【ゆうゆうLife】始まる「がんゲノム医療」(下)血液で細胞の変異把握

産経ニュース / 2018年5月17日 16時32分

血液検査で個々の患者に最適の薬を見つけられるか。リキッドバイオプシーに期待が集まる(写真はイメージです)

 患者の一人一人に合った抗がん剤を選ぶために、がん細胞の遺伝子変異などを調べる「がんゲノム医療」。今は、手術などで採取したがんの組織を使って検査をするが、血液で調べる「リキッドバイオプシー」の研究が進んでいる。血液での検査が実現すれば患者の負担軽減になり、その時々に応じた薬剤を選ぶことができると期待されている。(佐藤好美)

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 国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)は、がん細胞の遺伝子変異などを、血液で解析する「リキッドバイオプシー」の研究を、肺がんと消化器がんで開始した。

 消化器がんの研究責任者、東病院消化管内科の吉野孝之科長は「血液ですべての遺伝子異常が分かるところまでは来ていないが、組織を使って検査するのと同じような検査ができる時代が迫っている」と意欲を示す。

 今は、がん細胞の遺伝子変異などを調べるにはがん細胞の組織が必要だ。手術時に取った検体が使われることが多いが、保存状態が悪かったりすると、十分なデータが得られないことがある。一方、検査のためだけに組織を取るのは、患者の身体的負担が大きい。代わりに注目されるのが、血液に含まれるがん細胞の遺伝子変異などをキャッチする方法だ。

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 東病院で4月に始まった消化器がんの研究では、対象は大腸がん患者1千人と、胃がんや食道がんなどの患者1千人。患者から20ミリリットルの血液を採取し、数百とされるがん細胞の遺伝子変異などのうち、既存の薬とマッチングできそうな変異や新薬の研究開発が進む73種類を、「次世代シークエンサー」と呼ばれる機器で解析する。

 同時に、薬剤の保険適用を目指す「医師主導治験」を、約10種類の薬で行う。これらの薬剤は、消化器がんへの保険適用はない。ある種の遺伝子変異などをターゲットに、それぞれが乳がんや肺がんなどに保険適用されており、消化器がんの患者にも同じ遺伝子変異などが数%から10%の確率で見つかる。該当する変異などが見つかった患者に治験を紹介する。

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 実は、リキッドバイオプシーには患者の負担軽減だけでない、もう一つの大きな期待がかかる。患者の病状の変化に応じた、その時々の遺伝子変異などを把握できるのでは、との期待だ。

 がん細胞の遺伝子変異などは、病気の進行や抗がん剤の使用で変化することが知られている。以前は効いていた抗がん剤が、ある時期から効かなくなることがあるのは、そのためだ。その時々の情報を血液検査で得られれば、患者の最新の状態に基づいて、効く抗がん剤をタイムリーに選ぶことができる。

 吉野科長は、「今は、患者のがんが、手術で腫瘍組織を取った何年も前と同じだと信じて治療をしている。だが、血液で検査できれば、最も勢いのある遺伝子異常を把握でき、その最新の情報に基づいて薬剤を選べる。その時々でがんの状態にフィットした治療に切り替えていくことができる」と期待している。

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 ■大腸がんに乳がんの薬を選択

 関東地方に住む主婦、鈴木明子さん(54)=仮名=は国立がん研究センター東病院で、リキッドバイオプシーの研究に参加した最初の一人だ。4年前、大腸がんと診断された。

 がんが見つかったときにはすでに肝臓と肺に転移があり、主治医から「がんが消えることはありません」と言われた。鈴木さんは母親を肺がんで亡くしており、「がん=(イコール)死」のイメージがあった。「一生つきあっていくのかな。一生が短いのかもしれないけれど、と覚悟した」という。

 大腸のがんを切除した後、一般的に使われる抗がん剤が効いて腫瘍が縮小。肝臓と肺のがんも切除できた。だが、半年程度で再発。別の抗がん剤を使い、しばらくは落ち着いていたが、2年前、再びがんが大きくなり始めた。また別の薬剤を使ったり、以前に効いた抗がん剤も使ったりしたが、効果は出ず、大腸がんに一般的に使われる抗がん剤のほぼすべてを使い果たした。

 主治医から「乳がんの薬が効くかもしれない」と言われたのは今年1月。血液検査や細胞検査の結果、ある種の遺伝子異常があることが分かったからだ。

 大腸がんの患者には少ないが、乳がんの患者には多い遺伝子異常で、乳がんには保険で使える薬がある。同じ薬を大腸がんでも保険で使えるようにするための「医師主導治験」に参加を打診され、即答で承諾した。鈴木さんは「もう薬はなかった。別の治療法があるというだけで希望を持てた」と振り返る。

 遺伝子異常が同じなら、場所の異なるがんにも同じ薬が効くかどうかは今後、一定規模での治験による検証が必要だ。鈴木さんの場合は、1カ月後には、それまで上がる一方だった腫瘍マーカーの数値が下がった。肝臓の腫瘍の画像も見て分かるほど小さくなった。その後、数回の投与を受け、今は基準値にまで下がった腫瘍マーカーもある。

 鈴木さんに見つかった遺伝子異常は、大腸がんの患者の3%程度で見つかる。だが、一般的な治療では検査されていない。まだ、保険で使える薬がないからだ。抗がん剤を使う大腸がんの患者は年に5万人程度だから、単純計算で1500人程度が薬に出合えずにいる可能性がある。

 鈴木さんは「がんがあっても、現状維持で過ごせるといい。同じ大腸がんでも、人によってタイプが違い、合う薬も違う。早く細かい検査ができるようになると、無駄な治療もなくなると思う」と話している。

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