退官 大学・企業の水を飲んで 伝えた「まとめること」「裏読み」 感じた公務員との違い 話の肖像画 元駐米日本大使・藤崎一郎<23>
産経ニュース / 2024年9月24日 10時0分
《退官後、上智大学教授になった。大きな変化だったと思うがどうか》
ちょうど後任予定者から交代を打診されたころに、上智大から誘いをいただいた。上智大には20年前、外務省の課長時代に非常勤講師を週1回、4年間務め、なじみがあった。二つ返事で受けた。かつては大教室で200人以上いたので、今回は小人数にした。もっとも大人数もメリットがあり、後年、読売新聞と毎日新聞のワシントン支局長が二人とも、学生時代に私の授業を受けたと言っていた。
初めの1年間は大学院、次の4年間は学部で教えた。2つのことを伝えたいと思った。1つは物事を要領よくまとめることだ。「引用を増やしたりして長さをもって貴しとするのは学校だけだ、実社会は逆だ、君たちが5分間も話したり、5ページ以上書いたりすることは期待されていない」と話した。
もう1点は裏読みだ。例えば北朝鮮の対米要求を真に受けて、彼らは米国の安全保障を欲しがっていると述べる識者が当時、多かった。私は「北朝鮮が米国の約束を信用して武器を放棄すると思うか。相手に難しい条件を出しているだけだ」と話していた。今ならガザの停戦のためにブリンケン米国務長官が走り回っているが、「イスラエルのネタニヤフ首相は、もし米大統領選でトランプ氏が当選すれば自分が有利になると思うから今妥協するはずがない。米国は動きをみせないわけにはいかないだけだ」と言うだろう。発言や動きの真意を読み取る訓練をしようと話していた。
学生が意見を発表した後にはみんなで議論し、最後に私からその問題で考えるべきポイントを提示した。このやり方は顧問をしていた会社での若手への研修でも行った。ゼミ旅行もして親しくなった。若い人たちとの距離が縮まり楽しかった。
《民間企業の役員も務めた印象はどうだったか》
大学教授と同時に企業の社外取締役も務めた。貴重な経験だった。率直な印象を3つだけお話しする。1つは民間の方が上下のヒエラルキーは厳しいが、説明責任の機会が少なくのびのびしている、ということだった。公務員としては日々、アカウンタビリティー(説明する責任)を考えていた。なにか問題が起きれば毎日2回の官房長官会見に間に合うよう資料を作成する。国会は1年の半分は開かれている。記者懇談もある。もし発表が遅れれば隠蔽(いんぺい)とのそしりを免れない。
企業の場合は適時開示の義務は限られる。また株主総会は1年1回、せいぜい数時間だ。1人の株主は指名されて1回1、2分間、質問するだけ。過去の回答との整合性など問われない。国会で連日長時間、繰り返し質問を受け、過去の答弁との整合性を追及される閣僚や政府参考人に比べてまったく違う。時代の要請に逆行するとの異論、批判は多いと思うが、あえて言う。政府も民間に近づけられれば望ましい。政策立案、執行により時間を割くためには、国会の審議を減らしたり、英国流にすでに答弁したことはその旨、指摘すれば足りるように合理化したりすることが望ましい。
事件が起きると本来陣頭指揮を執るべきである閣僚が一日中国会に張り付く。英米ではありえない。また原則閣僚のみによる答弁の制度は当初の趣旨に反し、官僚経験者、弁護士などの答弁巧者が用いられる結果を招いている。
2番目は社外役員が社長を選任する委員会の意義である。数年しかいない社外の人間には、役員が説明がうまいか、如才ないか、くらいしかわかるはずがない。社長が院政を敷くため人望、能力のない人物を後任に指名するときに拒否権を発動するだけでいい。
3番目に社外役員の任期は1期4年なり5年として再任なしとすべきである。経営陣には都合がよくないかもしれないが、もっと言うべきことを言うようになる。社外役員の権限強化が論じられるとき、これがほとんど議論されないのは不思議だ。
官僚の後、大学、企業を経験でき、充実した日々を過ごせた。(聞き手 内藤泰朗)
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