【検証6・12(上)】突然の「演習中止」発言に衝撃 真意めぐり米政界、国防関係者が騒然 日韓も当惑

産経ニュース / 2018年6月13日 22時24分

 「こいつとはやっていけそうだ」

 シンガポール南部セントーサ島のカペラホテルで12日午前9時過ぎ(現地時間)、史上初の米朝首脳会談が始まった。会談に臨んだ米大統領、ドナルド・トランプは北朝鮮の朝鮮労働党委員長、金正恩(キム・ジョンウン)と固い握手を交わし、こう直感した。通訳を交えた2人だけの話し合いは41分間に及んだ。

 2人だけで41分間

 トランプは金とこの日7回目の握手をして別れた後、長年の盟友で「影の補佐官」とも呼ばれるFOXニュースのスター司会者、ショーン・ハニティに金の印象をこう明かす。

 「彼はとても人柄がいい。愉快で、しかも極めて利口だ。非常に交渉上手で戦略的な男でもある」

 トランプは、これまで金を「ちびのロケットマン」と呼び、北朝鮮が「炎と怒りに見舞われる」と威嚇してきた。一連の発言は、金を対話の場に引き出すための方便にすぎず、「本当は言いたくなかったし、ばからしくも思ったが、仕方がなかった」とハニティに弁明した。首脳会談が実現するや、トランプは金へのガードを一気に下げたかにみえる。

 かつては呪文のように唱えていた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)すら口にしなくなった。そんなトランプから、この日午後4時過ぎに始まった記者会見で衝撃的なひと言が飛び出す。

 「米韓の合同軍事演習(ウオー・ゲーム)を中止する」

 「莫大(ばくだい)な費用かかる」

 軍事演習に関し、この日発表された共同声明では言及がなかった。トランプは、軍事演習を「(北朝鮮に対して)挑発的だ」「莫大な費用がかかる」とまで言い放った。

 この「爆弾発言」は、たちまち米本国の政界と国防関係者を震撼(しんかん)させた。上院議員(共和党)、ルビオは「演習中止」発言について、ツイッターに「不愉快だ」と書き込んだ。

 トランプが専用機で12日午後6時過ぎにシンガポールをたって帰国の途上、ワシントンでは副大統領のマイク・ペンスが共和党の有力議員らをひそかに集めて事情を説明するなど釈明に追われた。

 説明会に出席した上院外交委員会の東アジア・太平洋小委員長、コリー・ガードナーはツイッターで「通常の即応訓練や訓練交流は継続されると聞いた」と明かした。

 しかし、大規模軍事演習に関しては情報が錯綜(さくそう)していた。ホワイトハウスは騒ぎの拡大を受け、「半年ごとの大規模軍事演習は行わない」と表明し、トランプ発言が「事実」であると確認した。

 トランプの「演習中止」発言は、国防総省にも明確に知らされていなかったとみられる。米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、同省の関係部局は発言の真意を探るため連絡や対応に追われた。国防当局者は同紙にこう強調した。

 「米韓の大規模軍事演習は、即応能力の維持には不可欠だ。小規模の訓練だけでは(有事の際に)役に立たない」とトランプの発言に異を唱えた。

 自賛「うまくやった」

 「演習中止」発言は韓国をはじめ、同盟国、日本を当惑させた。韓国大統領府の報道官は13日、「トランプ大統領の発言の正確な意味や意図を把握する必要がある」と困惑した様子だ。

 米朝首脳会談の結果については、韓国で保守系のメディアや野党から強い批判が起きている。韓国紙、朝鮮日報は13日付1面トップに「トランプ、CVIDなく、韓米演習中断」との見出しを掲げた。同紙主筆はコラムで「韓国全体がだまされたようだ」と落胆を吐露した。

 同紙は「非核化をひと言も言わない金正恩にトランプ大統領は韓米軍事演習の中断を与えた」とも批判。トランプ発言の背景に、金正恩が体制保証を求めた際、軍事演習の中断を求めたのではないかとの見方を伝えた。

 一方、官房長官の菅義偉は13日午前の記者会見で、演習中止などについて「米国から詳細な説明を受けたい」と述べ、事前に聞いていなかったことを明らかにした。

 会談を終えたトランプは周囲の波紋をよそに、ツイッターでこう自画自賛した。

 「金正恩とうまくやった。平和を作るのは最も勇気のある人たちだけだ」=敬称略

◇ 

 世界が注目した米朝首脳会談。焦点の核問題や体制保証をめぐる米朝間の攻防など、その舞台裏を追う。(シンガポール 黒瀬悦成、ソウル 名村隆寛)

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