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「ストップ振り込め詐欺」―全国初!柏市振り込め詐欺等被害防止等条例の制定

政治山 / 2017年5月11日 11時50分

 昨年、振り込め詐欺の被害に遭った女性がハンカチで涙を拭いながら私にこう言いました。「興奮しちゃって、ほんとに騙されたんだなって。その時、なんでこんなにね、振り込め詐欺のことは知っているのに、なんでこんなふうに騙されたのかと思って。絶対騙されないって自分では確信していたのにね。そしたらこういう有様でね、本当に恥ずかしくて。でも子どもを思わない親はいないよ」と…。

柏市郊外の手賀沼の夕景
柏市郊外の手賀沼の夕景

1 犯罪減るが、詐欺増える(平成25年4月~平成26年3月)

 柏市内の犯罪数(刑法犯認知件数)が減少する中、振り込め詐欺は右肩上がりで増加しており、平成25年には過去最悪の被害件数77件、被害金額は約3億円となってしまいました。市民一人当たりの被害率を見ると、全国平均と比較して2倍以上にもなっており、柏市において大きな社会問題になっていました。

柏市内の振り込め詐欺等被害
柏市内の振り込め詐欺等被害

2 なぜ騙されてしまうのか?(平成26年4月~12月)

 当時、詐欺被害の報道を目にしない日はないぐらいテレビや新聞等で話題になっていました。「オレだよ、オレ!!」「医療費還付金が戻る」などと言われてなぜ信じてしまうのか。私自身、不思議に思っていました。

 警察庁科学警察研究所の元室長である清永賢二氏に相談したところ、私の上記の疑問を解消するためには、市職員である自分が柏市内の詐欺被害を調査するべきであると、また、市民の安全を守るのは自治体の責務である、とも強く言われました。

 しかしながら、調査するための予算やその知識を持つ人材も市にはありません。また、被害者を探そうにもその当てはまったくありませんでした。柏警察署に打診したものの、個人情報や捜査事項に該当する可能性があるということで、前向きな回答が得られませんでした。これは本当に市がやるべき仕事なのか、警察の仕事ではないのか。一方では、詐欺被害が増えている中、私は日々途方に暮れていました。

 そんな時に「柏市老人クラブ連合会」の大内邦夫事務局長にお会いする機会があり相談したところ、「振り込め詐欺の被害は社会問題になっている。ぜひ老人クラブとして、詐欺被害の調査に全面的に協力したい」とのお申し出があり、会員全員の詐欺被害アンケート調査の実施に協力いただけることになりました。

 全会員6,336人分のアンケートを作成して、106の単位老人クラブごとに振り分け、要望があれば老人クラブごとに説明会を行い、振り込め詐欺被害の実態やアンケートの趣旨等を丁寧に説明したところ、5割強に当たる3,241人の回答をいただくことができました。

説明会の様子(老人クラブ 増尾ダイヤモンドクラブ)
説明会の様子(老人クラブ 増尾ダイヤモンドクラブ)

 このアンケートから、(1)34人(1%)が実被害者(被害に遭っていた)、(2)309人(9.5%)が被害者化予備軍(遭いそうになった)、(3)年齢層が高い方が被害に遭いやすい、(4)男性より女性の方が被害に遭いやすい、(5)近所付き合いが濃密であっても被害に遭う、(6)詐欺電話は市内全域に発生している、(7)被害は、より都市化されている松戸市寄りの地域に集中していることがわかりました。

 当初は、「『独居暮らし等で家に閉じこもりがち』の『どちらかというと高齢者』が被害に遭っている」と想定していましたが、調査の結果、「子や孫等の多数の家族と暮らし、町内会等の活動や近所付き合いを行う社会性のある方が多く騙されている」ことが見えてきました。何気なく普通に暮らしている方が、ある日突然振り込め詐欺の被害者になっている実態が数多くあり、誰でも被害者になり得ることがわかりました。

 このことから、個人による対応には限界があり、普段の犯罪抑止の活動と同じように、住民、事業者、警察、市(行政)等が連携し、社会全体で詐欺に対抗する必要があることを認識しました。そしてその行動を後押しする意味でも、詐欺撲滅条例の制定が必要であるとの思いを強くしました。

3 熊本県での調査と被害者への聞き取りから見えてきたこと(平成27年4月~7月)

 全国に先駆け、「県民を振り込め詐欺被害から守る条例」を制定した熊本県を訪れ、熊本県警察本部のほか、所轄警察署、県内のコンビニエンスストア本部、金融機関、運送事業者等、各者の振り込め詐欺対策をヒアリングしました。県内では、それぞれの立場で振り込め詐欺の犯罪に対して立ち向かっており、条例を根拠に各会議や施策を実施していることが分かりました。

 しかしながら、都道府県と異なり、市は警察力を持っていません。被害情報等を持たない市が、振り込め詐欺の犯罪に対してどのように立ち向かい、どのような役割を果たすのか。住民、事業者、警察、県との関係性も含め、この詐欺撲滅条例を絵に描いた餅にしないためにはどうすればよいのか、また週末学校で習った「住民自治」の観点から、それをどのように言語化するのか、非常に悩みました。

 このような時期に、振り込め詐欺の被害に遭った方にお会いする機会がありました(冒頭の話です)。その方はいわゆる「オレオレ詐欺」に遭っており、息子を語る人間に騙され、大変な心理的ショックを受けていました。親の愛情を踏みにじった卑劣な犯罪であり、犯人を絶対許さないとお話しいただきました。

 そこで気付きました。それまでの悩みは市としての立場でばかり考えていたからであり、一番重要なことは、不幸にも被害に遭った方の想いを無駄にせずに、柏市の住民がこれ以上被害に遭わないためにどうすればよいのかを考えることであると。住民により近い市の強みを生かし、詐欺撲滅条例化の必要性を再度認識しました。

4 関係者一丸となって(平成27年8月~平成28年3月)

 関係者と共に物事を進める重要性を週末学校の講義やポートランドでの国外調査で経験していたため、当初に相談させていただいた清永氏や小山高正氏(日本女子大学教授)を中心として、防犯団体・消費者団体・福祉団体、学識経験者、銀行・コンビニエンスストア等の事業者、柏警察署、市役所内の関係各課で構成された「振り込め詐欺等の被害の防止に関するプロジェクト会議」を3回実施し、条例案の考え方や振り込め詐欺等の対策方法などについて検討を行いました。

 会議では、「このような条例案で、市として本気で振り込め詐欺をなくす気はあるのか」「柏市がこのような条例を作ることで逆に柏市民が狙われたら責任は取れるのか」など厳しい御意見をいただきながらも、詐欺被害を減らすために喧々諤々の議論を重ねました。

 会議で作成した条例案は、市役所の法務担当者とも議論を重ねました。その他の振り込め詐欺対策についても、市の基本計画に策定し、それぞれ予算計上しました。

 その後、平成28年2月26日に市議会に上程し、3月22日に全会一致で可決、同月23日に公布、4月1日に施行しました。

5 条例制定の狙いと今後の展望

 条例制定の狙いは、個人で防ぐことが難しい振り込め詐欺という卑劣な犯罪から、防犯団体・消費者団体・福祉団体、銀行・コンビニエンスストア等の事業者、警察、市(行政)が一体となって、まちぐるみで住民を守ることを目指しています。また、不幸にも被害に遭ってしまった方々が一日も早く日常生活を取り戻せるようにとの思いがあります。

 柏市の振り込め詐欺等の被害は、平成28年9月末現在で被害件数42件、被害額約5,394万円となっており、被害額は前年比マイナス約1億528万円と減少しているものの、被害件数は前年比残念ながらプラス4件となっています。

 住民や銀行の力で未然に防止できたケースが昨年同時期の10件程度から3倍ほどに増えていること、住民からの詐欺の予兆電話の確認も市役所に多く入るようになり、一定程度条例の効果も見えています。しかしながら、7月以降詐欺被害が急増しており、また詐欺の形態もより進化しており、これまで以上に注意が必要だと認識しているところです。

 「柏市振り込め詐欺等被害防止等条例」の制定を契機にして、住民、事業者、警察、市が一体となり、地域全体で詐欺に対抗し、柏市内の詐欺被害をゼロにすることが最終的な目標です。

あけぼの山農業公園のチューリップ
あけぼの山農業公園のチューリップ

<柏市役所総務部防災安全課 主査 岩津圭介>

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