ひと月の収穫期しか味わえぬ逸品、「栗の点心 朱雀」の繊細な甘味と舌触り 長野・小布施 味・旅・遊
産経ニュース / 2024年9月25日 10時0分
栗の名産地として知られる長野県小布施(おぶせ)町に、栗の収穫期の約1カ月間しか食べることができない逸品がある。老舗栗菓子店の小布施堂が提供する「栗の点心 朱雀(すざく)」。見た目は洋菓子のモンブランだが、口に入れると、想像を超えた「和」のスイーツだった。
予約客次々と
小布施町中心部の国道403号沿いに江戸情緒を感じさせる落ち着いた町並みがある。その一角、大きな三つ栗の紋が目印の小布施堂本店の南隣に武家屋敷造りの正門があった。くぐり戸を入った先が「栗の点心 朱雀」を提供する場所だ。
午前9時少し前、朱雀の予約客が次々とくぐり戸を入っていった。門の中は、小布施堂と桝一市村(ますいちいちむら)酒造場を営む市村家の本宅や精米蔵を改装したカフェに囲まれた落ち着いた広場。全部で71ある席があっという間に埋まっていく。家族や友人らと訪れる人だけでなく、男女とも〝お一人さま〟も目立つ。
同社常務取締役の滝沢真紀さんは「新型コロナウイルス禍を機に予約制にしました。それ以前は徹夜組も含め、正門の前に約400人の方の列ができました」という。
予想外の香り
案内された席につくと数分で朱雀が運ばれてきた。そうめん状に細く絞られた栗のペーストが幾重にも乗せられ、高さ約6センチ、裾野の幅は約13センチになる。その広がりは神獣である朱雀の羽を思わせる。
その細いペーストを口に含むと、一般的なモンブランとは一線を画す予想外の香りが広がった。栗特有の繊細な甘味と渋みとほくほくした舌触り。まさに栗そのもので、秋を食しているかのようだ。
栗ペーストの下には栗あんが隠れていて、ペースト部分と合わせながら好みに応じて甘みを変えて楽しむことができる。
毎日違う味に
朱雀の栗ペーストは、収穫したばかりの栗を蒸して裏ごしし細く絞っただけのもの。1食に使う栗は、大粒の栗15個前後で、出来上がりの重さは約200グラムになる。
栗ペーストは砂糖を使っていないためみるみる風味が落ちる。そのため朱雀は着座のタイミングに合わせて作り始め、提供から約30分以内に食してもらう工夫をしている。時期を決め、席ごとに予約時間をずらし、提供時間を45分間に設定しているのは、おいしく食べてもらうためだ。今年は9月7日から10月16日までの期間限定で、1食2千円で提供している。
「栗ごとに色も香りも水分量も違うので、朱雀の味も毎日異なります。期間中に何度もいらっしゃる方もいますし、毎年来られる方もいます」と滝沢さん。
点心とは一時の空腹を癒やすためにとる軽食のこと。旬の栗そのままの朱雀を、多めのほうじ茶で口を潤しながら何度も堪能すると、軽食とはいえすっかりおなかはいっぱいになっていた。
朱雀の提供は毎日午前9時~午後3時台の7回。午後3時台の回のみ当日枠で先着順。すでに土日祝日の予約は満席だが、平日はわずかに残席があるという。予約、当日券の入手方法は小布施堂のホームページで。(石毛紀行)
小布施堂本店(長野県小布施町808) JR長野駅から長野電鉄長野線に乗車し約40分、小布施駅で下車、徒歩10分。小布施堂本店を含む界隈(かいわい)は1980年代に行われた「町並み修景事業」で再構築された。小布施で晩年を過ごした江戸時代後期の浮世絵師、葛飾北斎の作品を所蔵・展示する北斎館や史料館、老舗栗菓子店が数多くあり、町を散策するのも楽しい。【問】026・247・2027。
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