館内を歩けば世界一周 世界最大の文化人類学博物館、国立民族学博物館で学ぶ「共生」
産経ニュース / 2024年9月24日 10時30分
「みんぱく」の愛称で親しまれている国立民族学博物館(大阪府吹田市)が今年、創設50周年を迎えた。文化人類学、民族学を調査・研究する大学共同利用機関として設立され、世界各地から収集した資料や文献は100万点超にも達している。根底にあるテーマは人と国のつながり。世界諸民族の社会や文化を理解し合うことが世界平和につながるという考えだ。グローバル化の一方で、民族間の争いや分断も目立ち始めた現代社会で、世界最大規模の文化人類学の博物館である同館の役割は大きくなっている。
万博跡地活用
昭和45年に開催された大阪万博の跡地を活用して建てられたみんぱく。館内はアメリカやヨーロッパ、東南アジアなどのブロックに分けられており、各地で収集した資料が展示されている。吉田憲司館長は「館内を回れば、世界一周できる」と話す。
展示品は民族衣装や祭具だけでなく銅像や家具、民芸品など多種多彩。日本の文化のコーナーで沖縄の展示品をみると、平成11年の春の選抜高校野球で沖縄県勢初の優勝を成し遂げた沖縄尚学のユニホームもあった。同館によると、所蔵している標本資料は約35万点(今年3月時点)で「人間が作りだしたものすべてが収集の対象になっている」という。
開館時の2倍
みんぱくが設立されたのは昭和49年6月。実は昭和10年頃から構想されていた。第一銀行の副頭取や日銀副総裁(後に総裁)などを務めた渋沢敬三や、東洋史学者の白鳥庫吉が中心となり日本民族博物館の設立構想が浮上した。渋沢敬三は日本資本主義の父、渋沢栄一の孫。郷土玩具や民具などに関心が深く収集活動を続けていた。
ただ、戦中戦後の混乱などで長らく頓挫してきた。当時は文化人類学、民族学という学問は確立されておらず、研究者たちは他の研究と並行しながら民具収集などのフィールドワークに奔走したという。
昭和45年の大阪万博では世界中の神像や仮面、生活用品などがテーマ館に展示されたことがきっかけになり、跡地利用の目玉施設としてみんぱくを設立する構想が本格的に動き出した。
開館当時は研究室を中心に4つの展示棟しかなかったが、半世紀近くを経て展示スペースは拡大の一途をたどった。「開館時に比べて約2倍に広がった。ここまで増殖を続ける博物館は、世界でも類を見ないのではないか」と吉田館長は笑う。
みんぱくは世界全域を研究領域とする世界唯一の研究組織、また、世界最大の文化人類学博物館として、世界各地から来館者が訪れる存在になっている。
異文化を尊重
グローバル化が進むなか、みんぱくの存在価値が高まっている。新型コロナウイルス禍では同館も臨時休館を余儀なくされたが、吉田館長はこの事態にもグローバル化の影響が垣間見えると指摘する。
「コロナ禍は、目に見えないウイルスの脅威を世界の人類が身をもって体験した。それだけに、人類全体で文化や言葉を超えて共生していくことの大切さを自覚したと思う」
同館で展示されている収集品は多種多様だが、背景を探ると実は共通したものも少なくない。家具や民芸品、埋葬品などは外観は各地で異なっているが、使い方や利用法などは世界共通。「それだけに異文化に関心を持って尊重しないといけない」と吉田館長は話す。
吉田館長は、今後のみんぱくのあり方について「フォーラム型情報ミュージアム」構想を掲げている。
博物館といえば収蔵品の展示が中心と思われがちだが、収蔵品の提供者らと協力し管理に取り組む。時代の変化とともに伝統行事などが大きく変容していくなかで、記憶の継承を後世に残していくことを掲げて世界各地で地域への働きかけなどを続けている。こうした活動で、熊本県五木村では約30年前に途絶えていた焼き畑農法を復活する動きが出ているという。
「多くの人がガラクタに見えるものでも、後世には文化遺産になるかもしれない。未来の共創の場としての機能を先鋭化して、人類共生社会を実現させたい」と吉田館長は意気込んでいた。
東アジア関係史の一面探る
国立民族学博物館は、50周年記念企画展として「客家(はっか)と日本―華僑華人がつむぐ、もうひとつの東アジア関係史」を開催している。客家と呼ばれる華僑華人と日本の関係にスポットを当てて、これまであまり知られることのなかった東アジア関係史の一面を探る。12月3日まで。
また、9月19日からは記念特別展「吟遊詩人の世界」も始まった。世界各地で活動している吟遊詩人たちを紹介するだけでなく、パフォーマンスを成り立たせる楽器なども展示して、彼らをはぐくんできた地域の人々の息吹を伝える。12月10日まで。(格清政典)
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