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「自分を信じる」得がたい友情あってこそ 中村獅童が心血注いだ歌舞伎「あらしのよるに」

産経ニュース / 2024年9月24日 11時0分

仲間の山羊たちの制止を振り切り、がぶのもとにかけていくめい(中村壱太郎、左)=京都市東山区(南雲都撮影)

「自分らしく生きる」というのは、人生における大切なテーマだ。孤独の中で自分を信じることは難しい。共感し認めてくれる存在に出会って初めて、自分の生き方に自信を持つことができる。

そんなかけがえのない大切な人との出会いを描いた新作歌舞伎「あらしのよるに」が26日まで、京都・南座で上演されている。中村獅童演じる狼のがぶと、中村壱太郎演じる山羊(やぎ)のめいが、本来の捕食と被食の関係を超えて育む「ひみつの友情」が、老若男女の心に温かな灯(ひ)をともしている。

原作は、今年発刊30周年のきむらゆういちの同名絵本。シリーズ累計380万部を超え、小学校の国語の教科書にも採用されたベストセラーだ。

嵐の夜、避難した山小屋で2匹は偶然に出会う。父を亡くしたがぶと母を失っためい。同じ痛みを抱える2匹は暗闇の中で言葉を交わしながら心を通わせ、「あらしのよるに」を合言葉に、翌日晴天の下で再会を果たすが-。

互いの素性が分かり、エサと天敵という間柄だったことを知った2匹は激しく動揺する。「友達だ」「食いてえなぁ」。めいを見ながら理性と本能の葛藤を繰り返すがぶの心の声は、義太夫節でリズミカルに語られ、客席の笑いを誘う。

優しすぎるがぶは「狼らしくない」と仲間からバカにされてきた。だからこそ、「友達」と自分を呼んでくれためいに救われ、「己を信じて生きろ」という亡き父の教えが初めて花開く。2匹の関係がそれぞれの種族に波乱を招く予感はしつつも、「あのう…次はいつ会えやすか?」。めいに真っすぐな気持ちを向けるがぶがいとおしい。

母と温めていた歌舞伎化

今作は平成27年に南座で初演された。その10年以上前から、獅童が母(25年に死去)とともに、「いつか歌舞伎化したい」と温めてきた企画だったという。

バーチャル・シンガーの初音ミクとコラボした「超歌舞伎」など奇抜な新作歌舞伎も手掛ける獅童。だが、今作は「絵本なのでノスタルジックな世界観。歌舞伎が持っている『アナログ感』を最大限生かしたい」と、演出も音楽も古典歌舞伎の手法にこだわった。

がぶは否定され傷ついても自分を失わず、孤独の中で戦ってきた。その姿は、父が歌舞伎俳優を廃業し、後ろ盾のない中でいばらの道を切り開いてきた、獅童自身の繊細で情熱的な一面とも重なり胸を打つ。

一方、壱太郎のめいは、はかなさの中にがぶを受け入れる包容力と芯の強さが光る。オスともメスともつかない中性的な魅力は、歌舞伎の女形だからこそ出せる絶妙な味わいだ。

そんな2匹が結ぶ絆は友情であり、友情を超えた愛情にも感じられて、見る人の心に大切な友達や恋人を思い出させるだろう。

客席には歌舞伎を初めて見る子供の姿も多い。そこにあふれる笑い声とすすり泣きに、歌舞伎の未来の可能性を見た気がした。(田中佐和)

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