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犬の「多頭飼育崩壊」で悪臭・騒音地獄の借家 契約解除まで8年超、物件オーナーの苦悩

産経ニュース / 2024年12月11日 19時3分

犬の糞尿などのにおいがしみついた床を削る作業も行われた

悪臭や騒音、ごみや害虫の発生…。ペットが増えすぎて飼育が不可能となる「多頭飼育崩壊」は、飼い主や飼育されている動物だけでなく、周辺住民の生活環境にも大きな影響を及ぼす。飼い主が心や体に病気を抱えていたり、生活が困窮していたりするケースが多く、さまざまな社会問題に波及している。多頭飼育崩壊の「現場」となった物件を巡って訴訟にまで発展したケースで、物件オーナーの苦悩を聞いた。

つんとした臭いが鼻を突く。建物に染みついた犬の糞(ふん)尿などが強い異臭を放っていた。

大阪府寝屋川市の住宅街にある2階建ての建物。この建物は犬の繁殖施設として使用されていた。施設を巡っては、ブリーダーの女が病気やけがで衰弱した小型犬を放置したとして、動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕。女は大阪府門真市でも小型犬の繁殖施設を運営し、合わせて約420匹を数人で飼育していたが、不衛生で劣悪な環境だったという。府動物愛護管理センターは40回以上立ち入り調査し、適正に飼育するよう指導していた。

女の逮捕後、空き家となった建物の原状回復作業を担ったのは、特殊清掃会社「関西クリーンサービス」(大阪市)。この日は、細菌やウイルスを防ぐための防護服を着たスタッフ5人が、においがこびりついた床のコンクリートを丁寧に削り、消毒液も散布した。

空き家になっても、異臭は漂っている。同社の亀沢範行社長(44)は「においのついた床を削り、高濃度オゾンで除菌するなど、作業には時間がかかるだろう」と険しい表情を浮かべた。

周囲から苦情も契約解除まで8年

この物件のオーナーの男性(80)によると、女が仲介業者を通して賃貸契約をしたのは平成22年9月。契約の際には、この物件で古物商を営むと説明していたという。しかしその4~5年後、周囲から犬の鳴き声やにおいについて苦情が来るようになった。

女に何度も対応を求めたが状況は改善されなかった。男性は30年、調停を申し立てたが合意には至らず提訴。令和4年6月にようやく大阪高裁で和解が成立し、契約を解除したのは事件化された後の昨年9月だった。苦情が入り始めてからすでに8年以上がたっていた。

裁判決着を受け、男性は関西クリーンサービスに特殊清掃を依頼。今年6月に着工し、消毒やコーティングなど作業期間は約2カ月半にわたったという。男性は「ブリーダーをしているという話は聞いておらず、こんなことになるとは夢にも思っていなかった」と衝撃を語る。苦情が出ていることを女に直接何度も伝えたが、返事はするものの改善がみられず困り果てていたという。

契約で禁止事項決定を

「周囲に迷惑をかけてしまい、寝ても覚めても気になって、どうしたら解決できるのかと思い続けた毎日だった。犬たちも本当にかわいそうだ」と振り返り、「一度契約すると、よほどの理由がない限り、家主から出ていってくれと言うのは難しい」と話した。

明海大不動産学部の中城康彦学部長(不動産経営計画)は、多頭飼育崩壊に限らず、オーナーと契約者の間でトラブルにならないためには、契約の際に賃貸不動産の用法(使用目的)を定めておくことが最も重要だと指摘する。

「危惧されることも含めて禁止事項を決めておけば、契約解除要件となる」とした上で「賃貸借契約の場合には売買契約と違い、契約期間中、オーナーには修繕義務などの契約当事者として果たさなければならない務めがある一方で、賃貸管理として相手の契約者が契約を守っているか、定期的に見に行って確認する必要があるだろう」と話した。

法規制強化、経済困窮の飼い主への対応課題

環境省は令和3年に作成したガイドラインで多頭飼育問題について、多数の動物を適切に飼育管理できず、飼い主の生活状況の悪化▽動物の状態の悪化▽周辺の生活環境の悪化―のいずれかや、もしくは複数が生じている状況だと定義した。近年は動物愛護法の改正で動物虐待に関する厳罰化の動きが進むが、飼い主の中には経済的困窮や障害、疾患を抱える人も多く、いかに支援につなげるかが課題となっている。

環境省が都道府県と政令市、中核市の計125自治体にアンケートをした結果、多頭飼育に関して平成30年度に年間約2150件の苦情が寄せられたことが判明。平成27年から令和元年の事例を分析したところ、飼い主が経済的に困窮している事例は過半数を占め、生活保護を受給していた飼い主も約2割に上った。

同省はアンケート結果から、飼い主が生活に困窮し、引き取りや不妊去勢の手数料を支払えない▽動物の所有権を手放さない▽多頭飼育に関する情報が入ってこない▽飼い主とコミュニケーションができない―といった要因や、支援のための人材の不足などが複合的に絡み合い、解決を困難にしていると分析した。

事件として立件されるケースも相次いでいる。令和2年にはボランティアで引き取った多数の犬や猫を劣悪な環境で飼育したなどとして、50代の女が動物愛護法違反の疑いで京都府警に逮捕された。

こうした状況を受け、2年に施行された改正動物愛護法では、動物の殺傷に対する罰則が引き上げられ、著しく適正を欠いた密度での飼育も虐待に加えた。環境省は「行政・民間を問わずさまざまな機関と連携しながら改善策を講じていく必要がある」としている。(前原彩希)

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