「やり直す気力もない…」人気の飲食店 地震と水害で打撃 石川・輪島
産経ニュース / 2024年9月24日 20時16分
石川県輪島市中段町長口の飲食店「お食事処 美乃幸(みのこう)」。店主の今井幹夫さん(73)は、21日もいつも通り午前6時半に起床し、妻の文子さん(61)とともに仕込み作業に追われていた。ふと外を見ると、店の前が川のようになっていたが、「大丈夫だろう」と高をくくり、避難しなかった。
それが裏目に出た。午前9時ごろ、水位は窓の上まで上昇。玄関からは逃げられないと判断し、窓を開けると泥水が一気に店内へ押し寄せ、茶色く濁った水で「海みたいだった」と文子さんは振り返る。
小上がりの畳にイスを置き、その上に立って水から逃れた。幹夫さんは救助を求めようと、震える手で携帯電話を取ったが充電が切れていた。「もう助からん」と覚悟した幹夫さん。幸い正午ごろから水は引いたが、「あと少し水位が上がったら溺れていた」と声を震わせた。
2人の自宅は元日の能登半島地震で大規模半壊の被害に遭った。奇跡的に地震の被害に耐えたこの店が仮の住居となり、心の支えでもあった。
自宅の整理などを終え、営業を再開したのは6月。すると、輪島市を訪れる災害ボランティアや仮設住宅を手掛ける建設作業員らで連日にぎわうようになった。主に定食を提供する同店の人気メニュー「生姜焼き定食」は、「どこの定食屋よりおいしい」と評判だった。「復興に近づいている」。幹夫さんはそう実感し、「店も貢献できている」と思えるようになった。
そんなときに豪雨に襲われた。ビールジョッキや食器、思い出の詰まったカウンターや調理場にも泥が付着したが、水道と電気が使えないので掃除もできない。
店で暮らせなくなったため、2人は車中泊を続けている。日々疲労が蓄積し、気力がなえていく。23日には、店の常連のボランティアらが店内の泥水をかき出す作業を手伝いに来てくれ、「復活してほしい」と声をかけてくれた。
しかし、返事はできなかった。「もう潮時。地震に水害と続き、家と店の両方なくした。やり直す気力もない。前の向き方がわからない」。絶望的な状況に、幹夫さんはそう絞り出すのが精いっぱいだった。(土屋宏剛)
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