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泥と異臭まとう能登半島豪雨の災害廃棄物「地震時より大変」 被災家屋の公費解体に遅れも

産経ニュース / 2024年9月26日 7時0分

中林一樹・東京都立大名誉教授(本人提供)

記録的豪雨に見舞われた能登地方で、「災害ごみ」の仮置き場への搬入が始まった。元日の地震で倒壊した建物のがれきなどに加え、豪雨でも大量の廃棄物が発生する見込みで、被災者だけでなく自治体も対応に苦慮している。災害ごみ処理にかかる負担の増加が被災家屋の公費解体手続きに影響することは避けられず、復興の遅れが懸念される。

流木や布団、畳を搬入

石川県輪島市の沿岸部に開設された仮置き場では25日朝から軽トラックなどの車両が列を作り、住民らは豪雨で押し流された流木のほか、泥水で変色した布団や畳、ゆがんだ本棚などを次々と持ち込んだ。

この日すでに3回訪れたという市内の70代男性は「泥と異臭で踏んだり蹴ったり。処分できるようになり、ほっとしている」と話しつつ、「泥水でぬれたごみは重くなる上、車に積めない。地震のときより大変だ。まだまだ往復しなければならない」と嘆息した。

市によると、水害に伴う災害ごみの仮置き場は3カ所。原則として個人やボランティアが搬入し、再利用を前提として「木くず」「可燃粗大ごみ」「土砂」など約10種類の分別を呼びかける。各コンテナが満杯になれば業者が市外の処分場に搬送する流れだ。

自治体の負担増

住民からは「水害のごみをどこに持っていけばいいのか」といった問い合わせが寄せられているが、現時点で目立った混乱はないという。

地震に伴う災害ごみは業者が戸別回収して仮置き場に持ち込んでおり、市は今回の水害に際しても同様の方法を検討したが、それぞれの仮置き場が離れており、業者側の負担増を考慮して断念した。

石川県で排出される地震後の災害ごみは332万トンと推計され、すでに一部は県外での処理が始まっている。水害に伴う災害ごみの量がどの程度になるかはまだ見通しが立たない。

市の担当者は「地震のごみ処理が順調に進んでいるところに水害が重なり、正直負担は大きい」としながらも、「一番大変なのは被災者。それぞれのごみの回収、市外への搬出作業を迅速に進めたい」と話した。

連絡あった矢先に…

能登地方を襲った記録的豪雨の被害は全容がつかめず、地震による損壊建物の解体・撤去が滞る事態も想定される。復興の第一歩となるはずの解体作業に「複合災害」が影を落としている。

石川県輪島市の自宅兼店舗が全壊し、仮設住宅で暮らす浅野鉄雄さん(86)は今春に公費解体を申請した。「豪雨直前になってやっと、作業に入ると連絡があったが、ストップしてしまった」。自宅敷地内に放置された重機は泥水にぬれ、動くかどうかも分からない。浅野さんは「不安だ」と吐露した。

損壊家屋の解体・撤去については、石川県が当初想定した2万2499棟を上回る申請が寄せられ、8月下旬に「解体見込み」を3万2410棟に増やしたばかりだ。

申請は増加傾向

一方、作業完了の目標は当初の「来年10月末」を維持。自治体が所有者に代わって行う「公費解体」に加え、所有者が費用を立て替えた後に払い戻す「自費解体」の利用を促し、作業の迅速化を図ろうとしていた。

盆休み以降、自治体への申請は増加傾向にあったが、今回の豪雨に伴う道路の寸断などで作業の中断は避けられず、ブレーキがかかった形だ。自費解体は所有者自身が業者を手配する必要があるが、被災直後は難しいとみられる。

輪島市の担当者は「作業の進捗(しんちょく)に合わせて人員を配置してきたが、一からやり直し。人手が足りない」と頭を抱える。同県珠洲(すず)市の担当者も「増員しなければ無理だ。頭が痛い」と漏らした。

県の担当者は「国と連携し、市町に必要な支援を行う」と話し、環境省災害廃棄物対策室は「被災自治体のサポートに努める」としている。(土屋宏剛、小川恵理子、藤谷茂樹)

水害対応のノウハウ共有を

中林一樹・東京都立大名誉教授(災害復興学)の話

今回の水害は元日の地震の影響で地盤が緩んだことにより被害が拡大した「複合災害」だ。大雨で流れ込んだ土砂や流木が被災地の災害ごみと混ざり「混合ごみ」になった。地震発生後から今回の水害が起きるまでは、災害ごみを被災者自身が分別することも可能だっただろうが、水害が重なり、被災地の個人や自治体で対処できるレベルを超えてしまった。

例えば、農地などに押し流された混合ごみの処理を管轄するのは、農林水産省だ。国と石川県が協力・連携して災害ごみの撤去に臨まなければならない。これまで西日本豪雨などの水害に対応した経験がある自治体職員を派遣し、ノウハウを共有すべきだ。

公費解体への影響もある。解体予定の住宅が浸水被害に遭えば、可燃ごみと泥を分別しなければならない。今回の水害で災害ごみが大量に増えれば、復興計画自体が白紙に戻る恐れもある。公費解体を迅速に進めるためには、対象となる被災家屋についても見直す必要があるだろう。(聞き手 鈴木文也)

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