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住民自治による地域経営の模索―大町市美麻地区の地域づくり

政治山 / 2016年10月5日 17時30分

 日本の面積の約6割を占める地域は、地方創生という言葉が生まれる前から、人口減少社会への対応が至上命題でした。平成7年頃より、多くの小規模自治体が市町村合併という手法を用いて、その解決を図ろうとしたのではないでしょうか。現在、そういった地域では、課題解決の多くが住民の手に委ねられています。私の住む長野県大町市美麻地区(旧美麻村)もその1つです。

コミュニティスクール
コミュニティスクール

夜明け前―集落機能の急激な低下

 長野県の北西部に位置する大町市は、北アルプスの名峰と立山黒部アルペンルート、仁科三湖、スキー場、温泉などを有する山岳観光都市です。旧美麻村は市北東部の中山間地域にあり、昭和30年代までは地名の由来となるほどの良質な麻の栽培地として全国に知られていました。

 しかし、石油製品の普及により基幹産業は衰退し、人口流出が進み、集落機能は急激に低下しました。村は低下した機能を補完すべく対応しましたが、皮肉にも、更なる集落機能の低下を招く悪循環が続きました。もちろん、国の制度を活用して過疎を食い止める努力を続けましたが、解決期限のない課題はいつしか空気の様に地域に溶け込み、過疎債という“打ち出の小槌”だけが残りました。

合併協議は村を二分、自治のあり方を模索する

 過疎がすっかり定着して40年、平成の大合併の波は美麻村にもやって来ました。隣接する大町市、八坂村との合併協議は、当然のことながら賛成・反対の議論を生み、住民感情を二分させながらも進みました。当時、合併協議の事務調整をしていた私が一番驚いたことは、村職員の仕事を、大町市では自治会や地域住民が普通にやっていたことです。

 「今の状態で合併すれば、いずれ地域が消滅する」との危機感を訴えましたが、「村のサービスはきめ細かいんだ」と役場内では取り合ってもらえませんでした。そんな時、合併反対の立場をとっていた村内の国際交流事業のボランティアグループが「合併が避けられないなら、地域づくりをしよう」と賛同してくれました。

 有志で勉強会を立ち上げましたが、周囲からは合併反対活動と見られ参加者は増えません。そこで、役場の若手職員にも勉強会を作ってもらい、一緒に地域自治組織の検討をしたいと村長に共同提案してようやく理解を得ました。

美麻地区景観
美麻地区景観

尽己竢成―地域づくり会議の設立

 合併まで1年を切り、美麻村は、上記勉強会に自治会長や地域の団体代表を加えた地域自治組織設立準備委員会を組織しました。そこからが泥沼の議論の始まりでした。初会合で国から派遣されたアドバイザーには「自分のしたい事が分からない人に、できる助言はありません」と言われ、焦りを感じて会議の回数を増やすと「意味がない」「堂々巡り」「自治会があるのに屋上屋だ」など、帰ってしまう人が続出。議論が紛糾しすぎて「やってられない」と辞表を出した委員長を何度も家まで迎えに行きながら検討を続けました。

 結局、目標とした合併前の設立はできませんでしたが、尽己竢成(己を尽くして成るを竢つ)、合併後も議論を継続し、平成18年5月、ようやく地域自治組織「美麻地域づくり会議」(以下、「地域づくり会議」)が趣旨に賛同する45の団体と個人の参加により設立されました。最初は活動内容を限定して、支所(行政)の協力を得ながらの運営となりました。私も支所職員として活動に携わりました。

「住民が地域のために使える時間は限られている」

 100回を超える議論の甲斐もあって、住民発の企画や提案は、道の駅の活性化、遊休荒廃地の減少、市民バスの路線見直し、自転車ロードレース大会の開催、住民ディレクターの養成と活動、麻文化の継承、国際芸術交流の実施など多様な形で実現しました。活動が軌道に乗り始めた頃、私は他部署へ異動となりました。

国際交流
国際交流

 それまでの支所職員としての仕事を通じた活動が、プライベートの時間のみで行う活動となり、当然思い通りには進みません。「何でこんなこともできないのか?」といった不満の捌け口が私の後任の支所職員に向くこともありました。しかし、こうした悶々とした日々は、「住民が地域のために使える時間は限られている」ことを気付かせてくれました。限られた時間を住民主体で活用するにはどうしたらよいのか?

 そんな時、住民自治のまちづくりをテーマとした人材育成プログラム「東京財団週末学校」の存在を知り、幸運にも参加の機会を得ることができました。講義と住民自治の先進地への視察を通じて「自治とは何か?」を自分に問い続ける半年間。その中で知った「人様は変えられないから自分が変わる」という言葉が、ひとつのヒントを与えてくれました。

スクール・コミュニティの誕生

 子どもたちの多くは、高校を卒業すると進学や就職で地域を離れます。地域の担い手不足は長年の懸案事項でしたが、なぜ、今まで気付かなかったのでしょう。「地域の都合で願っても、人の心は繋ぎ止められない」ということに。

 住民自治の担い手とは、目的のために育成される職能人材ではなく、子どもたちが人生の岐路に立った時、選択肢に「地元」を加えているような、「地域を誇れる心」を持つ人の中から、条件が整った時にのみ現れる稀有な存在ではないだろうか。その確率を高めるために、自分たちにできるのは、地域づくり活動に最善を尽くすことでした。

地域の大人によるキャリア教育
地域の大人によるキャリア教育

 学校では、地域づくり会議の提案を基に、総合学習の時間を地域学習に充て、学習には住民が協力し、学習成果を地区文化祭で発表(共有)する「美麻市民(いちみん)科」という授業を行っています。私もボランティアの一人として参加していたので、週末学校で学んだ「地元学」の視点を伝えるなど、住民の経験や知恵をキャリア教育の要素として加え、学習成果や提案は、地域づくり会議が事業化するようになりました。

 市民科を続けるうちに、学校の困り事も見えてきました。学校には地域住民からコーディネーターが配置され、学校の作業や行事には地域が、地域の行事にも学校が加わるようになりました。学区外からの「美麻の学校に通いたい」という声にも対応し、結果として、生徒数の増加は、移住者の増加にもつながりました。

【美麻小中学校を取り巻く変化】
平成22年 美麻小中学校とメンドシーノK8校が国際姉妹校となる
平成23年 学校で地域をテーマとした学習開始
平成24年 学社融合プロジェクト始まる
平成25年 小中一貫教育校となる
平成26年 文部科学省指定のコミュニティ・スクールとなる
平成27年 通学区域が市内全域に拡大、教育課程を6・3制から4・3・2制に変更

 いずれも、住民からの提案を、学校はじめ、市や教育委員会が真摯に受け止めた結果、実現することができました。

「個の知識」から「共有する知恵」に

 合併から10年、地域自治組織の成り立ちを知る旧美麻村職員のほとんどは退職や異動をし、支所職員も他地区出身の職員が多くなっています。合併したとはいえ、仕事の勝手や地域の様子が分かるには一定の時間が必要です。結果として、協働の一翼を担う支所との関係も徐々に変化しました。加えて、人口減少と高齢者による新たな課題も表面化しています。

 例えるなら、愛着あるパンクした自転車と新品の一輪車、どちらに乗るかの選択と変革に迫られています。誰かと危機感を共有し行動を起こさなければならない、そんな思いを持って、自治体職員と地域の活動パートナーが一緒に住民自治を学ぶ週末学校の新プログラムに応募し、この夏、住民自治の先進都市であるアメリカ合衆国オレゴン州ポートランドを再び訪問しました。

 全国から集まった自治体職員と共に、市民活動団体のリーダーや行政機関職員へのヒアリングなどを通じ、住民自治の原点となる市民活動や、市民と行政の関係、地域に潜在する多様性について学び得た「個の知識」を、一緒に参加したパートナーとの、地域で実践できる「共有する知恵」とすることに、新たな課題の解決の糸口があると感じています。

精力善用と自他共栄

 5年先、10年先まで、小さな地域を持続可能としていくには、コミュニティ機能を担う最低限の人口を維持していく必要があります。そのためには、自然減を補う新たな人口を常に加えていく必要があると考えています。もちろん、移住者を増やすだけでは解決しません。

 美麻地区のコミュニティ計画では、「地域住民」を定住人口、二地域居住人口、交流人口、情報交流人口の4タイプに分類し、全員が心豊かに暮らせる社会を形成するため、全タイプの人口による住民自治の地域経営の仕組みを確立するとしています。

 私たちはその仕組みを、「こんにちは、元気?」と気軽に声を掛け合えるコミュニケーションから作り上げたいと考えています。そして、地域をよくするための精力的な試行錯誤から生まれるノウハウは、人口減少と高齢化を迎えた大町市においても役立つと同時に、私たちと同様の悩みを抱える地域にも活用できるものでありたいと考えています。

 私も、自治体職員として、住民として、「自治とは何か」を問い続けながら、関わり続けていきます。

        ◇

「住民を主体とする地方自治の実現と、地域の潜在力を活かした多様性あるまちづくりのために、自らの頭で考え、行動を起こすことができる人材を育成すること」を目的とした、地方自治体職員対象の人材育成プログラム「東京財団週末学校」の受講生によるコラムです。

<長野県大町市役所(北アルプス広域連合派遣) 大塚裕明>

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