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ソーシャルイノベーションは「今ない未来の景色をつくること」―澤田伸渋谷区副区長に聞く

政治山 / 1970年1月1日 9時0分

 2018年9月、渋谷で約1週間にわたってSOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」(以下、SIW)が開催されました。渋谷区と日本財団によるこのイベントは、青山学院大学、ヒカリエ、渋谷キャスト、表参道ヒルズなどの商業施設やイベントスペースを拠点に参加できる都市回遊型イベントとして注目を浴びました。渋谷の特徴を活かしたこのイベントについて、その実施に携わった渋谷区の副区長である澤田伸さんと日本財団ソーシャルイノベーション推進チームリーダーの花岡隼人さんにお話をうかがいました。

澤田伸 渋谷区副区長

澤田伸 渋谷区副区長

継続することが社会貢献

【澤田】 今回のSIWを振り返って、やはり一過性のものではなく、参加者の方がイベントを通してどのような体験を持ち帰ったかということが重要だと感じています。10年、20年後に、SIWを渋谷で続けたということが起点になって今があるよねと振り返られることは間違いないと思います。今回のイベントのように未来の状況を想定して、今やるべきこと考えるバックキャストの考え方が重要ですね。

 イベントは、動員数などの量的評価になりがちなのですが、そういった短期的評価に固執してしまうと、骨太の戦略を見失うことになりがちです。そのため、今回のイベントを100点満点の何点かという評価は価値を持たないと思っています。

 イベントを継続することが、渋谷だけでなくこの国の社会課題解決にとって非常に大きな貢献をもたらすことであることは間違いないと120%確信しています。

【花岡】 日本財団では2016年から日本を取り巻く社会課題とその解決方法について議論するソーシャルイノベーションフォーラム(Social Innovation Forum. 以下、SIF)を開催しており、今年は、渋谷区と一緒にSIWをやらせていただくことになりましたが、当初の想像以上に、多様な未来を考えるイベントになり、多様な人たちが参加してくれたと感じています。

【澤田】 そうですね。会場に行くと子どもからご年配の方まで参加していました。

【花岡】 イベントに携わった方や、そのほかスタッフの反響はいかがでしたか。

【澤田】 実はSIWの前に、渋谷区では、DIVE DIVERSITY SUMMIT SHIBUYA(DDSS)※1の取り組みを昨年始めていたのですが、日本財団のSIFと方向性が同じでした。こうしてイベントを集積させることによって、多様性が引き上がったと思います。

 多様性は、渋谷区にとってなくてはならないコンセプトです。LGBTなどマイノリティに関する議論に限らず、きたるSociety5.0の中では、人間とロボットや、人間と人工知能、老人と子どもとか、あらゆる多様性について互いに認め尊重し合うことだと思います。

 しかし、多様性には同時にリスクがあって、例えば先日のハロウィンのようなイベントは多様性が引き上がった結果、ああいった事態が起きるわけで、まちが寛容になればなるほど、安全に対するリスクが高まります。行政としてどうバランスを取っていくかが大きな課題です。

直面する課題だけでなく「可能性」の議論を

【花岡】 今回、渋谷を中心としたアジェンダ設定で面白かったのがスクランブルスタジアム構想※2ですね。単年度のイベントだと、社会課題を話し合って解決策を提言して終了となりがちですが、もしかしたら10年後そこでイベントをやっている可能性もあります。

【澤田】 確かに、スクランブルスタジアム構想は、注目を浴びましたね。

 ソーシャルイノベーションは「今ない未来の景色を作ること」だと思っています。“今ないものの議論”をしなければならないわけですね。

 東京の未来については、2040年に向けて様々な構想が始まっています。未来の社会変化に対して、どういう可能性があるかの議論が必要です。課題ではなくて「可能性」の議論です。

 スタジアム構想は一つの可能性の話ですね。未来がどうなるのかを当てられる人はいないわけで、どうなるか分からないから可能性の議論が必要なのです。

脳を活性させ一緒に未来を考える唯一の場

【花岡】 澤田副区長がおっしゃった、「今ない未来の景色を作ること」ということなのですが、日本財団会長の笹川も、「助成事業の景色を変える」と言っており、若い人をはじめとした新たな担い手を探したいという思いもあって、SIFを開催しています。

 日本財団のSIFが3年目になって渋谷区と共同開催することで、今はまだ社会課題に興味があるか分からない層に対して、5年後10年後の好奇心を刺激できたと感じています。

【澤田】 多様性の社会の中で、しっかり未来の議論をしておくということがまさに社会にとって重要です。このSIWは、地域社会にあらゆるテーマがある中で、将来これからどうなっているか、どうなっていったほうがいいかを脳を活性化させ、さまざまな知見から考えていく、唯一の場だと思います。子育て世代のセッションとか、NPOが自分たちの事業の説明をするとか、それらが一堂に会するのは、世界中を見てもなかなかないかもしれません。

手触り感があるイベントになった

【花岡】 昨年までのSIFはある意味哲学的な問いが多く、内容が固くなりがちでした。しかし、今回渋谷区とご一緒して、イベント全体としてみれば、具体的なテクノロジーとかサービス、商品を取り入れ、教育に関してもプログラミングの教育、ロボティック教育など10年後の未来を語るコンテンツを入れることができ、手触り感がある感じにできてよかったと思います。

 今回、多様な人が来たというのは、ある意味、具体的なことに関心がある人たちに届けられたのかなと思います。

日本財団ソーシャルイノベーション推進チームリーダーの花岡隼人さん

日本財団ソーシャルイノベーション推進チームリーダーの花岡隼人さん

渋谷区で働くという真の意味を問い直してほしい

【澤田】 反省点として、もっと自治体の職員に見に行ってほしかったと思います。渋谷区は1100人ほどの職員がいるのですが、自分たちの足元であれだけ多様性のある、お金を払ってでも聞けないようなセッションや体験ができる機会はなかなかありません。

 業務に関係するトークセッションもたくさんあるので、来年は内部の広報にも力をいれていき、また東京都の後援もありますので、都内の自治体職員の方にも渋谷に集まっていただきたいと思います。体感することで、なぜ地方公共団体の仕事をしているのか再確認できると思います。

 自治体の職員は採用当時は高いビジョンを持っていますが、年数を重ねるとどうしても慢性化して小さくまとまる傾向にあるので、職員自体が道を拓いていく必要があります。

 職員によく言うのですが、我々はどれだけ恵まれているのか、環境、街のパワーがあるこの渋谷区で働くという真の意味を問い直してほしいです。

 また、イノベーションを起こすためには、人とのつながりが絶対不可欠です。技術やアイデアだけではイノベーションは起こらない。それがまさに、クロスセクターの重要性です。

 行政が単体で社会の変革をリードするのはほぼ不可能です。だから民間やNPO、大学などの連携に基づいてしか新しい未来は作れないと考えています。そこにSIWの価値があると思います。

将来はダボス会議のような未来も

【花岡】 イベントには発散と収束(=結実)というフェーズがあると思います。2018年度は発散に力を入れましたが、収束も行なう必要があり、そのアウトプットの形として、起業家や商品、サービスに対するアワードが考えられますが、その点はいかがでしょうか。

【澤田】 アワードも重要なコンテンツですね。2020年以降のことを考えるSIWから世の中の人が注目するような提言が出てくるようなイベントもよいと思います。イベントの最後に未来への提言がアウトプットとして出てくることが注目され、それが政策提言に繋がっていくというアウトプットです。

 それこそソーシャルチェンジのメッセージが出てくる、様々なカンファレンスの中で10人のキーノートスピーカーが最後に提言するようなシンボリックなアウトプットですね。ダボス会議のような可能性もあるのではないかなと思います。

 こうしたイベントは、渋谷区単独だと難しいので、日本財団などと協力していき、渋谷区の得意分野である情報を発信する力を活用して、2020年のオリンピックが終わった後、このイベントが注目され、新しいメッセージを出す場所になれると思います。

澤田副区長

自治体同士連携して社会課題を解決していく

【澤田】 我々は都市間連携を進めていますので、来年は他の地方公共団体の職員にもご参加いただきたいと考えています。渋谷区の職員も他の自治体の人たちと対話できるようなテーマがあっていいかなと思います。

 基本的には、東京であれ、地方であれ、自治体の課題は共通していることが多くて、我々は未来志向に立ち、20年、30年先を考えて、自治体の経営や運営をしていくことが必要とされます。そうでないと持続的なサービスができません。単に人口が減少するとか、出生率が低いという問題を個々で解決するのではなく、都市間連携は重要な課題になってきます。

 渋谷区も8つの自治体と連携しているのですが、これからは連携の仕方が問われると思います。

 我々が作った、もしくは民間と一緒に開発したソリューションを他の自治体に最適化してインストールする。他の公共団体で実施したケーススタディは、他の自治体にとって導入しやすいのです。渋谷区はファーストペンギンとしてチャレンジをしてチューニングを繰り返すことを挑戦し続けます。LGBT条例もその一つの事例です。

【花岡】 今回は渋谷で実施しましたが、地方での開催の声も大きく、例えば島根県の海士町などは都市的なものが少なく自然が豊かで、だからこそじっくり考える環境があり、そして切実な課題が目の前にある当事者の前でイベントをやる意義は大きいです。技術が発達すれば、渋谷と別の地域の同時開催もあり得ると思っています。

2020年以降を見据えもっと突き抜けるメッセージが必要

【花岡】 様々なビジョンを抱き込めるような懐の深いイベントをやりたいと思います。テーマと集客にこだわるというよりは、ビジョンをぶつけ合って分かり合えるようなイベントにしたいなと思いますね。

【澤田】 この国の課題は補助金や助成金だけで解決できるほど簡単な問題ではなく、まず必要なのはアイデアや実行する仕組みで、それからファイナンス=お金が必要なのです。そのためにSIWを続ける必要があり、2年目をどう変化させるか重要だと思います。1年目は勢いでチャレンジし、2年目は修正をして、その在り方を、衝突を恐れることなく意見を出し合い、喧々諤々いろいろやってみて、アウトプットしていきたいですね。

 2020年以降、SIWは世界から注目を浴びることは間違いないのですが、もっと突き抜けるメッセージ性が重要なのだろうと思います。

 渋谷区で開催するという意義は非常に大きく、区としてもできるだけのことをやりたいと思います。

(※1)2017年11月7日から同月15日の間、「ちがいをちからに変える街。渋谷区」をコンセプトに渋谷区で開催された都市型サミット。

(※2)一般社団法人渋谷未来デザインが、民間主導で都立代々木公園内に多目的に使えるサッカースタジアムの建設を目指す構想。渋谷の象徴・スクランブル交差点をヒントに、多様な人が行き交い、スポーツ・エンターテインメントの聖地となるスタジアムパークをつくり、災害時には防災拠点として機能する構想を掲げた。

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