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電車運転士は「おっしょはん」とともに 強い絆の師弟関係 昭和100年だヨ!全品集合 阪急電車編

産経ニュース / 2024年11月22日 10時30分

秋といえば紅葉、紅葉といえば茶色系(マルーン)-と強引なこじつけだが、今月はマルーンカラーで親しまれる『阪急電車』を取り上げてみよう。どんどん大きくなる「大阪梅田駅」。近くの「阪急三番街」「阪急ファイブ」「ナビオ阪急」にもよく通った。阪急百貨店の「英国フェア」は60年も続いているという。そして忘れてほしくない「阪急ブレーブス」の栄光。《昭和》満載! 1回目は「はるかなる運転士への道」。キーワードは「おっしょはん」だ。

駅員から始まる

♪運転手はきみだ 車掌はボクだ…と子供のころよく歌った。実は業界では「運転手」ではなく「運転士」が正しい呼び名。子供だった昭和の時代、電車の運転士や車掌は憧れの職業だった。どうすればなれるのだろう。昭和51年に阪急電鉄に入社し「統括駅長」までのぼりつめた稲野清さん(66)にその道のりを語ってもらった。

「すぐに運転士にはなれません。まず、駅での業務を行う営業スタッフ(駅員)の仕事を覚えるところからスタートです」

阪急京都線正雀駅に近接する「人材育成センター」と「教習所」から、その一歩を踏み出す。育成センターでは①社会人の心構え②接客の基本③券売機や精算機、改札機の操作④体の不自由な方の介助⑤コンピューターの操作などを学ぶ。

「研修の中で一番大事なことはなんだと思いますか?」と稲野さん。「お客さまの安全」と答えると、大きくうなずいた。

「そうです。その安全を守るためには大きな声を出すことが一番大事。躊躇(ちゅうちょ)せずに大声でお客さまを誘導する。そのためには普段から大声を出す訓練が必要。昔は運動場の端と端で叫びあったものです」

現在、運動場はないが、育成センターの入り口で「帽子よし!」「名札よし!」「服装よし!」と大声で指差し確認。指導係の「教室に入ってよし!」の許可をもらう。車両火災の発生を想定した訓練では「この電車はすぐには燃えません! 落ち着いて! 係員の指示に従ってください!」と叫ぶ練習をするという。

師弟関係は「一生」

こうして約1カ月半の講習を終えると学科試験と実技試験。合格すれば駅に配属され、「見習生(けんしゅうせい)」として「指導員」のマンツーマンによる実地訓練を受ける。実はこの指導員のことを阪急では「おっしょはん」と呼んでいる。

「正確にいえば〝お師匠さん〟。それを関西弁で〝おっしょはん〟というんです。ウチ(阪急)だけの風習と聞いてます」と稲野さん。「師匠」との関係は一生続き、仕事での相談だけでなく人生の悩み事を打ち明けるような間柄になるという。実はこのおっしょはんは1人ではない。運転士になるまでに3人のおっしょはんとの出会いがあるのだ。

「おっしょはんに付いて約1カ月学べば駅員として独り立ちです」

--稲野さん、いつ運転士になれるんですか

「まだまだです。2年間駅員を務めると車掌になるための受験資格が得られる」

--いやいや、車掌やなく、運転士ですよ

「阪急ではまず車掌にならないと運転士にはなれないんですよ」

難関の国家試験

なんと! 稲野さんの解説によると「車掌」になるために今度は「教習所」での訓練(約1カ月)→試験(一般教養の他に英語、数学、専門知識など)→実務訓練。ここで2人目のおっしょはんが登場→実務試験→晴れて車掌さん。さらに3年間の車掌勤務を経てようやく「運転士」の受験資格を得られるという。そして再び「教習所」(4カ月)→実技訓練(4カ月)。このとき3人目のおっしょはんにまた厳しく指導されるのである。

ちなみに電車の運転席に2人いるのを見かけることがあるが、運転士の横に座っていれば、それは訓練中で「おっしょはん」と「見習生」。立っていれば運転士をチェックする「助役さん」だという。

そして最終関門となる運転士の「国家試験」を受ける。競争率は10~20倍といわれている。入社から5年、勉強と訓練を続けてそれでもなれない人もいる。まさしくはるかなる道のりなのである。

あらゆる状況を想定

京都線正雀駅のそばにある「教習所」を訪ねた。実技室には実物の3分の1の大きさの車両が置かれ、ドアの横には車掌用、前方には運転士用のスクリーン。ここで「車掌」や「運転士」になる訓練を受ける。

「スクリーンに映し出されるさまざまな状況にどう対応すればいいかを学んでいきます」と説明してくれたのが山本誠治第一教習係長(56)だ。

さまざまな状況とは、運転士では大雪や大雨などの悪天候や土砂崩れなどの自然災害、踏切での自動車の立ち往生など。その数は車掌で25項目。運転士で75項目もある。もし前方で起こった土砂崩れに気づかず、運転士のブレーキが遅れて電車が突っ込んでしまうと、衝撃音が鳴り、スクリーンには運転席の窓ガラスが割れたヒビが一面に映しだされる。「見習生」も教官も真剣そのものだ。

「田所さんも運転してみますか?」と勧められ、白い手袋をして運転席に座った。電車を動かす「ハンドル」を握る。上下に動き、真ん中がニュートラル。そこから1段階ずつ手前に引き下げるとスピードが増し、奥に動かすと徐々にブレーキがかかる。

ハンドルにはもうひとつ握り込むレバーがついており、教官は「これを握って、離さないでください」という。なぜ?と聞くと「離すと急ブレーキがかかります」という。

「運転中万が一、運転士が意識を失っても、ハンドルを握っている手が緩めば、急ブレーキがかかって電車は止まるでしょ」。そこまで予測しているとは、恐れ入りました。

「駅長」になるには

試験を受けるのは「運転士」までで、そこからの「助役」「駅長」は上からの「任命制」という。勤務態度や監督職としての資質などが考慮される。「助役」になれば次は「首席助役」「駅長」そして「統括駅長」となる。稲野さんは統括駅長を7年も務めた。

「運転士の免許証をもらったときもうれしかった。もちろん駅長になったときも。帽子に金の線が入るんですから」と稲野さんは懐かしそうに笑った。(田所龍一、写真も)

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