【紅い浸入 一帯一路の陰で(下)】カンボジア経済特区に積極援助 良港の街、拠点化に躍起

産経ニュース / 2018年1月14日 13時4分

プノンペンのトンレサップ川に架かる「日本友好橋」と奥に並行して架かる「中国友好橋」。相互通行で利用されていたが、昨秋から大規模改修のため日本友好橋は閉鎖された=昨年9月(吉村英輝撮影)

 人口増が続くカンボジアの首都プノンペン。市街地と郊外のベッドタウンはトンレサップ川に隔たれ、全長約700メートルの「チュルイ・チョンバー橋」が結ぶ。通称は「日本友好橋」。日本が1960年代に完成させ、一度は内戦で破壊されたが94年に修復した。たもとには日本の援助を記す碑文も建つが喧噪(けんそう)に埋もれ、誰も見向きすらしない。

 その日本橋が昨年10月、約2年間の大規模改修のため閉鎖された。現在、市民が頼るのはすぐ横に架かる「中国友好橋」だ。中国が2014年に完成させ、たもとには中国国旗が入った看板が輝く。

 日本橋と中国橋はともに2車線で、それぞれ下りと上りの専用道として運用されてきた。当面は中国橋が片側1車線の対面通行で、大動脈を一手に担う。

 カンボジア支援では日本が伝統的に存在感を示してきた。だが、援助額では中国が10年に日本を抜いて1位となり、影響力を増している。カンボジアへの国別投資認可額の累計(1994〜2016年、日本貿易振興機構資料)でも、中国が122億ドル(約1兆3600億円)と首位で日本はその8分の1にすぎない。ある日本政府関係者は言う。

 「援助か商売か実態は不明だが、地方の水力発電や道路整備でも中国からの投資は圧倒している。金額やスピードで張り合える状況では、もはやない」

「第2のマカオ」

 先月、中国の習近平国家主席が北京でカンボジアのフン・セン首相と会談したときのことだ。中国は70億ドルの支援を発表し、カンボジアの取り込みを図った。

 今月10日には、中国の李克強首相がメコン川流域5カ国との首脳会議のためプノンペンを訪れ、「カンボジアと開発戦略を深める用意がある」と秋波を送った。南西部シアヌークビル港経済特区に言及し、さらなる技術移転や観光開発を約束した。

 シアヌーク前国王にちなみ命名されたシアヌークビルは、1960年代に開発された行楽地。再開発が進み、中国は工場などに積極投資した。李氏は中国と前国王の歴史的な友好関係にも触れながら「中国から100社以上が参加し、2万人以上の雇用を創出した」と誇示する。

 ロイター通信によると、人口25万のうち中国人は数万人ともみられる。市内には中国語の表示があふれ、中国人向けホテルやカジノが建設され、「第2のマカオ」との異名も。中国の援助で、プノンペンからの高速道路も計画されている。

 中国がシアヌークビルにこだわる理由は、この地がカンボジア唯一の深水港を擁することにある。隣国ラオスからプノンペンを経由しタイ湾に抜ける要衝でもある。現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を推進するため、影響下に置いておきたい拠点なのだ。

進む“米国排除”

 30年以上権力の座にあるフン・セン氏は、今年7月の総選挙を前に「今後も10年間は首相にとどまる」と豪語している。中国寄りの姿勢とともに独裁色を鮮明にし、昨年6月の地方選で躍進した野党カンボジア救国党を解散させるなど基盤固めに躍起だ。

 一部メディアや団体も閉鎖に追い込んだが、「狙われたものの多くは、米国と何らかのつながりがあった団体や個人だった」(英誌エコノミスト)という。米国は報復措置として、入国ビザ(査証)発給制限などカンボジアへ制裁措置を連発。昨年11月には、プノンペンの「カンボジア地雷対策センター」(CMAC)へ、年間200万ドルの支援打ち切りも通告した。

 米国の援助打ち切り通告から数日後の11月中旬、フン・セン氏は中国側から地雷除去支援の申し出があったと発表した。米国が支援に後ろ向きな態度を見せれば、中国がすぐさま取って代わろうとするのだ。

 ただカンボジア内では、中国への傾斜に警戒も強まる。調整役として期待されるのが日本だ。そもそもCMACは内戦時代に埋設された地雷などの除去に当たる政府組織で、日本が1992年に初めて国連平和維持活動(PKO)として派遣した陸上自衛隊の活動を受け継いでいる。

 中国が圧倒的なヒトとカネでカンボジアへ“浸入”すればするほど、フン・セン氏は強権化する。日本が民主主義のもとで「質」や「信用」を武器に「自由で開かれたインド太平洋戦略」をどう展開するのか。その手腕が問われている。

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 この連載は、佐藤貴生、矢板明夫、森浩、吉村英輝が担当しました。

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