「死後離婚で解放された」手続き増加、大半が女性 配偶者の死後、義父母らと親族関係断絶
産経ニュース / 2024年8月27日 16時32分
配偶者の死後、義父母らとの親族関係を法的に解消する「死後離婚」が増加傾向にある。届け出のほとんどは女性だ。親族関係に嫌気がさしたり、義父母の介護や墓の管理への不安を感じたりして関係断絶に踏み切るケースが少なくないという。専門家は、今後も増える可能性があるとの見方を示す。
「婚族関係終了届」年金にも影響なし
東京都内に住むエステサロン経営の女性(53)は10年前、夫を亡くした。精神的なショックに加え、亡くなる直前まで入院していた夫の看病で、心身ともに疲れ果てながらも葬式を済ませた。
少し休みたいと思っていたところ、しゅうとめから毎朝、電話がかかってきた。「仏壇はどうしたの」「形見分けはどうするの。みんなでパッと明るく分けてしまいましょう」。矢継ぎ早の問い合わせに閉口した。「思えば、しゅうとめはこれまで私の都合や気持ちなどお構いなしに行動する人だった」。女性はこう振り返る。
結婚後、初めてしゅうとめにブラウスをプレゼントしたが、気に入らなかったのか、「雑巾にしかならない」と嘲笑された。犬の毛が大量に混じった食事を出されたこともあった。2人目を流産し、手術を受けて退院した直後、まだ体調が万全ではなかったが、しゅうとめが「遠出したい」との理由で車を運転したこともあった。
嫁いだ以上、嫁として義父母に尽くさなければいけない。伝統的な価値観が染みついていたから、不条理なことでも、しゅうとめの言うことを聞き、嫌な顔もしなかった。しかし、夫の死後、義父母が墓の問題を持ち出した瞬間、逃げ出したい気持ちに襲われた。「このままでは一生、この人たちから逃れられない。早く逃げなきゃ、私がおかしくなる」。
配偶者に先立たれると、離婚届を出す機会を失う。再婚しても、義父母ら夫の親族との関係は断ち切れない。どうすればいいのか。インターネットの検索でたどりついたのが死後離婚だった。
「姻族関係終了届」が正式名称で、死後離婚は分かりやすい造語だ。終了届に必要事項を記入し、自治体に届け出れば、義父母らとの親族関係を断ち切ることができる。配偶者の死後、いつでも手続きできるのが特徴で、義父母らの了承は必要ない。届け出を出したことも義父母側に通知されない。
しかも、一般的な離婚と異なり、配偶者の遺産に対する相続権や遺族年金の受給に影響はない。旧姓に戻りたい場合は、これとは別に復氏届を出す必要がある。女性は夫の葬儀から2週間後、死後離婚の手続きを終えた。「すっきりした。ものすごい解放感だった」。女性はこう強調する。
遺産巡りトラブルも
法務省の戸籍統計によると、姻族関係終了届の届け出件数は、10年ほど前の平成24年度は2213件だったが、令和4年度は3000件を突破した。増加傾向にある背景について、死後離婚に詳しい「ガーディアン法律事務所」の園田由佳弁護士は、家同士のつながりが希薄になった社会の変化に言及する。
「現代は結婚は個人と個人の結びつきが中心という考え方が主流になっている。その状況で、義父母との不仲や扶養義務を負いたくないとの思いが重なると、姻族関係を終わらせたいという選択に向かいやすい」。園田氏は、死後離婚が今後も増加するとの見方を示す。
死後離婚は一方的に義父母らとの姻族関係を断絶する。それだけに、法的に関係が清算されても、感情的なもつれをはらむ。園田氏によると、妻が終了届を出したことで義父母との関係が、むしろ悪化したケースがあるという。
「夫は長男だから、いずれ家を継いで、あなた方の面倒を見る」。妻が夫の生前、夫の両親にこんな理由で金銭を要求したり、家の名義を変更させたりしたにもかかわらず、妻は夫が亡くなると終了届を提出。老後の面倒を見てもらえると思い込んでいた義父母は約束を反故にされ、「財産も持ち逃げされた」と憤慨する例もあった。
義父母にとって、孫は姻族ではなく血族であり、姻族関係終了届を出しても関係は続く。その分、遺産分割協議を巡り、義父母らと嫁との対立が激化しかねない、といった課題がくすぶる。園田氏は、終了届の提出は「慎重な判断が必要」と指摘する。
一方、終了届を出された側の義父母の心構えについて「家族なんだから子供夫婦が面倒を見てくれるだろう、という考えはよくない」とも強調する。「そもそも終了届を出すのに義父母の了解は必要ない。自身らの老後の面倒を誰がみるのか、元気なうちに施設を含めて対応先を明確にしておくのが重要だ」とアドバイスする。(植木裕香子)
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