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「関ケ原」立役者、猛将・福島正則は暴君か 没後400年、解き明かされる知られざる素顔

産経ニュース / 2024年12月4日 11時0分

幼少から豊臣秀吉に仕えて数々の武功を挙げ、天下分け目の関ケ原の戦いでは徳川方に付き、東軍勝利の立役者となった猛将、福島正則。正則といえば「武勇にたけるが智謀に乏しい」という〝脳筋〟のイメージが定着しているが、初代藩主を務めた広島では没後400年の今年、領主としての功績や手腕に光を当てる機運が高まっている。広島市であったトークイベントで披露された識者の考察などから正則の知られざる素顔に迫った。

普請にも造詣

11月24日に広島市内で開かれた没後400年記念のイベント「〝福島正則を推す〟」。定員約400人に対し、会場はほぼ満杯で、関西からの参加者も。関心の高さがうかがえた。

まず登壇したのは、広島大の三浦正幸名誉教授(日本建築史)。正則による城普請を解説した。

正則は広島へ入府後、毛利輝元が築いた広島城を大々的に改築した。三浦氏によると、改築に際し、石垣普請の専門集団「穴太衆(あのうしゅう)」の根石の据え方がなっていないと一喝したとのエピソードが残っており、大名の中でも普請の造詣が深かったと考えられるという。

防備のため、領内の要衝に支城として亀居城と鞆(とも)城を築城した。もっとも「豊臣恩顧の外様であり、徳川家の不興を買った」(三浦氏)。この際に生じた徳川家の疑念が後の改易につながった可能性があるとされる。

広島城近くを流れる太田川の治水工事がうまく進まなかったため、若い女を人柱(犠牲)にすべし、との意見に耳を貸さず自身の名刀を代わりにささげたとも伝わっており、「独裁者の印象が強いが、実は温情的。これもまた正則」と三浦氏はみる。

進取の気性も

統治や領国経営はどうだったか。続いて、九州大学大学院比較社会文化研究院の光成準治・特別研究者が政治家や経営者の側面から考察した。

関ケ原の戦いの翌年である慶長6(1601)年、正則が広島に入り、初めての検地が完了。家臣が佐西郡久嶋村(現広島県廿日市市玖島(はつかいちしくじま))の実態を記録した文書では、小百姓にも検地帳の確認をさせたり、庄屋や年寄だけでなく、小百姓の代表も加えた計3人で年貢納付の起請文を作るように命じたりしていることから、光成氏は「小百姓にも相当配慮して領国支配を行っていたことがうかがえる」と分析した。

一方、寺領を没収するなど寺には厳しい態度で臨んだ正則。自身はキリスト教徒でこそなかったが、厚く遇した史料も残る。1605年度のイエズス会年報によれば、キリシタンに与えたのは「広島中の最良・最大の土地であって、これに優(まさ)るのは城だけだった」との記述が残る。現在の広島市中区竹屋町付近と推測されている。

光成氏は「正則は、外征(朝鮮出兵)や毛利氏の転封により混乱した領国を再建し、江戸期の村落や宗教統治の礎を築いた人物で進取の気性にも富んでいた」と指摘した。

暴君説に根拠なし?

光成氏は正則暴君説にも一部懐疑的で、「軍記類の記述にはあまり根拠がない」と説明した。江戸幕府による製作や幕府の意をくんだ軍記類が多いため、幕府にとって好ましからざる人物=暴君説が定着したとの見立てだ。

実際、寺領没収は正則の広島入府前から行われていた。だが、安芸や備後の民にとって、中国地方の大半を治めていた毛利氏には親しみがある。一方で、正則改易後の支配者、浅野家を悪く言うわけにもいかず、正則をあしざまに言う風潮が根付いたと推測される。

光成氏は「正則は領国経営の面では特に、小百姓層を保護しており、民衆にとっては必ずしも過酷な政策を行っていたわけではない。少なくとも当時の民衆からは暴君と思われていなかったのでは」との見方を示した。

400年記念の機会を逃すまいと、地元の〝名君〟を推す広島市は正則に関連する遺跡のガイドマップを広島城や市役所で配布中。12月には、横浜市で開かれる「お城エキスポ」で正則に関するパネル展示を行うほか、広島城史を学芸員が紹介するミニトークなどで正則の魅力を発信する。(矢田幸己)

福島正則 豊臣秀吉の小姓として頭角を現し、秀吉と柴田勝家が織田信長の跡目を巡って争った賤ケ岳の戦いなどで戦功を挙げ、大名に取り立てられた。秀吉の没後、関ケ原の戦いで西軍の総大将を務めた毛利輝元が周防・長門に減転封されると、論功行賞により正則が初代広島藩主として安芸・備後49万石を拝した。元和4(1618)年、前年の洪水で破損した広島城の修築を行ったが、幕府への届け出を怠ったとみなされ、その後求められた対応もできず改易となった。

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