投票総数1万超、町田市のキャッチコピー投票に見る住民参加のまちづくり
政治山 / 2021年1月19日 11時0分
町田市は、2022年4月から始まる新たな基本構想・基本計画「(仮称)まちだ未来づくりビジョン2040」の策定にあたり、2040年に向けた町田市の「なりたいまちの姿」から導かれる、まちのイメージを一言で表すキャッチコピーを決定する投票を2020年11月10日から12月4日まで実施した。
コロナ禍でも変わらない若者の市政参画への姿勢町田市は、一昨年(2019年)実施した『市民参加型事業評価』において、高校生を評価人としてオンライン参加を可能にするなど、多くの自治体で課題となっている「若者の市政参画」に意欲的に取り組んでいる。
「(仮称)まちだ未来づくりビジョン2040」の策定においても、高校生を中心に構成される若者グループや大学生とのワークショップを実施して意見交換等を行った。その他、新型コロナウイルス感染症の影響下では、WEB会議ツールを活用しながら、オンラインタウンミーティングを実施して、若者の参加も呼びかけるなど、市民への説明と意見の聴取に努める中で、若者との対話・意見交換できる機会を積極的に設けている。
上記の取り組みの一つである「キャッチコピー投票」は、市内各所で行われるシール投票とインターネット投票の2つの方法で実施した。インターネット投票に参加した人は、投票するキャッチコピーの候補に対する“推しコメント”を投稿することができ、投票状況と推しコメントはリアルタイムに公開された。なお、インターネット投票の結果は、町田市ホームページおよび「(仮称)まちだ未来づくりビジョン2040」特設サイトで公開されている(2020年12月18日現在)。
「リアルタイム集計」と「推しコメント」で臨場感を演出全国の自治体の課題として、若者の市政参画の場が確保されていないことが挙げられる。特に、選挙権を持たない17歳以下の若者が意見を表明できる機会は限られている。
しかし今回、町田市は幅広い世代、そしてより多くの人が投票できるよう、公共施設等やイベント企画で実施したシール投票に加え、インターネット投票を実施して、全体で1万票を超える投票を集めた。特にインターネット投票においては、集まった3,943票のうち、10代以下の投票者が36%を占めた。未来を担う若者たちからの投票が多かったことは、2040年に向けたまちづくりのキャッチコピーを決めるにふさわしい投票結果となった。
これは、若者が投票しやすいように、様々な工夫を凝らしていたことが大きく影響している。リアルタイムに投票状況を見られるようにし、さらに投票者が投票先を選んだ理由や想いを記述できる「推しコメント」機能を実装。こちらもリアルタイムに公開することでSNSや動画配信サイトをよく利用する若者が重視する「臨場感」を演出することに成功した。これは、自治体が行う従来の投票企画等では見られなかった手法であり、町田市がどれほど若者に対しても行政の計画に関して興味関心を持ってもらおうと意識していたかが分かる。
投票のインセンティブと店舗支援を兼ねた「投票割」また、今回インターネット投票においては「投票割」も実施された。これは投票したあとのページに表示される「投票済証」を市内の協力店舗で提示することで割引等の特典を受けることができるものであり、公職選挙においては近年実施される機会が増えているが、市の計画を策定する中で行われたのは日本初である。
また、この「投票割」については、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大で打撃を受けている地域店舗への支援施策としても注目に値する。
こちらの利用実績等は今後検証される予定だが、一定数利用され協力店舗の経営支援となった場合、今後の店舗・商店街活性化施策としても活用が期待される。
キャッチコピー投票に1万以上の票が投じられた意味今回の取り組みについて、町田市の担当者にお話を伺った。
◇
【政治山】 今回キャッチコピーの投票企画でなぜインターネットを活用しようとしたのでしょうか?
【町田市 政策経営部 企画政策課 山岸さん(以下、山岸さん)】 より多くの皆さん、とりわけ町田の未来を担う若い世代の皆さんに興味関心を持っていただくためです。「(仮称)まちだ未来づくりビジョン2040」は2019年につくり始めた当初から市民の皆さんと一緒につくり、目指せる計画とするため、多くの方々と意見交換しながらていねいにつくってきました。
今回の企画は、まちのキャッチコピーを皆さんに選んでいただくことはもちろん、幅広い世代の、多くの方々にビジョンを知っていただくための一つのきっかけでもあります。また、インターネットを活用することで、若い世代の皆さんも気軽に参加でき、それをきっかけに町田市が目指していくまちの姿についても知っていただけると考えました。
コロナ禍で大人数を1カ所に集めてお伝えしていくことが難しい中、時間や場所を選ばずにPRできる方法として、インターネットを活用することは効果的です。
【政治山】 今回の結果について、どう思われますか?
【山岸さん】 シール投票のイベントでは、チラシをお配りしながらビジョンについて説明し、その上で投票いただいています。インターネット投票についても、若者グループのPR動画を掲載するなど、市民の皆さんと一緒につくって、目指していく計画であることをしっかりとお伝えできたと考えています。
実際に投票期間中の特設サイトの閲覧数も非常に伸びました。結果として1万票を超える投票を得たことは、自治体の実施する同種の投票では全国的に見ても数少ないと思います。
今回の企画をお知らせする活動の中では、ホームページやSNS、ポスター・チラシ、広報紙、プレスリリースなど、さまざまな方法を活用していますので、結果としては、投票結果の数字以上の方々に情報をお届けできたと考えています。
【政治山】 最後に、今後どのように事業を進められるのでしょうか?
【山岸さん】 「(仮称)まちだ未来づくりビジョン2040」は、2022年4月から始まります。現在は、2040年に向けた「なりたいまちの姿」(町田市が目指していくまちの姿)を実現するために、具体的に何をしていくのかについて検討しています。
今回の企画を通じて、周知活動の大切さ、また同時に難しさも改めて感じています。2021年は引き続き、ビジョンをつくっていくことに併せて、多くの皆さんにわかりやすくお伝えし、まちづくりを身近に感じていただくことができればと考えています。
◇
町田市は、従来の手法にとらわれず、年々取り組みをアップデートさせている。同市の取り組みは、住民の市政参画の場面で、若者の参加が少ない、コロナ禍の下では会場での住民説明会実施が難しいなど、多くの課題を抱えている全国の自治体の参考になるものではないだろうか。
まちづくりへの住民参加や住民の合意形成、市民協働はまだまだ発展の余地のある領域である。町田市の事例を基に、全国で新たな取り組みが始まることを期待したい。
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