日本男児が考案「シカケテガミ」 照れを克服、ラブレターを絵本で 近ごろ都に流行るもの
産経ニュース / 2024年12月14日 13時0分
恋人や配偶者、子や親への思いを絵本形式で伝える「シカケテガミ」が開始5年で5万冊を突破する人気だ。「近しい人にほど素直に感情を伝えることが苦手な、典型的日本人男性」を自認する、浜本智己さん(44)が考案者。初めて子供が生まれたときにあふれ出た妻への愛と感謝を、照れずに伝えることができたら。その仕掛けとして手紙×絵本を思いついた。単なる連絡であればLINEで済む時代。郵便料金値上げで年賀状じまいをする人も多いこの時期、手紙の原点を考えるきっかけにもなりそうだ。
性別による心理傾向にも留意
「結婚してくれてありがとう。〇〇(娘の名)を産んでくれてありがとう。(中略)2人は僕に生きる意味を教えてくれました」
瞳の大きな浜本さんに似たポップなイラストが語りかける。これは、実際に彼が妻に贈った、シカケテガミの第1作。照れくささを乗り越えるために考え抜いた、試作品でもある。
「他人になら簡単にいえるありがとうが恥ずかしい。まして、愛してるなんていえないと感じる半面、絶対に伝えなくちゃ後悔するって思っていたんです」
構想は娘が生まれた9年前にさかのぼる。当時は、広告代理店で新規事業開発の責任者だった。
「LINEの絵文字やスタンプとか重宝してますよね。ちょっと笑いの要素を付け加えることでシリアスになり過ぎず、伝えることを楽にしてくれる。ラブレターに絵の力を借りよう」
社内ベンチャーとして令和元年にシカケテガミを発売。2年後に事業譲渡を受けて独立し、物事の本質という意味を込めた社名のネイチャーオブシングス(東京都渋谷区)を創業した。
申し込みは専用サイトから。基本情報を入力、顔イラストや選択式のストーリーを決めて、伝えたいメッセージを自由に書き込み、帯デザインを確定する。A5判34ページ、ハードカバー、5830円など。届くまでに7~9日ほどかかる。
男性から女性への手紙として始まったが、親から子へ、女性から男性へと種類を増やし、12月には大人になった子から親へ贈るバージョンも発売された。
「子供が大きくなったときに読んでほしい」「両親の金婚式に贈りたい」…。浜本さんのもとには、さまざまなダイレクトメッセージが届く。ある女性ユーザーの話はこうだ。シカケテガミを贈ろうとしていたがケンカ別れすることになった彼氏に、最後の対面で渡したところ、別れを撤回、プロポーズされたという。「手紙はここまで人の心を動かすのか」
俳優やアスリートなどの有名人がパートナーに贈ったことをつづったSNSの発信も、広がりに拍車をかけた。直近の注文は月間2千冊以上にのぼる。
◇
男女別に商品を分けている理由は、「やはり、性差はあると思うから。男性は気持ちを伝えるのが苦手な傾向だが、女性は努力している人が多い。需要が一番多いのも女性から男性に向けてです」と浜本さん。
一方でLGBTQ(性的少数者)から、同性カップル用にアレンジしてほしいとの声も寄せられているが、現行商品の転用は行っていない。「僕がちゃんと理解した形で、当事者の方を巻き込んで作りたいんですよ。周りから理解を得られないこともある2人だからこそ、その思いをちゃんとストーリーに反映させたい。多様性との向き合い方って、すごく難しいとは思っているんですけど」
◇
浜本さんが作った冒頭のシカケテガミを妻に贈ることができたのは、娘の3歳の誕生日。旅先のホテルで。「恥ずかしいから娘に持たせて『ママに読んでもらいな』って。妻が目にした瞬間は見ていないんですけど、今もリビングの一角に飾られているので、うれしかったんだと思います」
人生の節目の記念日が、背中を押してくれた。
◇
「男は黙って…」とは、昭和の有名なCMのコピー。令和になっても日本男児の不器用さは健在だ。今は日本語版しかないシカケテガミだが、外国人にも利用されている一面もある。多寡はあってもシャイな人がいるのは世界共通。だからこそ伝わる真心もある。(重松明子)
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