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スティーヴ・レイシーが語る、全米1位の「Bad Habit」が「めちゃくちゃ笑える」理由

Rolling Stone Japan / 2022年10月28日 17時45分

スティーヴ・レイシー(Photo by JULIAN KLINCEWICZ)

スティーヴ・レイシー(Steve Lacy)は、誰も予想できなかった形で2022年の顔となった。最新アルバム『Gemini Rights』に収録された「Bad Habit」が徐々に順位を上げていき、10月に入って全米シングル・チャートで3週連続1位を達成。ジ・インターネットのギタリストであり、ケンドリック・ラマ―、ソランジュ、ヴァンパイア・ウィークエンドなどの作品にも携わってきた24歳の実力派は、この世界的大ヒットをどのように捉えているのか。最新インタビューをお届けする。

米カリフォルニア州出身の実力派アーティストのスティーヴ・レイシーは、グラミー賞の常連だ。24歳という若さにもかかわらず、シンガーおよびプロデューサーとして活躍するレイシーは、高校生のころからグラミー賞を支えているといっても過言ではない。その音楽的才能はポストR&Bバンド、ジ・インターネットのギタリストとして遺憾なく発揮されているばかりか、2019年にリリースされたソロデビュー作『Apollo XXI』においても疑いの余地がない——たとえ本人がそう思っていなくても。「当時は、すべてがぼんやりしていた」と、電話越しにレイシーは話す。「いまは、ありとあらゆる選択にものすごく気を配っている。すべてのものに意味があってほしいと思っているから。でも『Apollo XXI』のころは、そういうことには無頓着だった気がする」

2作目のスタジオアルバム『Gemini Rights』(7月15日リリース)でレイシーは、過ちに対する感情面の報いがどのようなものであるかを同世代のアーティストの誰よりも明確なイメージとして描き出している。本作は、成熟することと感情がじっくりと展開される、繊細さに満ちたアルバムなのだ。爆発的にヒットしたシングル「Bad Habit」——この曲は10月初旬にビルボードの全米シングルチャートHot 100のトップに君臨していたハリー・スタイルズの「As It Was」をその座から引きずり下ろした——ひとつをとっても、はやくも名曲の風格が感じられる。それに加えて、”君が僕を求めていたなんて知らなかった”(I wish I knew you wanted me)というリフレインは、瞬く間に現代のポップカルチャーの聖典入りを果たした。

―2019年のデビューアルバム『Apollo XXI』とニューアルバム『Gemini Rights』を比較しながら聴いてみると、この3年間にいろんな変化があったようですね。

レイシー:そうだね、少しはあったかな。昔と比べて思慮深くなったし、計画的になったのは間違いない。最近は、いろんなことがはっきりわかるようになってきたよ。

―『Apollo XXI』は当時、グラミー賞最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートされました。

レイシー:そうなんだ。ほんと、笑っちゃうよね。あのときは「何事ですか?」って自分でもびっくりしたし、同時に「うわ、やばい」って思った。だって、『Apollo XXI』には、2、3パーセントくらいしか力を注がなかった気がするから。だから「やばい。それなのにグラミー賞って、正気かよ?」って思ったんだ。それに比べると、このアルバム(『Gemini Rights』)にはたくさんの努力と想い、そして時間を注いだ。僕が携わったどのプロジェクトよりもたくさんね。




―ソングライティング的には、どのようなアプローチからインスパイアされたのでしょうか?

レイシー:いろんなことさ。その多くは、自分探しの旅だったかもしれない。自分の私生活と関わりのあるものが多かった。私生活の面では、語りたい真実がたくさんあった。それがアルバム全体に流れているんだ。

―今作にはさまざまな感情が登場します。どれも明確に描かれていますね。

レイシー:そう言ってもらえるとすごく嬉しいな。まさにそれがねらいだったから。僕の頭の中は、そういう働き方をするんだ。そこをわかってくれて本当にありがとう。これは、僕にとって大きな挑戦でもあった。このアルバムを通じて、僕という人間を知ってほしいと思った。息抜きをしながら友達と交わす会話は、まさにこんな感じなんだ。

「Bad Habit」ヒットの裏側、グラミー賞についても「自信がある」

―「Bad Habit」は、はやくも大ヒット曲として定着した印象を受けます。シングルチャートの上位にも長期的にランクインし続けています(注記:この記事が公開されたときは、3週連続でHot 100の1位に輝いていた)。この曲ができたときは「これはヒットするぞ」のような手応えを感じたのでしょうか?

レイシー:それがまったくなかったんだ。楽しい曲だし、自分でも気に入っていることはわかっていた。「おかしな話だね」ってみんなで一緒に笑ったことも覚えている。でも、きっとこれは誰もが経験していることなんだと思う。だから、「めちゃくちゃ笑える」ってみんなで声を出して笑っていたんだ。それがこんな形でヒットするなんて、考えもしなかった。それに、僕の頭はそういうふうに働かない。自分はいつも何かを作っていて、そのときはひとつのアイデアに対する想いを追いかけている。それに、僕は結構厳しい人間なんだ。アルバムに取り入れたいアイデアが250くらいあったけど、収録するのは10曲だけって心に決めていたから。



―どうしていままでこういう曲がなかったのだろう?と不思議に思ったそうですね。

レイシー:そうなんだ。「Bad Habit」の興味深い点を教えてあげるよ。これについては、友人とも話し合ったこともある。この曲は、自分がいま人生のどの地点にいるかを強調するメッセージのようなものなんだ。たとえば、”君が僕を求めていたなんて知らなかった”という歌詞があるよね。これはファンやリスナーを指しているんだ。彼らは僕にいろんなことを期待していたけれど、僕は知らなかった。だから僕は、自分の本当のポテンシャルを発揮することを抑えていたんだ。それと同時に、自分に対する自信とも関係している。でも、それが「Bad Habit」として形になったのはもっと先のことだった。当時は動画のコンセプトとかについて話し合っていて、そのときに「いいね! 考えてみると、いろんなことに通じるものがあるよね」みたいにすべてがつながった。ちょっと鳥肌ものだよね。

―「Bad Habit」は、TikTokで爆発的にヒットしています。そこには、この曲でなければいけない、といった必然性のようなものがありました。誰もが同じことを感じていたと思います。

レイシー:そうだね。その様子を見ていて心から感動したよ。これは僕が無理矢理やったことではなくて、みんなが自らの意思で起こしてくれたことなんだ。だから、ものすごく感謝している。いろんな人が音楽を通じて交流しながらひとつの瞬間を作り上げる様子を目の当たりにできることに心からお礼を言いたい。いまでも、これは夢じゃないって自分に言い聞かせている。本当に感謝しているし、インスピレーションもどんどん湧いてくる。「またスタジオに戻って、次のアルバムが作りたい」ってはやくもソワソワしているんだ。

すごく楽しかったな。いろんな人が「クラブで聴いたよ」って動画を送ってくれた。でも僕自身は、クラブやラジオで自分の曲がかかるのをまだ聴いたことがないんだ。映像も見たことがない。だから、みんなから「アルバム聴いたよ!」ってメッセージが送られてくるたびに「どうして僕だけ? 岩の下に住んでいるわけじゃないのに」って不思議に思ってしまう。



―2017年にリリースされたソロEPの収録曲の大半をiPhoneでレコーディングした、というのは有名な話ですね。最初のフルアルバムでも、主にパソコンを使ってレコーディングしたとか。本作はスタジオ・アルバムですから、満を持して大物アーティストの仲間入りを果たしたことになりますね。

レイシー:まさにそのとおりだよ。最初のころは、自分がアーティストだという自覚もなかった気がする。でも、このアルバムで「よし、これで僕もアーティストの仲間入りだ。気合い入れていくぞ」みたいな気分になれた。(以前は)アーティストとしての自分の居場所がどこにあるかわからなかった。はっきりとした答えを見出せずにいたんだ。僕が無関心、あるいは世間知らずだっただけかもしれないけれど。

―ジ・インターネットの『Ego Death』が2016年のグラミー賞最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートされた当時は、まだティーンエイジャーでした。その後は、プロデューサーとしてケンドリック・ラマーの『DAMN.』(2017年)や、ヴァンパイア・ウィークエンドの『Father of the Bride』(2019年)などのグラミー賞作品に携わってきました。それに対し、今回はご自身の最新のソロ作品がノミネートされました。どんな気分ですか?

レイシー:僕は17歳以降、ほぼ毎年グラミー賞に関わっている。たしか『Ego Death』(ジ・インターネット)や『DAMN.』、J・コールの作品が受賞したんだっけ? ちょっと思い出せないけど(レイシーがプロデューサーとして携わったJ・コールの『4 Your Eyez Only』は数多くのメジャーな音楽賞にノミネートされたものの、グラミー賞にはノミネートされていない)。それから、ヴァンパイア・ウィークエンド、『Apollo XXI』と続いた。だから、グラミー賞とは少なからず関わりがある。でも、今回は全然違う気分だろうな。「ええ、まあ、当然です」的な印象が少し強いかもしれないね。単純に、今回は自信があるだけかもしれない。だって、いままではいつも「いったい何が起きてるんだ!?」って感じだったから。

【関連記事を読む】スティーヴ・レイシーが体現するクィアなZ世代らしさ、TikTokヒットが生み出す新たな問題

From Rolling Stone US.


スティーヴ・レイシー来日公演
2024年2月14日(水)、15日(木)東京・立川ステージガーデン
サポートアクト:TENDRE(2/14)、STUTS(2/15)
2024年2月16日(金)大阪・Zepp Osaka Bayside
詳細・購入:https://www.creativeman.co.jp/event/steve-lacy_2024/



スティーヴ・レイシー  
『Gemini Rights | ジェミニ・ライツ』  
配信中
アナログ盤/LP(輸入盤):2022年11月4日(金)発売 
購入/試聴リンク: https://SteveLacyJP.lnk.to/GeminiRights 

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