被災の能登、酒造り「復興の後押しに」 ユネスコ無形文化遺産登録で関係者ら喜び
産経ニュース / 2024年12月5日 18時57分
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に4日(日本時間5日)、日本の「伝統的酒造り」の登録が正式に決まった。古来から伝わる酒造りの技術を受け継ぐ日本四大杜氏(とうじ)の一つ「能登杜氏」を輩出し、1月の地震で大きな被害を受けた能登半島の酒造関係者からは「復興の後押しになる」などと喜びの声が上がった。
明治2年に創業し、150年以上の歴史がある石川県能登町の「数馬(かずま)酒造」は、元日の地震で建物の壁が崩れたり、津波で泥水が流れ込んだりして酒造りの中断を余儀なくされた。その後、社員が一丸となって清掃や復旧作業を進め、4月には酒造りを再開。11月中旬からはしぼりたての新酒の出荷も始めた。
同社の広報担当、数馬しほりさん(42)は、伝統的酒造りが無形文化遺産に登録されたことに対し「先人たちが築き上げた日本の技術や精神が評価され、大変喜ばしい」と語った。
蔵など6棟ある建物のうち4棟は現在も損壊した状態。ブルーシートで覆うなどの応急対策で雨露はしのげるが、冷たい風は入りこんでくる。修復を進めたいが、工事は早くても来年秋以降になるという。
数馬さんは「能登の日本酒が地震で危機にひんしているが、今回の(登録で生まれる)機運を味方に付け、復興につなげたい」と期待を込めた。
石川県酒造組合連合会によると、甚大な被害が出た珠洲(すず)市や輪島市、能登町では、全11ある酒蔵のうち2つが酒造りを再開し、1つが春までの再開を目指す。ただ、残る8つは損壊により中断した状態で、中には再開に数年かかる見通しの酒蔵もあるという。そのため、県内外の酒蔵が被災酒蔵の酒造りを受け入れ、共同醸造を行うなど助け合っている。
連合会の裏谷重寿(しげひさ)専務理事は「能登の日本酒は『濃厚で華やか』といわれ、和食にも洋食にも合うと評価されている。登録を契機に一丸となって魅力をPRし、復興の一助としたい」と話した。(秋山紀浩)
喜びの声、関西など各地で
伝統的酒造りの無形文化遺産の登録決定を受け、関西など各地の酒造関係者も「次世代や海外に日本の酒の素晴らしさを広めたい」と喜んだ。
「全国の酒蔵や麹にまつわる文化、歴史を知ってもらうきっかけになるはずだ」。登録決定を受けて5日、東京都内で記者会見した「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」の会長で小西酒造(兵庫県伊丹市)の小西新右衛門社長は、こう力を込めた。
日本三大酒どころの一つ、兵庫県の「灘五郷」で「福寿」を醸造する神戸酒心館の安福武之助社長は「日本を訪れる外国人客の関心を一層高める効果がある」と強調。灘五郷で酒蔵見学会など文化体験型の観光が発展することに期待を示した。
同じ三大酒どころの京都・伏見で「富翁(とみおう)」を製造する北川本家の北川幸宏社長も、国内外から改めて注目が集まるとし、「酒造りが行われてきた各地域の風土や歴史を次世代につなぎ、守っていかないといけない」と気を引き締めた。
「日本酒発祥の地」を標榜する兵庫県の播州の杜氏らも喜びはひとしおだ。同県宍粟市山崎町の「山陽盃(さんようはい)酒造」専務で杜氏の壺阪雄一さん(44)は「日本独自の製法技術が世界に認められるのは喜ばしい」とし、「日本酒がまだ知られていない地域へも広がっていくきっかけになれば」と語った。
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