【関西の議論】倒木直撃「トヨタ2000GT」、今も保管するオーナーの無念…訴訟和解も2億円の修理は断念

産経ニュース / 2018年4月16日 6時32分

平成26年6月、富山県南砺市の国道で、倒木が直撃して大破したトヨタ2000GT(代理人弁護士提供)

 平成26年6月、富山県南砺(なんと)市の国道156号を走行中のスポーツカー「トヨタ2000GT」に予期せぬ災難が降りかかった。不運にも倒れてきたブナの大木に直撃され、一瞬にして大破したのだ。所有者は約2億円の費用がかかる修理をやむなく断念し、道路管理者である富山県を提訴。富山地裁で先月、県が車両購入費の半額に相当する1750万円余りを支払うことで和解が成立した。奈良県在住のオーナー男性にとっては、30年越しの夢をかなえて入手した憧れの名車。それが購入してわずか3カ月で無残な姿に。今も大破した車を自宅ガレージで保管するオーナーは「希少価値がある車。大破したのはショック」と無念さを募らせている。(森西勇太)

高さ30メートル、直径1・9メートルの大木が突如…

 訴状や原告側の代理人によると、事故は26年6月8日午前9時40分ごろ、富山県南砺市菅沼の国道156号で発生した。車のオーナーである男性会社役員の誕生日を祝おうと、長男らが同市の世界遺産・五箇山にある合掌造り集落で車の撮影会を企画。オーナー自身は参加しなかったが、長男らは奈良から車2台で現地に向かい、トヨタ2000GTはオーナーの部下が運転していた。

 国道を東に向かって走行中、道路脇から高さ約30メートル、直径約1・9メートルのブナの大木が行く手をふさぐように突如倒れ込み、2台のうち後ろを走っていたトヨタ2000GTに直撃。車は大破し走行不能となったが、幸いにも運転していた男性は打撲などのけがを負ったものの、命に別条はなかった。

“ボンドカー”にも採用、生産は337台のみ

 トヨタ博物館(愛知県長久手市)によると、トヨタ2000GTは、トヨタ自動車とヤマハ発動機が共同開発し、昭和42(1967)年~45年にかけて生産されたスポーツカー。排気量1988ccのエンジンを搭載し、低い車高に長いボンネット、流線形のボディーが特徴だ。当時の価格は238万円。トヨタのクラウン2台分、カローラ6台分に相当する超高級車だった。

 人気スパイ映画「007」シリーズの第5作で、日本が舞台となった「007は二度死ぬ」(1967年公開、ショーン・コネリー主演)では、主人公が乗る“ボンドカー”として発売に先駆けて登場。制作側がスパイ映画にふさわしい車を探していたといい、同館の担当者は「日本が舞台で、撮影段階では市場に出回っていなかったことから選ばれたのでは」と話す。

世界記録を打ち立てた“幻の名車”

 その走行性能は群を抜いていた。昭和41年、茨城県谷田部町(現つくば市)の自動車高速試験場(現日本自動車研究所)でタイムトライアルに挑戦。排気量を問わず、72時間連続して走り続けた中での平均時速に加え、1万5千キロと1万マイル(約1万6千キロ)をそれぞれ走破した上で平均時速を競う計3種目で、フォード(米国)のマーキュリーが保持していた当時の世界記録を塗り替えたのである。日本のメーカーが世界記録を樹立したのは史上初の快挙だった。

 もっとも、破格ともいえる製造コストゆえ、「原価を考慮すれば、売っても利益が出なかった」とトヨタ博物館の担当者。赤字になるのは織り込み済みで、いわば「広告塔」として、トヨタが誇る技術力の高さを世界中に知らしめた。

 トヨタ2000GTはこうしてブランドイメージの向上に貢献した後、役目を終えて生産中止に。3年間で生産されたのはわずか337台、今では国内で100台程度しか現存していない。“幻の名車”とたたえられるゆえんだ。

3カ月かけて整備、直後に起きた悲劇

 原告側代理人によると、オーナーは車が唯一の趣味。18歳で運転免許を取得した当時はいわゆるスーパーカーブームで、当時からトヨタ2000GTに憧れを抱いていたという。いつかは手に入れたいと思っていたが、市場に流通する機会はほとんどなく、長らく購入するには至らなかった。

 だが、事故の3カ月前、自身が欲しかった型式をディーラーから紹介され、3500万円で購入。30年来の夢をついにかなえた。車は以前の所有者がコレクション用として保管していたため、10年以上も走行しておらず、約3カ月かけて整備。事故に遭うまでは試走程度しか公道を走っていなかったという。

富山県が1787万円支払うことで和解成立

 平成28年4月、富山県の道路管理に問題があったとして、オーナーと運転していた男性の2人が県を相手取り、車代や治療費など計約3900万円の損害賠償を求めて富山地裁に提訴した。県は「倒れた木に異常は見当たらず、事故は予見できなかった」と主張。当初は争う姿勢を示していたが、今年3月28日、原告側に約1787万円を支払うことで和解が成立した。このうち1750万円が車両損害額の一部にあたるという。

 原告側の代理人弁護士は「富山県の道路管理に問題があったことを地裁が一定程度認めたものと受け止めている」と話す。県道路課は「道路管理に問題はなかったと考えているが、事故が起きたのも事実。これまで以上に、道路のパトロールに努めていく」としている。

修理費2億円、今もガレージで眠ったままに

 事故に遭ったトヨタ2000GTは現在、どうなっているのか。実はオーナーの自宅ガレージに梱包(こんぽう)した状態で保管されている。当初は修理を考えたものの、約2億円もかかるとあってやむなく断念。トヨタ2000GTを所有する知人に部品を売却し、有効活用してもらうそうだ。

 代理人を通じ、産経新聞の取材に応じたオーナーの男性は「希少価値のある車がこのような事故で大破したのは大変ショックだが、被害が一定程度回復され、ホッとしている。この和解をきっかけに、全国で道路沿道の樹木の管理体制が少しでも見直されることになればいいと思う」とコメントした。

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