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「18歳選挙権」の意義と今後の課題

政治山 / 2015年6月22日 11時16分

参議院本会議で17日、選挙権が得られる年齢が18歳以上に引き下げられる改正公職選挙法が可決・成立し、来夏の参議院選挙から施行される見通しです。「18歳選挙権」の実現は、女性参政権を認めて以来の大きな変革でありますが、これによりすぐに若者の低投票率が改善されるわけではありません。そこで、これまで若者の投票率向上や若年層への有権者教育に取り組んできた皆さんに、「18歳選挙権」の意義や課題などについて寄稿いただきました。今回は、大学生時代から子ども系・教育系のNPOで活動し、模擬選挙推進ネットワークの運営に携わっている東洋大学社会学部社会福祉学科助教の林大介さんです。

2014年12月の総選挙において、全国の小中高大学など30校以上、1万人以上が参加して模擬選挙を実施するプロジェクトについて記者発表をする林大介氏(左)
2014年12月の総選挙において、全国の小中高大学など30校以上、1万人以上が参加して模擬選挙を実施するプロジェクトについて記者発表をする林大介氏(左)。

「18歳選挙権」の実現とその背景

 既報の通り、公職選挙法が改正され、1年後の2016年7月から「18歳以上」が国政選挙、地方選挙などで投票することができるようになりました。つまり、現在、17歳の高校2年生以上が参政権を得ることになります。参政権が拡大するのは、1945年に女性参政権が保障されて以降、70年ぶりです。

 「18歳選挙権」が浮上した背景には、憲法改正に必要な国民投票について定めた「改正国民投票法」(2014年6月施行)を挙げることができます。「改正国民投票法」においては、その投票年齢を4年以内に18歳以上に引き下げることとしており、これに合わせて選挙権年齢も引き下げることを、共産、社民両党を除く与野党でプロジェクトチームをつくって議論がされていました。昨年秋の臨時国会で選挙権年齢を引き下げる公選法改正案が提出されましたが、衆院解散で廃案、今回、改めての審議入りとなり、全会一致での可決・採択となりました。

若者の選挙離れ・政治離れが言われるが

 昨年(2014年)の総選挙は、突然の解散で有権者のおとな自身、何が争点だったのかが分かりにくかったためか、投票率も戦後最低の52.66%を記録(前回2012年は59.32%)。20代の投票率は32.58%と平均よりも大幅に低くなりました。

 こうした状況を背景にして、「若者の投票率は平均を大きく下回っており、若い人は政治に興味が無い」「選挙権年齢を引き下げても、若者は政治を判断できない」という声もよく聞きます。子どもや若者が政治に関心が無く、判断できないのは本当なのでしょうか。

 内閣府「平成25年度 我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」によると、日本の若者の政治に対する関心度は、『関心がある』50.1%、『関心がない』42.6%でした。調査に参加している7か国を比較すると、最も関心が高いのはドイツ(69.0%)で、韓国(61.5%)、アメリカ(59.4%)、英国(55.8%)、フランス(51.8%)、日本(50.1%)、スウェーデン(46.4%)となります。また、「子どもや若者が対象の政策や制度は対象者に聞くべき」について67.7%が『そう思う』と答えています。政策決定過程への関与について当事者としての声を聞くべきだとの声は他国と比べるもそれほど低くはありません(韓国77.1%、アメリカ72.7%、英国73.3%、ドイツ79.2%、フランス70.9%、スウェーデン77.0%)。

 若者は、政治に対して自分たちの声を届けたいと思っているのです。むしろ、「若者が政治から離れている」のではなく、「政治が若者から離れている」と言えます。「若者の政治離れ」を嘆くのであれば、それこそおとな自身が範を示すべきです。投票することはもとより、地域の課題について、世の中の動きについて、おとなが子どもや若者に話し、子どもや若者が感じていることや考えていることをおとなが聴くことが、子どもや若者に主権者意識を芽生えさせることにつながるのです。

グループ討議で提起された課題を書き出す生徒たち(左)、政治山のマニフェスト・公約比較表を元に議論を重ねる
衆議院選挙未成年模擬選挙「Let’sもぎせん」が行われた東京都町田市にある玉川学園中学部・高等部(2014年12月11日)。グループ討議で提起された課題を書き出す生徒たち(左)、政治山のマニフェスト・公約比較表を元に議論を重ねる

「18歳選挙権」によって変わること

 そうした中での今回の「18歳選挙権」。前述しましたように、「憲法改正」が背景にあるのは事実ですが、憲法を改正するかどうかを最終的に決めるのは有権者です。国の根幹である憲法の改正について、今までよりも多くの世代が関わることができるようになるということは、それだけ多様な世代の意思表明や選択の機会が広がることになります。

 また、18歳ということで、高校3年生のクラスの中に選挙権の「有る子」と「無い子」が混在することになります。大学進学や就職を機に故郷を離れてしまう人が多い中、高校へは、住民票がある自宅から通学する子がほとんどです。つまり、高校在学中に自分が生まれ育った地元で投票することにより、地元のことを深く意識し、友達や家族と選挙や政治に着いて話す機会が生まれやすくなります。

 「18歳選挙権」の実現によって、これまで語られることがなかった「政治教育」に注目が集まったことは大きなポイントです。もちろん、学校における政治教育のあり方、特に教員の政治の扱いはこれまで以上に「中立性」が問われるようになります。だからこそ、「政治教育」を学校だけで取り組むのではなく、家庭や地域、あるいは職場などでも取り組んでいくことが不可欠になります。当然、立候補する側は、18歳が理解できるより分かりやすい政策を打ち出すことが重要となります。

「主権者教育・政治教育」を家庭、地域、学校で

 有権者となる前に、模擬選挙等を通じて有権者になるためのトレーニングや、政治や選挙について考え、話題にし、身近に感じることも大事です。民主主義は、子ども時代からの経験によって培われていくものであり、手間がかかろうともしつこいくらいに民主主義を意識して、子どもに働きかけることが重要です。

 世界の中で、図抜けて少子高齢化が進んでいる日本において、ますますその割合が減っていく子ども・若者。選挙結果の影響をより長く受けるのは、今を生き、次代を生きていく世代です。50年、60年と生き続ける子どもたちが、社会に関心を持ち参加することは、賢い有権者を育てるためにも、そして主権者意識を育むためにも、大事なことだと実感せずにはいられません。実際、東日本大震災で被災した自治体においては、復興計画を検討する会議に、有権者では無い小学生や中学生をメンバーとして参加しているところもあります。子ども時代から、「地域の担い手」という意識を持つことは、それこそ主権者としての自覚と責任を意識することになるのです。

初めて目にする投票用紙記載台で投票用紙に記入する生徒たち(左)、やや緊張した面持ちで投票箱に投票用紙を入れる生徒
衆議院選挙未成年模擬選挙「Let'sもぎせん」で、初めて目にする投票用紙記載台で投票用紙に記入する生徒たち(左)、やや緊張した面持ちで投票箱に投票用紙を入れる生徒

<東洋大学社会学部社会福祉学科助教 林大介>

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