【紅い浸入 一帯一路の陰で(中)】中国マネー「風の門」一変 パキスタンの商業港に巨額投資

産経ニュース / 2018年1月13日 13時5分

中国の投資で開発が進むパキスタン南西部グワダル港。随所に銃を構えた警備員が配置され、ものものしい雰囲気が漂う(森浩撮影)

 パキスタン南西部グワダル港に着くと、アラビア海から強い南風が吹き付けてきた。グワダルが、地元バローチ語で「風の門」を意味するとされる理由だ。

 この地は日ごろ、周辺の不安定な治安状況などを理由に外国人の立ち入りが規制されている。昨年12月、当局の特別な許可を得て入る機会を得た。

 何世紀にもわたって小さな村にすぎなかったその景観は、中国の巨額マネーで一変しようとしていた。習近平政権が推進する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の戦略的要衝のひとつだからだ。

 「ここに隠しているものは何もない。すべてを見てほしい」。地元港湾局のドスタイン・ジャマルディニ代表はこう説明した。

 穏やかな漁村や市場の風景が広がる中、港付近には高さ20メートルほどの大きなクレーンがいくつも立ち並ぶ。中国語の看板に「中巴友誼」(中国とパキスタン友好)との文字も見えた。

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 中国は、西部の新疆ウイグル自治区カシュガルからグワダルに至る約3000キロに沿う地域を一帯一路のもとで「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)として開発支援し、中国からパキスタン全体に落ちるカネは、約600億ドル(6兆7000億円)といわれる。

 「この1年半で港の風景が急速に変わったのは、中国からの投資のおかげだ。CPECによって、われわれは電力危機からも解放された」とジャマルディニ氏は断言した。今後は診療所や職業訓練センターも設けられ、「地元は大いに発展していく」という。

 港側は“バラ色の未来”を強調する。ただし、今後の発展は未知数だ。整備対象となる海岸線51キロのうち、完成しているのは港のほんの一部の500メートルほどで、巨大クレーンも活発に稼働している様子は見受けられない。船の着岸も2週間に1度程度だという。

 何より目に入るのは配備された警備員だ。地元バルチスタン州で続発するイスラム過激派などによるテロ事件を反映してか、全員が銃を抱えて周囲を警戒する。港に出入りする船も海上警備艇がほとんどだ。現状は活気よりも、ものものしさが漂う。

 グワダル港側は一貫して「純粋に商業的な港」であることを強調している。

 「グワダルに安全確保名目で中国軍が展開する可能性がある」(インドのPTI通信)、「中国はジブチに続き、グワダル港近くに海軍基地を建設する計画だ」(香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト)…。こうした報道が相次いでいることを念頭に置いた発言だ。

 「ここに基地が造られるわけではない」。ジャマルディニ氏は語気を強めるが、既に2015年11月に中国国営企業が港中心部を約40年間管理する権利を獲得しており、パキスタン側の説明通りに推移するかどうかは不透明だ。

 「パキスタンは中国に占領されようとしている」。地元記者はこう嘆息した。

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 グワダルの東に位置するパキスタン最大の商業都市カラチの環状鉄道も、中国の存在感を示している。かつては地元住民の足だったが、経営が悪化したため1999年に運行が停止。今や線路に近隣住民が不法に住み着いている。

 日本の国際協力機構(JICA)が10年の工期で再建させる計画があり、調査まで行っていた。だが、最終的には昨年10月に中国が事業費2075億パキスタン・ルピー(2225億円)の大半を「中国・パキスタン経済回廊」(CPEC)の一部として支払うことで合意した。

 「それについては、われわれは選択の余地はなかった。投資してくれるところが中国だったということだ」と地元シンド州のフサイン・シャー鉄道相は説明する。支援国が中国になった内幕は定かではないが、関係者は「シャリフ前政権時代に流れが変わった。(JICAが関わることに)中国から相当な横やりが入ったようだ」と明かす。

 パキスタンを基点に中央アジアに伸長し、インド洋や中東、アフリカへの海の玄関口を得たい中国。CPECは、カシミール地方のパキスタンとインドの紛争地域も縦走し、インドをいらだたせる。中印は、カシミール地方の別の地域や印北東部アルナチャルプラデシュ州の領有権を争っている。対インドで蜜月にある中パのいっそうの連携は、核武装する3カ国の危険な“火薬庫”に火種を与えている。

 地域で存在感を保ちたいインドは、グワダルに対抗するように昨年12月、イラン南東部チャバハルに5億ドル(約560億円)を投資して港を開いた。グワダルから距離にしてわずか100キロ。中央アジアへの物流活性化を狙っており、CPECに対抗する意図が透けてみえる。

 日本も通関設備やコンテナ装置などで資金協力を行っており、周辺地域は安倍晋三首相が米印とともに推進する「自由で開かれたインド太平洋戦略」と中国が真正面からぶつかり合っている場所とも言える。

 パキスタンのある研究者は、苦しげにこう話した。「本音で言えば中国は信用できない。投資の先にあるのは支配かもしれない。それでもインフラが立ち遅れたこの国に金を出してくれる。何がよく、どこに付くのが正解か誰にも分からない」

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