【本ナビ+1】作家・北康利 対コロナ起死回生の秘策 『ゲコノミクス』藤野英人著

産経ニュース / 2020年5月23日 10時2分

作家の北康利さん

 常識を疑うことは新市場開拓の第一歩だ。起業家のメンターでもある著者が、身をもって魅力ある新市場を示し、一つのムーブメントを起こそうとしている。

 着目したのは、今や成人の半分以上は、お酒を飲めないか飲まないかだという事実。

 「ゲコでも楽しめる飲み物を置いてくれたら、多少高くてもお金を払うのに」

 著者が愛しさを込めて“ゲコノミスト”と呼ぶ彼らの声は、“ゲコ=客単価低い”という常識の壁に阻まれ、年間3千億円超とも試算される大きなビジネス機会を失ってきた。ゲコノミストについて考えることは、ダイバーシティー(多様性)やSDGs(持続可能な開発目標)の文脈からも避けて通れないと著者はいう。

 強いて飲ませるのは論外だが、「人生をだいぶ損してるね」「飲む練習をすればいいのに」などの言葉は人を傷つける。そして若者の酒離れの現実を考えれば、「酒を飲まないと腹を割った話ができない」という考え方は、明らかに時代遅れになりつつある。

 ゲコノミストの中に“ノミスト”の気持ちが分からない者がいるのは仕方ないが、ノミストがゲコノミストに寄り添うことはできるはず。しかし、そんな心優しいノミストは少ない。そこで著者は、社会に変革を促そうと本書で蜂起を呼びかけたのだ。

 準備は周到に行われてきた。フェイスブック上で「ゲコノミスト(お酒を飲まない生き方を楽しむ会)」というグループを立ち上げると、メンバーは3500人に達し、「よくぞ言ってくれた」という感謝の声に溢(あふ)れている。

 コロナに苦しんでいる飲食店にとっての福音というにとどまらない。著者が本書で提起したことこそ、アフターコロナ時代を生き抜く万人向けのヒントなのだ。(日本経済新聞出版社・1500円+税)

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 ■『ロマネ・コンティ・一九三五年』開高健著(文春文庫・650円+税)

 酒をこよなく愛した文豪の珠玉の短編集。表題作で、年代物ワインの封を切るくだりの形容詞の大盤振る舞いは圧巻。開高マジックとも呼べる絢爛(けんらん)たる世界に陶然とする。

 こんな素晴らしい作品を残した著者だが、哀(かな)しいかな食道がんのため58歳の若さでこの世を去った。ゲコノミストであったらこの作品は書けまいという思いと健康志向の間で心が揺れる。

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【プロフィル】北康利

 きた・やすとし 昭和35年12月、名古屋市生まれ。東京大学法学部卒。評伝を中心に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)など著書多数。

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