被災地再生に「自伐型林業」 輪島でモデル林づくりスタート 災害に強い森づくりに期待
産経ニュース / 2024年11月23日 19時0分
能登半島地震で甚大な被害が出た石川県輪島市で、小規模な間伐を繰り返して森を育てる「自伐(じばつ)型林業」の取り組みが始まった。そもそも土砂災害の多い日本だが、国内で主流となっている樹木を一斉に切り出す「皆伐(かいばつ)」はそのリスクを高める恐れが指摘される一方で、自伐型は森林の荒廃を防ぎ、災害に強い森づくりにつながると期待されている。熊本など豪雨災害の被災地でも導入が進んでおり、能登での展開が注目される。
11月5日朝。石川県輪島市三井(みい)の古民家「茅葺庵(かやぶきあん)」に拠点を置くNPO「のと復耕ラボ」で、「三井の森づくり勉強会」が始まった。講師を務めたのは、福井市で自伐型林業の研修プログラム「自伐型林業大学校」を運営する一般社団法人「ふくい美山きときとき隊」代表理事の宮田香司さん(53)。森を管理するための道づくりなどを学ぶ実践的な勉強会は8日まで4日間開催され、石川県内外からのべ50人が参加した。
能登半島は、その豊かな農林漁村の原風景が「能登の里山里海」として平成23年、わが国で初めて世界農業遺産に認定された。だが、象徴的存在である白米(しろよね)千枚田(輪島市)は地震に続く豪雨で斜面が複数箇所で崩れた。少子高齢化が進む中、里山里海をいかに保全して次代に継承させるかは大きな課題だ。
震災後、被災者らで結成されたラボは、地域再生を目指して3千人超のボランティアを受け入れるとともに、倒壊した古民家の古材活用に取り組むなど、復旧復興に止まらない活動を展開してきた。森づくりはその一環で、ラボ副代表の尾垣吉彦さん(37)が宮田さんのもとでかねてノウハウを学んでいた。
従来の林業は、約50年周期で広範囲に樹木を切り出す「皆伐」が主流だが、自伐型では適度な間伐を繰り返して良質な樹を育てる。そのために重要なのが、手軽に山に入れる小さな道を高密に張り巡らせること。これにより、1人で軽トラックに乗っての間伐、木材搬出も可能になる。低投資・コストで持続的に収入が得られるのが従来型との大きな違いだ。
3トンの小型ユンボで敷設する小さな作業道は、幅2・5メートルが基本。山側の切り高は1・4メートル程度に抑えて、尾根を縫うように造られる。四輪駆動車で上がれる程度の勾配にとどめ、排水処理も施す。日常的な森の手入れが可能になるとともに、土砂災害防止や獣害の抑止にもつながるという。
ラボでは、茅葺庵の南西に広がる森を「モデル林」として整備しようと所有者を調べ、環境にやさしい森づくりを目的とした整備を認めてもらう協定書を関係者と締結。尾垣さんは「研修などを通じて関わってくれる人を増やし、森や山に関心を持つ人が増えることで、地域の再生につながれば」と話した。
林業従事者4・4万人 増える「管理できない森林」
わが国は国土の7割を森林が占める森林大国だが、昭和30年に94・5%だった木材自給率は昨年で42・9%。39年の木材輸入全面自由化で安価で大量供給が可能な外国材の需要が高まって国産材価格が下落、林業が衰退したことが大きい。新型コロナウイルス禍やロシアによるウクライナ侵攻で輸入量が激減、木材価格の高騰「ウッドショック」も起きた。55年に約14万6千人いた林業従事者は、令和2年には3分の1未満の約4万4千人にまで減少、人手不足が森林荒廃の一因ともなっており、従事者の拡大は喫緊の課題だ。
国は林業の成長産業化と森林資源の適切な保全を目指し、平成31年4月から「森林経営管理制度」をスタート。森林所有者が適切な管理を実施できない場合は市町村に経営管理を委託させている。林野庁によると、制度開始から5年で約103万ヘクタールについて所有者の意向調査を行ったところ、約4割が委託を希望し、うち約半数で森林整備につながる動きがあったという。
自伐型林業は10年ほど前に「持続可能な小さな林業」として注目を集め、全国に広がっている。NPO法人「自伐型林業推進協会」(東京)によると、現在は51自治体が推進している。(木村さやか)
「初期投資少なく災害起こしにくい」九州大大学院農学研究院・佐藤宣子教授(森林政策学)
自伐林業は、小型機械を使って間伐を主体に行う林業で、国内では森林所有者が、家族の労働力を使って行うような小規模なものを指している。近年では林業の技術を身に付けた人が、高齢者や集落が所有する管理が行き届いていない山などで行う「自伐型」という形も出てきている。大規模に皆伐する林業に比べて小型な重機で済むことや、初期投資が少なく幅広い就労機会があることなどがメリットとなる。
防災面でも、皆伐は一旦全部の樹木がなくなってしまうが、自伐型は木を残しながら持続可能な形で進めていくので、土砂災害を起こしにくい。
自伐型林業だけで稼ぐのは難しいが、副業の一つとして「半林半X」で取り組む人も多い。自治体の移住・定住促進にもなるため、推進する自治体は増えているが、自伐型は自営業が多く、けがのリスクなどは認識し、備えておく必要がある。
自然とともに長期的に地域を考えるライフスタイルが評価されてか、最近では比較的若い人の参入が増えている。地域に新たなアイデアももたらされており、農山村の多様性や、持続的な地域社会を守ることにつながることが期待される。(聞き手 秋山紀浩)
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