校門前で待たせるか仕事辞めるか…「小1年の壁」解消へ全国に広がる小学校の早朝開放

子供の朝の居場所を確保するため、早朝に学校を開放して活用する動きが広がっている。多くの小学校では保育園よりも開門時間が遅いため、出勤時間の早い保護者にとっては子供の就学で働きにくくなる「小1の壁」となっていた。外部スタッフが見守ることで教員の負担が増えることもなく、子供たちにも好評だ。

「雨の日も室内で本読める」

9月中旬の午前7時半ごろ。神戸市東灘区の市立本山第二小の図書館では、1～5年生の9人が熱心に読書をしたり、習い事の宿題をしたりして過ごしていた。

神戸市教委は9月から、市内の小学校7校をモデル校に指定し、午前7時や7時半の早朝の時間帯の児童の受け入れをスタート。開門作業や見守りは地域住民や事業者に委託して教員への負担はない。事前登録制で、すでに100人が登録しているという。

同校はモデル校の一つで警備会社に事業委託している。受け入れ員が校門を開け、8時の登校時間まで学校図書館を居場所として提供。見守り員2人が滞在する。

「以前は校舎に入れなかったので、門の近くで登校時間まで待っていました」と話したのは、4年の恒吉莉々香（りりか）さん（10）。保護者が早朝に仕事で家を出る際に利用するといい、「雨の日も室内で本を読めるからうれしい」と話した。

見守り員の中村幾洋子（きよこ）さん（65）は「保護者も外で待つより安心できると思う。自分の娘も子育て中で悩んでいたことがあるので、取り組みに共感しました」。

モデル実施は11月末まで。市教委はその結果を踏まえて本格導入を含めて検討を進める方針だ。

共働き増加、朝の1時間が大きな影響

早朝の子供の居場所の確保の課題は、共働き家庭の増加を背景に指摘されるようになった。

総務省の労働力調査によると、平成25年から令和5年までの10年間で、共働き世帯は200万世帯増加し、1278万世帯に。一方、専業主婦世帯は745万世帯から512万世帯に減少した。

未就学児の間の就労を支えている保育園などは、多くが午前7時台から延長保育で子供を受け入れる。しかし、就学と同時に登校時間が8時になるパターンが多く、それまでの出勤時間では対応できずに頭を悩ませる家庭が多い。

低学年でも子供が1人で留守番や戸締まりをして登校するといった方法を取ることもあれば、保護者が勤務時間を制限したり、退職したりして対応することも。就学で生じた1時間程度の差が家庭に大きな影響を及ぼす－。この課題に対応するため、各地でも朝に着目した取り組みが進む。

今年度からすべての市立小で7時からの早朝の受け入れを導入したのが大阪府豊中市。「子育てしやすさナンバーワン」を目指す中で導入を決めた。以前は、朝から100人以上の児童が門前で開くのを待っている学校もあったという。

市教委はもともと配置している警備員に早めの開門を行ってもらえるよう契約を見直し。それとは別に見守り員を配置。これまでに850人が登録し、多い学校では1日15人前後が体育館などで朝の時間を過ごしている。

市教委の単費で7100万円をこの事業に計上。学校によっては利用者の少ない日もあるが、市教委学校施設管理課の担当者は「数字にはとらわれない。『何かあったときの安心』という保護者のニーズがある」と話す。

教員の負担なし、働き方改革にも

東京都八王子市は昨年度、子供の安全を心配する地域住民らの声をきっかけに4校で早朝の受け入れを始めた。今年度は3校増えて7校で実施している。

市立愛宕（あたご）小で「朝の子ども教室」として始まったのが最初で、同校では放課後の見守りを担っていた保護者や地域住民らが朝の見守りも実施。子供たちは校庭で自由に遊び、雨の日は図書室で過ごすという。

長年同小で放課後の見守り活動を手掛けてきた「放課後子ども教室」の貴家（きや）由美子会長（58）によると、以前は教員が早朝に校門を開けており、「子供だけで過ごすこと、勤務時間前に教員を出勤させることへの疑問の声が朝の見守りを始めたきっかけでした」と振り返る。「顔を覚えてもらって、あいさつをしてハイタッチして。子供も楽しみ、われわれも元気をもらえる」とほほえんだ。

名古屋大の内田良教授（教育社会）は、「小1の壁は放課後の問題ばかりが指摘され、朝の居場所の問題はこれまで女性や教員が無償で対応してきた。教員の働き方改革が進められ、女性が社会進出する時代に子供の面倒をだれが見るのか、地域や企業も一緒に考えていく必要がある」と指摘。全国に広がる学校の早朝開放については「教員への負担がない方法で実施されており、現場で工夫しながら取り組みを広げていってほしい」と話した。（地主明世）