準備万全だった父が懐かしい 家を残してくれてありがとう 家族がいてもいなくても 久田恵(814)
産経ニュース / 2024年9月24日 9時0分
ようやく秋がやってきた。
おかげで、ぐったりしていた私もなにやら息を吹き返してきた。
それで、東京の家に戻って以来、ひたすら見ないふりを続けていた階下のゴミ屋敷状態をなんとかしなければ、と、思い始めた。
それにしても、かなりの状況。手をつけたらいつまでかかるのか予想がつかない。
業者の人を頼んで、一気に片づけてもらうしかないかもしれないと思い、依頼することにした。
むろん、家を何年も放置していた私も悪い。が、家を出ていく人は皆、必要なものだけを持っていく。最後に残ったものを私がなんとかするしかないのだった。しかも、この作業を進めるときには「これからの晩年を私は、どう暮らそうとしているのか」と問われているわけで、そのことを真摯(しんし)に考える必要に迫られてもいる。
ともあれ、今、受給できるのは国民年金だけだし、とりあえずは、仕事を続けるしかないのだけれど…。それにしても、自分に戻ってくる家があったのは、かけがえのないことだった。
ふと、「私って、なんか人生どっかで間違ったかも」と思うこともある。けれど、看取った父に「最後まで、自分と暮らしてくれてありがとう」と言われたことを思い出すと、気持ちが和らぐ。そんなわけで、東京の家に戻って以来、家を残してくれた父に「こちらこそありがとうです」と、毎日、手を合わせている。遺影の父は、いつも柔和にほほえんでいる。生前、唐突に「お前、僕の写真を撮れ。いずれ遺影が必要になるんだから」と言ったことがあった。なんでも準備万全の父だったなあと、この頃、妙に父が懐かしい。
高齢での1人暮らしは、自分で思っていた以上に心細いのかもしれない。
(ノンフィクション作家 久田恵)
◇
ひさだ・めぐみ 昭和22年、北海道室蘭市生まれ。平成2年、『フィリッピーナを愛した男たち』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。介護、子育てなど経験に根ざしたルポに定評がある。著書に『ここが終の住処かもね』『主婦悦子さんの予期せぬ日々』など。
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