【ときを紡ぐ絵本-親子とともに】『おはなをあげる』 優しさに包まれる

産経ニュース / 2017年12月8日 9時57分

『おはなをあげる』(ジョナルノ・ローソン作、シドニー・スミス絵)

 平成28年にポプラ社から刊行された『おはなをあげる』(ジョナルノ・ローソン作、シドニー・スミス絵)は、子供が見たり感じたりする世界には小さな喜びがあることを私たち大人に気付かせてくれる一冊です。

 お父さんと手をつないで帰る家までの道。灰色の雑踏の中でも、赤い服の女の子にはさまざまなものが見えます。忙しく携帯電話を手にするお父さんの傍らで、女の子は誰にも気づかれないような道端の花を見つけ、摘んでいきます。

 公園の道で、女の子は動かなくなった鳩(はと)に気付き、自分の手にある花をそっと手向けます。すると、それまで灰色だった世界が色鮮やかに変化します。誰かにお花をあげるたびに、それは誰からも感謝されず、気付かれずとも、女の子を取り巻く世界は色を取り戻し、柔らかな優しさに包まれていくのです。

 この絵本には文字がありません。“色”やその変化が、女の子の存在や女の子がかかわる世界を表しているといえるでしょう。

 何気ない日常の中で大人がほんの少しだけ心にゆとりを持ち、子供が見ている世界に注意を向けて共に「みる」(joint attention)とき、忙しさの中で大人が見失いがちな小さな喜びを子供たちから受け取ることがあります。

 私は毎日の愛犬との散歩中、いろいろな光景に出合います。ベビーカーに乗った男の子がすれ違いざまに「わんちゃん、笑ってるよ。うれしいんだね」と愛犬を指さしました。男の子はベビーカーを押すお母さんにそのことを伝えたかったのでしょう。残念ながら、お母さんは携帯電話で話をしながら、私の横を通り過ぎていきました。

 偶然にも銀杏(いちょう)の葉が2枚重なって落ちてくる様子を見た女の子が「仲良しの落ち葉だね」と、大切にその葉を拾いお母さんに差し出しました。このような出合いは私を優しく包み、幸せにしてくれます。絵本の最後、女の子は残った一輪の花を自分の耳に飾り、再び家を後にします。

 女の子の歩く先には、沢山の花が咲いています。この場面で、私にはなぜか、ユーミンのあの曲、『やさしさに包まれたなら』(荒井由実作詞・作曲)が聞こえてきます。

 目の前にあるものすべてが愛にあふれ、優しさに包まれた世界をうたった歌です。

 読者の皆様はいかがでしょうか。(国立音楽大准教授 林浩子)

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