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「対話」で腹落ち、不思議と笑顔~筑後市農政課での地道な実践からの拡がりを

政治山 / 2017年11月15日 11時50分

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

        ◇

 筑後市役所農政課の中野と申します。

 2015(平成27)年度に人材マネジメント部会に参加し、現在は、福岡で研究会が開催される際にお手伝いをしております。

 私が研究会を修了してから実践していることは、各部署の職員を巻き込むような大きなものではなく、自分が所属する職場で小さなことを積み重ねています。それは、本当に地味で地道な職場での実践です。

 今回、その実践事例を農政の現状と今後も含めて報告させてもらいます。

農政課の仕事

 筑後市の農政課職員は、行政としての業務以外に各種協議会の事務局も市担当者が兼ねているため、行政職員としての起案決裁をするときもあるし、協議会事務局として起案決裁をすることもあります。農業後継者、新規就農関連でいえば、県普及指導センター、JA、農業共済、生産者などで組織する「筑後市農業後継者対策協議会」が実質的な活動母体となって事業を進めています。この事務局を市農政課が担っているため、協議会事務職員としての業務も行っています。

減反政策が変わる

 農政が直面している問題は多々ありますが、今一番は、上述した後継者問題でも、耕作放棄地問題でも、TPP関連問題、国内の食糧自給率問題でもなく、水稲の需給調整に係る制度の見直しでしょう。

 1971(昭和46)年から実施されてきたいわゆる減反政策は、これまでも大きな見直しを経ながら継続されてきました。単純に水稲の生産を制限するというこの制度は、現在、国、県、市町村、そこから各市町村に設置される地域協議会の流れで、水稲の生産数量が配分されていますが、来年度以降は、国から生産数量に関する情報が、都道府県に設置された地域協議会を通じて市町村の地域協議会へ提供されるようになります。

 つまり、行政ルートでの生産量の配分から、需給状況の見通し等の情報を基にして、「生産者自身が自分たちの考えで生産数量を決定する」という流れに変わります。「減反制度が廃止」などと言われておりますが、各地域でその地域の生産量を決定していく仕組みに変わります。現在の米の消費量から見ても、生産調整はせざるを得ない状況にあるといえます。

 筑後市では「筑後市水田農業推進協議会」が、水稲の需給調整を担っています。事務局は、JAの筑後地区センターと筑後市農政課の担当職員が構成し、その事務の大半を行政が担っています。

 需給調整に関する国の考えが大きく変わるため、2016(平成28)年2月の協議会総会において、「需給調整方法の考えを生産者団体として出すべきではないか。そして、生産者団体が中心となって協議会事務も進めていくべき」だと行政から提起しました。2018(平成30)年からの見直しに向けて、具体的な実施方法や周知方法を考える必要があるため、その制度設計を2016年度内に行い、翌2017(平成29)年度に試験的に実施し、2018年度から本格実施、との考えから提起しましたが、何の進展もなかったため1年後の2017年2月の協議会総会で再度、同様の主旨で提起し、3月以降事務レベルでの話し合いを進めていくことになりました。

農政課での「対話」

 各地域協議会の事務局体制は、要綱上、「市町村、農協等の団体、農業共済組合等、農業者その他の構成員が連携して」としか規定されていません。筑後市を含む福岡県の出先機関である筑後農林事務所管内の8市町においては、全てが行政を中心にした事務局体制となっていますが、福岡県内を見渡せば、自治体によって多様な形態がとられているようです。

 このような中で、筑後市では、4月以降に需給調整の具体的な実施方法と協議会事務局体制についての議論を開始しました。

 この議論に当たっては、市農政課内部の協議、JAとの協議が出てきますが、課長以下担当者も含めた4名での話し合い、JA担当者との話し合い、また必要に応じて、JA本店、生産者代表者への意見聴取、説明会を開催するなど、幾度の協議を行いました。

 特に農政課内部での協議では、「対話」ということを意識して職員相互の納得、理解、意見の一致、今後の進め方、考え方にズレをなくすことを目指しました。担当者間で話す際には、「どんな意見でも全員が発言し、意見を言う」「理解にズレが出ないよう必ず全員が納得する」「納得、腹落ちする顔になるまで話し合う」ことを心懸けました。不思議と、何度も話をする中で、納得すると最後には笑顔が出ることが面白く感じました。

農政課でのダイアログに取り組む
農政課でのダイアログに取り組む

職員の繋がりがより深く、拡がった

 この協議過程の中では、県南地区の状況確認と、協議会事務分担の議論に面的拡がりを持たせるため、前述した筑後農林事務所管内8市町の担当者に働きかけて、担当者会議を数回開催しました。個別事業によっては、担当者会議を不定期に開催することもあり、これまで全く関係がなかったものではありませんが、県南自治体間の職員の繋がりがより深く、拡がったと感じています。

 担当者会議を開催したことで、他自治体の職員が、「同じように思っていたけど、これまで話をしていなかったため、内部での議論のきっかけになった」とか、「それぞれの職場でそれぞれの職員が、同じ思いで仕事に取り組んでいるのが分かると、仕事をする上でのやる気が俄然上がりますね」と、言っていたことを強く憶えています。

 現在、次年度以降の需給調整方法に関しては、臨時総会での決定を待つのみですが、事務局体制の見直しに関しては、未だ決定しておらず継続協議となっています。また、今回の取組は、残念ながら、地域や市民への拡がり、変化を創るまでには至っていません。国の制度改正の主旨からすれば、行政に頼らずに生産者(団体)自身が自ら行い、それを継続させていくところが到達地点となるのでしょうか。そこに行きつくには、まだまだ自治体職員の行動と時間が必要なようです。

担い手対策

 もう一件、筑後市の農政部門で取り組んでいる事例を報告します。

 10年程前のことです。「このあたりも、近い将来、限界集落になるだろうな。」

 人口約5万人の筑後市の中でも農村地帯で若い者も少ない地区で現地調査をしている最中に、地元役員の方が言われました。この発言は、将来に向けて現在どう対処するかを、私に本気で考えさせるきっかけとなった言葉でした。

 筑後市では、2004(平成16)年に最初の法人が設立されてから、集落営農を基礎にした農事組合法人が、現在22組織設立されています。この22組織と個人の大規模認定農業者で市内の水田農地70%を集約しています。筑後市は、イチゴ、ナス、トマトなど施設園芸も盛んな地域であるため、この数字は驚異的であるとも言われます。

 平成の一桁時代、土地改良事業を受けて、各集落でそれぞれの機械毎に「○○機械利用組合」が設立され、平成10年代の前半に、土地改良事業の実施要件でもあったため、各械利用組合を「生産組合」に移行させてきました。その後、「農事組合法人」の設立と発展させてきました。機械利用組合の設立は、JAと市の担当職員の働きかけから始まるのですが、これも農業関係機関担当者同士、日頃の連携から生まれたものです。しかし、説明に行く地元の全てで反対され、怒られ、そのスタートは非常に苦しかったと聞いています。

 機械利用組合設立は、コスト削減という視点での取組でしたが、法人設立に関しては、2005(平成17)年の品目横断的経営安定対策及び2010(平成22)年の農地利用集積円滑化事業の実施をきっかけに推進してきました。加えて、担い手対策、次世代への継続という視点も持たせていたようです。

 しかし、現在、その法人の担い手も高齢化してきており、2014(平成26)年に、当時の市担当者が行った農事組合法人への調査では、役員の平均年齢が64.7歳でした。その後法人役員の若干の出入りはあるものの大きな入れ替わりがない中、今現在は、単純に3歳平均年齢が上がっていると言えます。法人を設立し、集落として農地の保全、農業を行うとしても、その中心となる役員、機械のオペレーターがいなくなれば、意味がありません。加えて、病気などでいつ倒れるとも限りません。現に今年、ある法人の代表理事が病気で倒れ、農地管理と機械OPの対応に苦慮しています。

 それぞれの組織が同じ道を歩まないよう、また「今頃言われても」といった状況にならないよう、担い手対策を早急に打つ必要がありました。

「対話」で持続可能な組織の構築を目指す

 5年程前から、その対策を早急に取り組んでいくべきだと考え、担当業務の中で今後の担い手、後継者対策の必要性を、法人に対して説明してきました。

 具体的な対策として、ようやく2015年に、市農政課担当者間で「法人組織の対策を何もしないままだとどうなるか」について、「対話」を行い、お互いの理解を一致させました。その後、市農政課、県普及指導センター、JAの各担当職員でその対応協議を行い、翌2016年にかけて、22法人から個別に聞き取り調査を実施しました。

 個別の聞き取り結果を関係機関担当者間で取りまとめて類型化し、法人組織の連絡協議会での報告、各法人への報告も兼ねた再度の面談を行いました。

 簡単に触れますと、22法人のうち2法人は既に独自の方針を持って運営していますが、法人の将来の経営形態に関して、3法人が「組合員までの意思統一が済んでいる」と回答し、6法人で「役員間での意思統一が済んでいる」と回答しています。残り半分の11法人は、「意思統一ができていない」というのが現状で、22法人のうち18法人が「10年以内に役員、OPの不足が生じる」と回答しています。

 その後、市担当者内で今後の法人対応に関して協議を重ね、「目的」「管理者集積」「外部雇用」を項目とした『農事組合法人の将来像と支援策』を作成しました。これからの法人が進むべき方向を数案提示して、各法人役員会に出席して説明しました。役員会は、顧問税理士が行う総会前の会計の事前説明も兼ねていたため、資料作成時には顧問税理士からも意見を伺い、連携した支援を行うようにしました。

 役員会への説明後、法人では、構成員のアンケート調査を行いました。役員自身が改めて法人内部、構成員世帯の現状把握を行い、どうしていくかを考える必要があります。本来であれば、設立時や設立からこれまでの間にどのような法人組織を目指すのか決めておく必要がありますが、殆どの法人においてはその柱を定めておらず、関係機関含め担当者として非常に反省しています。

 これまでは、統一した施策のもとで、法人設立を同じように行ってきましたが、その目指す姿は22の法人が地域性や人員構成なども相まってそれぞれの考えで進んでいくべきでしょう。法人によっては、役員間でその考え方に違いも出ています。目指すべきところの答えは一つではありません。まずは、それぞれの法人内での「対話」から目指すべきところを確定させ、そのために何をどうしていくか、持続可能な組織の構築のための個別の対応が、私たちには求められています。

福岡県筑後市役所 農政課長 中野弘之さん
福岡県筑後市役所 農政課長 中野弘之さん

「人材マネジメント研究会」で学んだこと

 行政の職員には、異動があります。早い場合は1、2年で異動もします。そのような中で、いかにして将来に向けた施策を持続して実施していくか、同じ思いをどれだけ継続させることができるか、そして受け継いでいくか。その方法の一部を「人材マネジメント研究会」では学んだような気がしています。機械利用組合の設立の際も、担当職員をはじめとした農政課職員が、様々な「対話」を繰り返して作り上げたのではないでしょうか。生産組合、法人設立時も同様と言えます。

 筑後市の農政は、特に、関係機関との連携ができていると県内でも言われているのですが、先輩たちが創り上げた連携体制の継続は、今では私に課せられていますし、そこから農業、農村をいかに持続させていくかも課せられています。

 法人の今後の体制構築は、短期間で構築できる場合もあるし、継続した時間のなかでしか構築できない場合もあるでしょう。先進事例は全国に転がっていますが、結局は、その地域で起きる懸案事例の解決は、その地域で解決するしかありません。そのための努力を様々な「対話」を通じて、解決していこうと考えています。全国の集落営農型の法人組織はいずれ同じ壁に突き当たります。今現在、職場の仲間とともに、にわかコンサルタントとして、「対話」を通じての解決方法を模索しています。

職員の笑顔を少しずつ増やしていきたい

 最後に、「人材マネジメン研究会」を修了した筑後市マネ友の報告です。

 今年度研究会に参加している筑後市役所の3人が、夏期合宿後の取組として、職員の自由参加でのオフサイトミーティングを開催しています。第1回目は、「時間外勤務を減らして自分自身の時間をつくるために」、第2回目は、「未来の筑後市職員はどういう職員か」をテーマに、職員間での「対話」を実践しています。

 昨年度参加者の3人は、今年度係長職を対象にして、伊藤史紀幹事を招いて筑後市版「人材マネジメント研究会」を開催しています。係長たちはいろいろとぶつぶつ言いながらも、グループ内での「対話」を繰り返して前進しているようです。

 私の後に研究会を修了した職員が実践している新しい取組、市役所内の職員を巻き込んでの大きな取組と職場での小さな取組、筑後市の職員がいろんな視点で取り組む大技、小技の実践活動を絡ませることで職員の笑顔を少しずつ増やしていけたら、と考えています。

 失敗と成功を繰り返し、これからも、ともに実践活動をしていきましょう。

        ◇

自治体職員のスキルアップ研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」研究生による連載コラムです。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴ります。

<福岡県筑後市役所 農政課長 中野弘之>

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