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「誰も自殺に追い込まれることのない信州」の実現を目指して―阿部守一長野県知事インタビュー

政治山 / 2018年3月30日 11時50分

――はじめに、長野県内の自殺者の状況と知事の課題認識についてお聞かせください。

 2006年の「自殺対策基本法」の施行以降、自殺対策の総合的な推進によって自殺者数は減少傾向にあり、厚生労働省の人口動態統計によると、平成以降のピーク時(2000年、2003年)に576人だった自殺者が、2016年には339人となりました。

 しかしながら、1日およそ1人が自ら命を絶っていることから非常事態は継続していると認識しています。全庁を挙げて取り組み、誰一人として自殺に追い込まれることのない、生きやすい社会を目指していきたいと考えています。

阿部守一 長野県知事
阿部守一 長野県知事

――長野県では一昨年から、「日本財団いのち支える自殺対策プロジェクト(以下、プロジェクト)」の協力自治体としても自殺対策を進めているとのことですが、具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。

 平成29年度は市町村との連携による取り組みを充実しました。「いのちと暮らしの総合相談会」を11市町村において開催したところ、1会場あたり32名の参加がありました。本県の特長として小規模市町村が多いのですが、これまでと比べて、地域ごと多くの皆様にご参加をいただきました。

 参加へのハードルを下げる工夫として予約を不要としたり、暮らしのことを何でも相談できる「ワンストップ窓口」としたことが奏功しました。新聞広告などを利用して広く周知したことも、多くの方に参加をいただけた成果だと思います。

――相談窓口などの情報提供の仕方にも様々な工夫を凝らしているとうかがいました。

 特に、子どもたちはどのような支援を受けられるか知らないケースがあります。そこで、すべての子どもたちにきちんとした情報を提供するため、「御守り型リーフレット」を県内の全中学生に配布しました。

 一般的なチラシの多くは読まれずに捨てられてしまいます。それではまったく意味がないので、NPO法人ライフリンクの協力を得て、捨てにくく読みやすいリーフレットを子ども向けにデザインしました。

左「御守り型リーフレット」、右「ハンカチ型リーフレット」
左「御守り型リーフレット」、右「ハンカチ型リーフレット」

 全国的には、夏休み明けに子どもの自殺が多い傾向にあることから、リーフレットの配布時期を工夫し、7月下旬の夏休み前に、市町村教育委員会の協力を得て全中学生に配布しました。加えて、高校生以上の若者向けには「ハンカチ型リーフレット」を作成し、約2万枚を配布しています。

――日本では若者の死因の1位が自殺であり、他の先進国と比べても高い水準にあることが指摘されています。子どもの自殺について、知事のお考えをお聞かせください。

 すべての人にとって自殺は重大な問題です。しかし、子どもが自殺に追い込まれる状況は、行政としてだけでなく、大人全体の責任であると強く感じています。自我の発達もこれからという子どもたちに異変があれば、身近な大人がSOSを感じる機会はあるはずです。

 学校での過ごし方を熟知している教育委員会や、事件・事故の捜査に当たる警察とも連携しながら、私自身がリーダーシップを発揮して「子どもの自殺ゼロ」を目指していきたいと考えています。

――その知事のお考えをどのように実現していくのか、策定した「第3次長野県自殺対策推進計画」についてお聞かせください。

 この計画では、自殺対策を先導する県として、国の目標を上回るペースで、自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)を引き下げることを掲げています。2015年時点で、国は18.5、長野県は18.2となっており、国は2026年に13.0まで減らすことを目標としていますが、県では2022年に13.6以下とすることを目指しています。

自殺死亡率(人口10万対)の目標値の推移

 計画策定に当たっては、県の2,300を超えるすべての事業の棚卸しを行い、自殺対策につながる可能性のある事業を漏れなく洗い出しました。一見すると自殺と無関係に思える事業であっても、自殺防止の視点で捉えることができる事業は数多くあり、およそ250の事業を計画に位置付けました。

――県が行っている事業に馴染みのない方も多いと思うのですが、どのような事業が対象となったのでしょうか。

 例えば、森林整備計画などを所管する林務部では「森林セラピー(R)」を行っています。参加者の中には大小様々な悩みやストレスを抱えている人がいる可能性がありますが、森林浴により心身がリフレッシュされ、自殺リスクの低減につながることも考えられます。

 また、動物愛護センターが取り組む「ハローアニマル子どもサポート」事業は、動物と触れ合うことで命の大切さを学んだり、自己肯定感を醸成したり、ひきこもりの子どものケアにも役立つと考えています。

ハローアニマル
ハローアニマル2

 こういった幅広い事業を自殺対策の取り組みとして捉え、「生きることの包括的な支援」として、全庁的な取り組みを推進していきます。

――支援対象者として、どのような人たちを重視したのでしょうか。

 特に未成年者や高齢者、生活困窮者などへの支援が急務ですが、対象者それぞれの実情に合った支援が必要だと考えています。

 相談窓口というと電話でのやり取りが一般的ですが、近年の未成年者にとって、電話自体ハードルが高いものとなっています。未成年者に対しては、日常的に利用しているLINEなどSNSを活用した相談が効果的で、本県では全国に先駆けて実施をしました。これは全国的にも広げていくべきだと思います。

 また、「人生100年時代」といわれる今日、健康長寿県でもある長野県においては、高齢者が生きがいを持って社会参加できる仕組みが必要ですし、生活就労支援センター(自立相談支援機関)との連携による生活困窮者への支援も欠かせません。

 昨今、本県も有効求人倍率(1.70倍:2018年1月)が高くなっていることから、人材の確保に向けて働きやすい環境を整える好機であると考えています。「働き方改革」が至る所で言われておりますが、労働環境の改善は、働き盛り世代の自殺の防止にもつながるものと考えています。

――具体的には、4月からどのような取り組みが始まるのでしょうか。

 喫緊の課題である未成年者への対策を推進するため、私も参画して、「子どもの自殺対策プロジェクトチーム」を発足させ、原因分析や対策の検討を行います。地域においては、まだ「総合相談会」を実施していない市町村で速やかに相談会を開催するほか、平成30年度から市町村が本格的に自殺対策計画の策定に取り組むことから、県として策定の支援を行います。さらに、キャラバン隊を結成して市町村へのキャンペーンを展開することで、自殺対策の機運を盛り上げてまいります。

阿部守一 長野県知事2

――最後に、自殺対策において政治が果たすべき役割について、知事のお考えをお聞かせください。

 自殺に追い込まれてしまうまでには人それぞれ多様な事情があって、健康問題や貧困、人間関係など複数の原因が重なって自殺のリスクを高めます。しかし、行政の対応は医療や福祉、教育や労働などの個別分野ごとの取り組みが主となる傾向があります。

 だからこそ、自殺対策は行政の長であり政治家でもある私が、知事として行政組織の垣根を越えた対応を先頭に立って行っていくべきだと考えています。

 長野県では、一人ひとりのかけがえのない大切な命を、市町村、関係機関、民間団体、県民と一体となって守り、支えていくことで、「誰も自殺に追い込まれることのない信州」の実現を目指してまいります。この取り組みが全国に広がっていくことを願っています。

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