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経営権手に入れ横領、「食い物」に 相次ぐ社福法人不正 背景に曖昧なガバナンス

産経ニュース / 2024年9月23日 8時0分

関係者に金銭を渡す見返りに福祉施設の運営などを行う東京都内の社会福祉法人(社福)の実質的経営権を得たとして、警視庁捜査2課が8月、元理事長の男を摘発した。福祉の充実のため税の優遇措置などが受けられる社福は運営に関する規制が大きいが、元理事長はこの社福の資金を横領していたほか、同様の手法で福岡の社福の経営権も手に入れ、「食い物」にしていたという。同様の事案はほかにも後を絶たず、専門家はガバナンス(組織統治)の強化を訴える。

「袖の下」約束で譲渡

「自分に任せてほしい」

経営難に陥っていた社福「寿老福祉会」(東京都墨田区)に現れた会社役員、藤井諭(さとし)被告(62)=社会福祉法違反(贈賄)罪などで起訴=は、自身を理事長にするよう、こう売り込んだ。

福岡県の社福「貴寿会」の理事長を務めていた藤井被告は、その実績をアピールする一方、確実に理事長に就任するための「下工作」も欠かさなかった。

理事、監事、評議員などで構成される社福には「株式会社の代表取締役のような『経営者』は本来存在しない」(厚生労働省の担当者)。ただ、組織には「ボス」がつきものだ。

寿老福祉会の場合、実質的に牛耳っていたのは同会元評議員、長沼信治被告(71)=社会福祉法違反(収賄)罪で起訴=だった。藤井被告は、理事長就任を支援する見返りとして現金2億8800万円を長沼被告に渡す約束を交わした。

実際には金銭は支払われなかったというが、長沼被告からの支持を取り付けた藤井被告は、4年1月~昨年7月の約1年半にわたって理事長を務めた。

金からむ不祥事横行

長沼被告が君臨する中でも、寿老福祉会の理事長職には「公的な補助金や本来経営に回されるべき事業収益の中に、自由に動かせるカネがあったようだ」(捜査関係者)。

警視庁捜査2課は今年2月、藤井被告が寿老福祉会の資金を着服していたとして業務上横領容疑で逮捕。その後起訴されたが、認定された横領額は計6400万円に及んだ。2課はその後も捜査を進め、寿老福祉会の経営権を得る過程での不正もあぶり出した。

これに先立ち、藤井被告は昨年から今年にかけて、福岡の貴寿会でも理事長に就任する見返りに約9400万円を同会関係者に渡したとして、福岡県警に摘発されている。ここでも、運営資金を着服した罪での追及を受けている。

事業の公益性の高さから法人税が原則非課税となるなどの優遇を受ける社福だが、藤井被告のような「社福食い」の事例は後を絶たない。

静岡県警は昨年11月、社福役員の選任を巡り便宜を図る見返りに2千万円を受け取る約束した疑いで元理事長の医師らを逮捕。令和3年にも山梨県警が、甲府市の社福で理事の選定を巡って関係者らを逮捕している。

不適切会計による横領も横行。政府は平成28年に社会福祉法を改正し、贈収賄規定を設けるなど規制を強化したが、不正行為は後を絶たない。

「隙を与えている」

社会福祉制度に詳しい外岡潤弁護士は「株式会社や医療法人などとは違い、社福は公的な組織という性質上、所有権などの概念が曖昧となりガバナンスが効かなくなりがちになる」と指摘。反社会的勢力などを含めた「悪意」につけ入る隙を与えていると分析する。

捜査関係者によると、社福の売買希望者を仲介するブローカーの暗躍も確認されているという。外岡弁護士は、監督する行政側に対し「運営を担う人材を派遣する人材バンクのような組織を設けるなど、行政がしっかり管理できる仕組みを整える必要がある」と述べた。(外崎晃彦)

社会福祉法人

社会福祉事業を行うことを目的とし、社会福祉法の規定に基づいて都道府県などの認可を受けて設立される法人。特別養護老人ホームや児童養護施設、保育所、障害福祉サービス事業など全国に約2万1千法人がある。非営利性・公益性のため、運営にあたって強い公的規制を受ける一方で税制優遇措置や補助金の交付を受ける。組織は6人以上の理事と2人以上の監事、定款で定めた理事の数を超える数の評議員を置かなければならない。

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