【ときを紡ぐ絵本 親子とともに】「だっこして」「だっこしたい」を我慢しない

産経ニュース / 2017年10月13日 9時47分

『ちょっとだけ』(瀧村有子作、鈴木永子絵)(産経新聞)

 絵本にはいろいろな“だっこ”が描かれています。以前「絵が語ること(2)」でもご紹介しましたが、平成19年に福音館書店から刊行された『ちょっとだけ』(瀧村有子作、鈴木永子絵)では、赤ちゃんが生まれ、お姉ちゃんになった主人公のなっちゃんが“ちょっとだけ”我慢したり、頑張ったりしながら自立していく姿が描かれています。その中で、なっちゃんは「“ちょっとだけ”だっこして」とお母さんにせがみます。すると、お母さんは、「ちょっとだけ?」「いっぱい だっこしたいんですけど いいですか?」と応え、なっちゃんを優しくだっこします。

 ある絵本講座に参加した大学生のSさんは、この場面を見て泣き出しました。「なぜこんなに涙があふれるのか、自分でもわからない」と号泣する彼女の横で、私はただ彼女の背中をなでることしかできませんでした。しばらくして、彼女は次のように話し出しました。

 「私には2つ違いの障害をもつ弟がいます。弟は小さい頃から多動で、目が離せませんでした。弟がいなくなる度に母は必死で捜し回りました。いつも疲れ果てている母を見て、私だけはいい子でいなくちゃ、母を悲しませちゃいけないと思っていました。でも…でも…私がずっと言いたかったことは、“ちょっとだけだっこして”だったのです」と。

 それから何日かして、彼女から手紙が来ました。「…絵本を見て、私は自分の中にしまいこんでいた思いに気付かされました。でも、その後、今度はなっちゃんのお母さんの言葉が耳に残りました。私は自分を見てくれない寂しさだけを募らせていたけれど、母も、私をだっこしたかったんじゃないかと…」

 絵本を通し、Sさんは自分自身に向き合い、対話しています。そして、「育てられる者」としての自分から「育てる者」となる自分へと心を成長させています。

 子供が「だっこして」と求めるのは、甘えても良いと思える人がそこにいるからです。家族の看護や介護、貧困や虐待、親の過重労働など、子供たちが育つ場がさまざまである中で、「だっこして」を我慢している子供がいます。と同時に、「だっこしたい」を我慢しなければならない親もいます。「だっこして」と「だっこしたい」が保証される社会や国であることを願います。(国立音楽大准教授 林浩子)=次回は27日掲載予定

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