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矢沢永吉が語る、50年かけて行き着いたライブ哲学

Rolling Stone Japan / 2022年7月15日 18時3分

矢沢永吉(Photo by Hiro Kimura)

2022年、矢沢永吉がデビュー50周年を迎えた。1972年12月25日にキャロルの1stシングル「ルイジアンナ」でキャリアをスタートさせて以降、矢沢はソロ・アーティストとして次々と新たなサウンドへ挑戦すると共に、ロックがまだ日本のカルチャーとして根付いていなかった時代から全国各地で精力的なライブツアーを行い、道を切り拓いてきた。ここでは現在発売中の「Rolling Stone Japan vol.19」カバーストーリーの前半部分を抜粋して、その発言をお届けする。

【動画を見る】表紙撮影時の矢沢永吉を捉えたメイキング映像

「音楽って、全部正しいんだ」
 
ー50周年、おめでとうございます。まず、6月8日にリリースされたライブ作品『ALL TIME BEST LIVE』のお話から訊かせてください。矢沢さんの膨大なライブの記録から、50曲を選ぶのはかなり大変だったと思います。『STANDARD ~THE BALLAD BEST~』の際にはリサーチセンターを使って選曲を決めたとおっしゃっていましたが、今回はどのように選曲されたのでしょうか?

矢沢 この作品は「ALL TIME」ですから、今まで50年やってきた長い年月から抜粋したこのシーン、あのシーン、50ステージを収録しているんですけども、今回は周りのスタッフの意見も聞きながら、僕が曲を選びました。その時期その時期のライブで「これ、名ライブだったよね?」という中から、バッティングしないように選曲しています。それと、外部の人たちからの「このライブすごかったよね」という意見も参考にしましたね。

ー1980年代の映像から2010年代の映像まで、幅広く収録されていますよね。リミックス、リマスターを矢沢さん自ら監修されているとのことですが、相当クオリティにはこだわっていると思います。苦心したことなどあれば教えてください。

矢沢 やっぱり、なるべくテイストが違うようにしようと思いました。でもまあ、ステージのクオリティ、音のクオリティというのは、答えがないね。僕はこれだけ長く活動してきて思うんだけど、音楽を作る、編集する、ミックスする……キリがない(笑)。はっきり言って、答えがないのが音楽なのかなって思います。例えばわかりやすく言うと、初期の頃の矢沢の音楽。今現在、僕は72歳ですけど、それこそキャロルから数えて50年です。キャロルでスタートを切ったころ、レコーディングのやり方もよくわからないままにやってきた。それから、アメリカに行っていろんな世界的なミュージシャンともセッションしたりした。そうすると、僕の中の音楽がだんだん生意気になってきて、初期のレコーディングのやり方もわからなかったあの頃を「なんだ、こんなチープな音して」ってバカにするわけ(笑)。それで、「今だったら俺はもっとこういう風にやるよ」って、作ったことも結構あります。だけど、そこからさらに時間が経っていくと、「何言ってんだよ。あのときはあのときじゃなきゃ出せない音があったんだよ」ってなるんですよ。何か足りないものだらけのものが、なんとも言えない味を出していいじゃないかっていうことがわかるんです。



ー時を経たからこそ、わかる味わい深さというか。

矢沢 そう、それがわかる。だから、オリジナルのすごさ、最初に出したときの味のすごさ。それは確かに迷っていたり、弱々しいところもいっぱいあるけど、「それがいいんだよ!」みたいなね。そういうこともわかったりするから、音楽っていうのは答えがないね。もう、50年やっているとそういう域に入りますよ。「音楽って、全部正しいんだ」って。青々しいところも、その音がなんて素晴らしいのかと思う。今は、アレンジのセンスから何から、全部レベルが上がってますよ。もちろん、それもいい。だけど、じゃあ昔の物足りないものがダメなのかといったら、そんなことない。それも、めちゃくちゃいい。

ーキャリアが浅い頃のご自分が作った音楽も愛おしい?

矢沢 もう全部OKですよ。全部正しかったんだなって、今思えます。





ライブにおけるアレンジの考え方とは
 
ーアレンジのことでお伺いしたいんですが、今回の収録曲の中にはライブの度にアレンジが変わる曲や、あまり変わらない曲があると思います。例えば「バイ・バイ・サンキュー・ガール」は、ハードなサウンドでやっていたライブもありましたけど、今回収録されたライブ(「Come On!」1993年 日本武道館)ではすごくメロウなアレンジになっています。こうしたライブアレンジについてはどんなところにポイントを置いて考えているのでしょうか。

矢沢 やっぱり、レコーディングされた音がステージに立つとなったら、今度はレコードで聴くのとは違いますからね。お客さんがいるし、どうやってこのお客さんにこの曲を聴かせようかって考えると、アレンジは当然変わっていきますよね。それも、両方が答えですよ。レコードのオリジナル、それはそれでやっぱりいいし。僕はもう結構長くやっているから、いろんなアレンジをやりましたね。

ーその都度その都度、インスピレーションで「今回のステージはこうしてみよう」と考えるわけですね。

矢沢 そうです。例えば、「背中ごしのI LOVE YOU」(特典ディスクに収録)という曲なんかも、あれはオリジナルのレコーディングしたものがちゃんとあるわけですけども、ステージに立ったあるときに思ったんですよ。これは、パンクじゃないけども、ちょっと壊れ気味なギターの音で「グワーン、(ドラムの)ドンッドドンッパンッ、ドンッドドンッパンッ」って、「Be My Baby」(ザ・ロネッツ)みたいな感じで始まって、「何も見えない~」って歌い出す。ギターとドラムだけですよ? カッコイイのよ。それで1万人総立ち。

ー昨年行われた2年ぶりの有観客ツアー「Im back!! ~ROCKは止まらない~」ファイナルの横浜アリーナ公演では、3曲目に歌われました。

矢沢 そう、あのアレンジ、カッコいいでしょ? だから、あの手この手ですよ。じつは本人が一番楽しんでいるんじゃないですか? 僕自身が、「今年はこういうアレンジで行っちゃおう」みたいな。どっちかというと、初期の頃の簡単なアレンジをちょっとバカにしてる自分が40歳ぐらいのときはいたんだけど、最近は全然そう思わないですね。

ー「ニューグランドホテル」もライブ定番曲ですが、矢沢さん自身お気に入りの曲じゃないですか?

矢沢 これは、ちょうど僕がイギリスに行きはじめた頃の曲ですね。(歌い出しを口ずさみながら)「Please Go~タラララララ~」っていうメロディなんですけど、それをイギリスのジョージ・マクファーレンとかと出会って、みんなでああでもないこうでもないって、曲を料理するわけですよ。そうすると、アレンジでゴロっと変わるんだよね。あの時代、僕はアレンジの面白さに魅了されたね。

ー今回収録されているのは「NEW STANDARD」~ Rock Opera2 ~(2006年 日本武道館)からのテイクで、普段のアレンジとはガラッと変わっていますよね。

矢沢 「Rock Opera2」ですよね。またそこで変えたりしましたね。だって、面白いじゃないですか? 例えば、「YAZAWA CLASSIC」を1回目のとき(2002年)に国際フォーラムでやったときだって、ファンのみなさんも「何やるのかな?」って思ってたんじゃないですか? そうしたら、小学生ぐらいの子どもたちが出てきてコーラスをしながら「時間よ止まれ」に入ってきて。あれは面白かったね。

ーやっぱり、ライブ会場によって色んな演出やアレンジが浮かんでくるわけですか?

矢沢 そうですね。やって、ハマったときは「ワオ!」って。僕は、自分で面白がってるなって思いますよ。だって、あの頃にああいうオーケストラを使ってライブをやったのは、僕が最初なんだもん。「ロックの矢沢」とは言うけど、オーケストラ入れてストリングス入れて、「時間よ止まれ」を劇場みたいにやっちゃったらどうなるのかな?って思った「YAZAWA CLASSIC」が、ああいう演出のはしりですよ。あれをやってしばらくしたら、みんな、ストリングスを使い始めたじゃないですか?





”腹七分目”っていう考え方

ー確かにそうですよね。それこそ矢沢さんは通常のライブでも、昔から「安物の時計」でストリングスをバックに歌ったりしていました。今回収録されている「安物の時計」は前半をアコースティック・ギターとピアノのみで歌って後半からストリングスが入ってくるアレンジです(ROCKNROLL IN TOKYO DOME  2009年 東京ドーム)。これは素晴らしい名演ですね。

矢沢 さんきち(三好”3吉”功郎)のギターね? さんきちが出だしのギターを弾いたのを聴いて、「さんきち、それだよそれ!」「あ、わかりました!」って(笑)。

ー東京ドームの大観衆を前にして、あの少ない音数で歌うのは、素人目で見るとものすごく緊張しそうですけども、矢沢さんはもうああいうシチュエーションでも緊張しないですか?

矢沢 そんなことないです。緊張しますよ。僕はものすごく緊張する。どっちかというと一生懸命やる人だから。「それがよくないんだよおまえ!」って自分に言うんですよ。「そう緊張するなよおまえ、そんなに堅苦しくならないでさ。いいじゃん、とちっても」とか。「100%キメてやろうなんていうのはやめな、そろそろ」って。5万人も6万人も入ってるって考えたりしないで、「10mぐらいの円形でみなさんが聴いてくれているところで、俺は一緒に歌って楽しんでるんだよ」って思うようにしてます。腹七分目っていう考え方がいるよねって、最近すごく思います。

ーもう1人の自分と対話しているわけですか。

矢沢 そう。「もういいじゃん、完璧にキメようと思わない方が絶対素敵だから」って、最近は自分に言い聞かせてますね。もっとリラックスして軽く歌って、それがフラットしてもシャープしてもいいから、もっと自然に行く方がライブなんじゃないかなって。こんな50年やっている人間がそういうことを思ったりしているって、だからライブはいいのよ。僕はどっちかというと、真面目に「今日のステージはキメるんだ」と思って、歌ってるときに「ああっダメだ! Oh my God!」って思うことが多々あるんですよ。だけど、後でWOWOWで放送された映像を観たらさ、めちゃイイわけ(笑)。

ーははははは(笑)。

矢沢 「全然いいじゃない!」って。だから、ステージっていうのはそこまでがっちりキメてやろうっていうのを卒業しないとダメなんだよって、50年もやってるのにそういうことを思ったりするんだから。(ライブは)仕事なんだけど、僕は手にいい職を持ってると思いますよ。ステージをお仕事としてやらせてもらってるんだから。

●続きは「Rolling Stone Japan vol.19」でチェック!



EIKICHI YAZAWA 50th
ANNIVERSARY TOUR「MY WAY」
8月27日(土)・28日(日)東京・国立競技場
OPEN 16:00 / START 18:00
※雨天決行・荒天中止
9月18日(日)福岡・福岡 PayPayドーム
OPEN 15:00 / START 17:00
9月25日(日)大阪・京セラドーム大阪
OPEN 15:00 / START 17:00
https://eikichiyazawa.com/feature/50th_myway



Photo by Hiro Kimura
Styling by Kentaro Okamoto
Hair and Make-up by Masaki Tanimori
Edit by Hiroo Nishizawa

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