フー・ファイターズの歴史を深掘り、名曲の数々から辿るバンドの軌跡
Rolling Stone Japan / 2022年10月28日 18時30分
フー・ファイターズのキャリア集大成となる決定盤『The Essential Foo Fighters』が10月28日にリリースされた。1995年のデビューから現在まで、27年のキャリアを振り返るように代表曲の数々を収録(CD盤は全19曲、LP・配信は全21曲)。ファンにとってはマスト・アイテム、フーファイ初心者にとっては入門編に相応しい作品となった。そんな本作のリリースを記念して、日本盤ライナーノーツを執筆した音楽ライター・鈴木喜之による楽曲紹介コラムをお届けする。
10月28日、フー・ファイターズの『The Essential』というアルバムがリリースされた。これまでにも多くのアーティストが、同じタイトルのアルバムを出していることからも分かる通り、レーベル主導の規格もの商品と思われるかもしれないが、単なるヒット曲の寄せ集めとは片付けてはしまえないような、絶妙なこだわりも感じられる。本稿では、アルバムからの1stシングル「This Is A Call」、「Monkey Wrench」「Learn To Fly」「All My Life」「Best of You」「The Pretender」「Rope」、ライブでも定番となっている代表曲「My Hero」をあえて外した収録曲の解説を通じて、そのあたりを浮かび上がらせていってみたい。
「Everlong」
1997年の2ndアルバム『The Colour and the Shape』からの2ndシングル。初出時には、「あ、デイヴ・グロールって、ちゃんといい曲が書けるソングライターなんだな」という印象を深めたものの、当初はアッパーなハード・ロックのイメージが前面に出ていたので、そこまでの代表曲ではなかったというイメージがある。それが、いつの間にか、こうして決定版セレクションの冒頭を飾るほどの存在感を示すようになった。そのきっかけは、1998年にハワード・スターンのラジオ番組にデイヴがゲスト出演した際、この曲の弾き語りをハワードからリクエストされたこと。その時までデイヴは、「Everlong」をアコースティック・ギターで弾き語りしようと考えたことはなかったそうだ。しかし、これがあらためて、曲の良さを浮かび上がらせるバージョンとなり、2009年に出たベスト盤『グレイテスト・ヒッツ』ではボーナス・トラックとして収録。それが今回の『The Essential』でも締めくくりに配置され、この曲の人気の高さと重要性をあらためて示している。
「Making A Fire」
現時点での最新アルバム『Medicine at Midnight』(2021年)の冒頭を飾るナンバー(シングルとしては4番目)。ザ・バード・アンド・ザ・ビーのイナラ・ジョージ、サマンサ・シドリー、バーバラ・グラスカ、ローラ・メイス、そしてヴァイオレット・グロールによる重厚な女性コーラスをフィーチャーし、ここにきてフー・ファイターズがさらに音楽的な深化に取り組んでいることを証明してみせる。『Medicine at Midnight』制作時に、デイヴは「デイヴィッド・ボウイの『Lets Dance』を意識した」と話しており、実際にそこでドラムを叩いていたオマー・ハキムもパーカッションで参加しているが、「Making A Fire」で歌われる”This is the last time”というフレーズは、『Lets Dance』と同時期にボウイがクイーンと共作した「Under Pressure」(フー・ファイターズのライブでも、テイラー・ホーキンスのリード・ボーカルで、たびたびカバー演奏されていた)の歌詞”This is our last dance”を思い起こさせる。
「Times Like These」
ひたすらテンション高く突っ走るだけでなく、パワフルなエナジーはそのままに、ちょっと落ち着いたトーンで、人々の心にやさしく寄り添う、いわゆる「グッとくる佳曲」が何気に多いことも彼らの大きな魅力。これはその中でも筆頭に上がる代表的なナンバーと言っていいだろう。2002年のリリース当時、同時多発テロ事件に心を痛めた人が、「Times Like These」を聴いて癒されたという話も聞いたことがある。ただ実際には、メンバー間の関係性が最も悪化していた頃、バンドの将来に不安を抱えながら書いた曲だという。だからこそ、逆に特殊な力を放っているのかもしれない。
「Cold Day In The Sun」
テイラーがリード・ボーカルをとる曲が『The Essential』に収録されたことの意味は大きい。個人的には、アルバム『In Your Honor』(2005年)のリリース時に、フー・ファイターズの本拠地とも言えるスタジオ606まで取材に行った時のことを思い出す。彼らは、未完成のリハーサル・スペースで、生演奏を披露するという大サービスをしてくれたのだが、事後1人だけ居残ってドラム・キットの手入れを自ら行なうテイラーの姿を見て、「スタッフに任せてもいいようなことを自分の手でやっているのか」と感心し、思わず拙い英語で「今度のアルバムに入っている"Cold Day In The Sun」"ていう曲、とてもいいね」と話しかけた。彼は少し照れたのか、「クイーンのドラマーのソロ曲みたいだ、って言われるんだ」みたいな返答をした。正直に告白すると、初代ドラマーだったウィル・ゴールドスミスの解雇のされ方が酷かった経緯もあり、筆者は当初、テイラーに対してモヤっとした気持ちを抱えていたのだが、この瞬間に全てが氷解したような気が勝手にしている。
「Big Me」/「Long Road To Ruin」
この2曲に「Learn To Fly」を加えたビデオ・クリップは、ジェシ・ぺレッツによる監督作品で、ファンの間では"おふざけ悪ノリPV3部作"として名高い(?)。つい先日公開されたホラー映画『スタジオ666』は、フー・ファイターズというバンドが持つ、こうした路線の延長にして集大成と言っていいだろう。
「Walk」
2枚組の大作『In Your Honor』のリリースを受け、アコースティックなライヴ・ショウを8人編成で行なった後、どさくさに紛れて(?)1度は脱退していたパット・スメアをバンドに戻し、5人編成となって完成させたアルバムが『Wasting Light』(2011年)。この作品は、色々な意味でフー・ファイターズが完璧に盤石な体勢に至ったことを実感させる作品となった(人によっては信じられないかもしれないが、このバンドはデイヴが「たった一人で」スタートさせたという背景もあり、かなり長い間、不安定な状態にあったのだ)。『Wasting Light』のラストに収められた「Walk」で聞ける”I never want to die”というシャウトは、意識的にも無意識的にもロックにポジティヴなエモーションを取り戻そうとするデイヴ・グロールが、ついにニルヴァーナの呪縛を完全に断ち切った宣言のように響いてくる。
「The Sky Is A Neighborhood」
才人グレッグ・カースティンをプロデューサーに迎えた意欲作『Concrete And Gold』(2017年)からの2ndシングル。アレンジ面だけでなく、歌詞の内容からも、デイヴのヴィジョンがいっそう大きなスケールになっていることが伝わってくる。ちなみに『The Essential』のアナログ盤は2枚組で、CDよりも収録曲が多い(ストリーミングの選曲も同様)のだが、追加された2曲のうち『There Is Nothing Left To Lose』(1999年)からの「Breakout」は納得いくものの、もう1曲は最新作からの「Waiting On A War」で、そこまでして『Concrete And Gold』の1stシングル「Run」を頑なに入れないのは何か理由があるのだろうか?と勘ぐってしまう。まあ、他にも漏れてしまった代表曲はたくさんあるし(2014年の8作目『Sonic Highways』の思い切られっぷり)、娘に「戦争が始まるの?」と問われたことをきっかけに書いたという「Waiting On A War」もいい曲ですけどね。
「These Days」
今回『The Essential』の実質的な最終曲に選ばれたのは、『Wasting Light』から4番目のシングル。デイヴ・グロール自身、これまでに書いた中で最も気に入っている曲のひとつだと証言している。徹底的な破滅を描写するヴァースから、「それでもいいんだよ」と全てを受け止めて肯定する、あまりにも力強い歌はいつ聴いても圧倒される。こんな歌を説得力を持って歌える人間は、今の音楽シーンを見渡しても殆どいないだろう。
今さら繰り返すまでもなく、フー・ファイターズは巨大な喪失をスタート地点としたバンドだった。このままでは終わりにしたくない、ロックに楽しい興奮を取り戻したい、そのためには何だってやってやろうーーーデイヴ・グロールという男は、ついに四半世紀を超えたフー・ファイターズの活動を通じて、こうした確信をどんどん深めてきたーーーそんな印象を持っている。そのうちきっとまた、あの笑顔とともに、新しい音が鳴らされることを信じてやまない。
フー・ファイターズ
『ジ・エッセンシャル・フー・ファイターズ』
発売中
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/TheEssentialFooFightersRS
〈CD収録曲〉
1. Everlong
2. Making A Fire
3. Times Like These
4. Rope
5. Monkey Wrench
6. My Hero
7. Cold Day In The Sun
8. Big Me
9. Long Road To Ruin
10. Shame Shame
11. Best of You
12. All My Life
13. The Pretender
14. This Is A Call
15. Walk
16. Learn To Fly
17. The Sky Is A Neighborhood
18. These Days
19. Everlong(Acoustic Version)
※LP・配信は「Waiting On A War」「Breakout」を加えた全21曲
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