽい、ゴリゴリのダンスミュージックを取り入れています。何か具体的な作品を聴き込んでいたというよりは、ちょっと興味はあったけど踏み出していなかったことを、一つずつチャレンジしていった感じですね。

それとは別に、個人的によく聴いていたのはクレイロの『Sling』とカニエ・ウェストの『DONDA』、それからラナ・デル・レイの『Chemtrails Over The Country Club』です。特に『DONDA』は、いろんなアーティストが参加していますが、それぞれの「声」の一番美味しいところを上手く引き出していて。めちゃくちゃ良質なボーカルアルバムだなと思いましたね。

─アルバム・タイトルを「回顧」という意味の「Retrospective」にした理由は?

四方:今回、楽曲が5曲並んだ時点で、ある程度は統一感を出さないと作品としてのまとまりがなさ過ぎると思ったのですが、歌詞がなかなか思い浮かばず、一旦地元の大阪に帰ってそこでまとめて書くことにしたんですね。その時に学生時代のことや、幼少期に経験したことなどを色々と思い出して。それが今回のサウンドにもマッチしていたので「回顧」と名付けることにしました。

─自分の過去と向き合うことになったのは、コロナの影響もありますか?

四方:言われてみれば、もしかしたらあったのかもしれないですね。上京してきた矢先にコロナの感染が広がり、人との関わりが減っていく中で、改めて家族や地元にいる友人のことを考えたし、そういう思い出が自分の中に残っていれば、それを糧として残りの人生も頑張っていけるのかな、みたいな。「思い出」は生きる上での支えになっていることを、コロナ禍で改めて思い知らされたのかもしれない。

─ノスタルジーは、時にネガティブな意味合いで語られることもありますが、四方さんにとっては必要なもの?

四方:うーん、そう言われると難しいところですね(笑)。明確な答えが自分の中にないからこそ、例えば「Life Goes On」という曲では、”振り返ることでまた明日も頑張れるじゃない それともなんか嫌になって逃避してるだけ?”と、余白を残しているわけで。「昔はよかった」みたいなことを、ずっと言っている人は嫌ですしね(笑)。そこは安易に答えを出さず、分からないことは分からないまま素直に言葉にできたかなと思っています。





フランク・オーシャンやラナ・デル・レイなどを聴いていると、ノスタルジックな感情が湧いてくる

─過去にあるものからインスパイアされて、新しいものが生み出されることはよくありますからね。

四方:それに、そもそも僕はノスタルジックなものが好きなのだと思います。例えばフランク・オーシャンやラナ・デル・レイなどを聴いていると、うわーっとノスタルジックな感情が湧いてくるんですよ。彼女たちが醸し出すノスタルジーは、僕が生まれる前のことだったりするのですが、おそらくDNAレベルで刻み込まれている、誰もが感じる「懐かしさ」というものがある気がします。

世代的にノスタルジックなものというと、例えば『木更津キャッツアイ』や『池袋ウエストゲートパーク」などクドカン(宮藤官九郎)が作った2000年代のドラマになりますね。ニンテンドーゲームキューブやゲームボーイアドバンスといったゲームにもノスタルジーを感じます。

─「どことなく君は誰かに似ている」の後半の歌詞、”町の音 アニメ 駄菓子屋 鬼ごっこ 明日の予報は雨”や、”音楽 スマブラ 漫画 バスケットで時間は過ぎたね”の部分に、四方さんが幼少期に見たと思しきそういう光景が反映されていますよね。

四方:そうですね。特に誇れるものは何もないけど(笑)、きっとそういう光景を見て育ってきたからこそ、今の自分がある。



─それってやっぱり、上京して地元を客観的に振り返る視点を持ったからこそ、生まれた感情だと思いますか?

四方:もう、間違いなくそうですね。今まで大阪には全く愛着がなかったんですけど、こっちに出てきてすごく好きになりました。たこ焼き屋がそこら中にある光景とか(笑)、ずっと当たり前だと思ってきたけど、そんなことないんだなって。飲み屋で知り合ったおっちゃんとすぐ仲良くなる感じとか、関西弁の響きとか、時おりすごく恋しくなります。

─ただ「VIDEO BOY」の歌詞は、「ノスタルジー」というよりここ最近のSNSの炎上騒動などについて歌っているように感じました。

四方:SNSって、自分の意見とかが可視化されるじゃないですか。考え方はそれぞれ違うのに、その差異が常に見える状態なのは疲れますよね(笑)。そういう、日々の暮らしの中で「しんどいな」と思うことを書き連ねつつ、それこそ幼少期に見ていたアニメや映画を思い出して、その頃に憧れていたものと今の自分とのギャップについて書いてみました。

ちなみにこの曲だけ、デモ段階からメンバーとTejeさんとコライトっぽい感じで作ったんですよ。スタジオに入って音楽を流しながら、その場でメロディを考えたり、その中から良いテイクをつなげていったりというやり方を初めてやってみたんです。そうすると、「ここ(のメロディ)は、もうちょっと動いた方がいいんじゃない?」とか、自分以外の意見が入ってくる。それがとても新鮮で楽しかったですね。

─本作を作り終えて、今はどんな手応えを感じていますか?

四方:さっきも言ったように、自分はノスタルジックなものが好きなのだなと改めて思いました。作家って、いろんなシグネイチャーがあると思うけど、僕自身はちょっと回顧的な表現が一つの「核」になるのかなと。思えば2016年にリリースした『いえろう』の頃から、いろんな人に「どこか懐かしい響きがある」と言われていたそれに今回気づけたことは、表現者としてとても有意義だったなと感じています。



<INFORMATION>


『Retrospective EP』
YAJICO GIRL
MASH
発売中

※配信リンク
https://FRIENDSHIP.lnk.to/RetrospectiveEP

YAJICOLABO 2022 ”OSAKA / TOKYO”
2022年1月30日(日)大阪・梅田QUATTRO - YAJICO GIRL / BBHF
2022年2月5日(土)東京・渋谷QUATTRO - YAJICO GIRL / YONA YONA WEEKENDERS
open 17:15 / start 18:00
https://www.yajicogirl.com

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