18歳選挙権と大学キャンパス内期日前投票所
政治山 / 2015年6月18日 11時40分
18歳選挙権実現
選挙権年齢を現在の20歳以上から18歳以上に引き下げる「公職選挙法」改正案が、6月17日参議院を通過し、成立することになりました。これにより、来年2016年の夏に予定されている参議院議員選挙から18歳選挙権が実現し、高校生を含む18歳、19歳の計240万人が新たに有権者に加わります。
選挙権の世界標準は18歳でしたが、今回の選挙権の拡大は、日本では1946年に日本国憲法が公布され、20歳以上の男女と定められて以来(それまでは25歳以上の男子のみ)、約70年ぶりになります。日本の選挙、民主主義にとって大きな変化になります。各種選挙での投票率の低下、特に若年層の投票率の低下が顕著な状況の中、新しく有権者になる18歳、19歳を含め、若者の選挙、政治に対する関心をいかに高めていくかが、大きな課題になります。
こうした流れの中、若者の投票の利便性アップと、選挙へのきっかけ作りを目指し、今年4月の統一選では、大学キャンパス内に期日前投票所を設置する動きが12大学に広がりました。前回のコラムでは、学生団体である「Create Future山梨」が主体となり、期日前投票所の開設を実現した山梨大学の取り組みを紹介しました。
今回は、6月7日投開票された青森県知事選挙において、大学キャンパス内期日前投票所を設置した青森中央学院大学での取り組みを紹介するとともに、キャンパス内投票所の成功の鍵、18歳選挙権を意味のあるものにするための方策を考えていきたいと思います。
期日前投票所で投票する学生たち
青森中央学院大学キャンパス内期日前投票所の経緯
青森県の投票率は、2013年の参院選、2014年の衆院選と国政選挙で2回連続全国最下位。そのほかの選挙でも、全国に比べて投票率が低い地域です。この状況に危機感を持った青森市選挙管理員会は、18歳選挙権の流れも見据えて、6月7日の青森県知事選挙に際して市内の青森中央学院大学に期日前投票所を設置(6月3日(水)11時~19時)することにしました。
この取り組みに対して大学側も、学生たちの選挙や政治、行政への関心や意識の向上、大学の地域貢献活動の観点から、場所の提供、広報周知活動など、全面的に協力することになりました。また、若者の投票率向上を目指して活動し、青森中央学院大学の学生たちなどにより組織されている学生団体「選挙へGO!!」も、これまでのノウハウを活かし、啓発、投票の呼びかけの部分でタイアップして行うことになりました。
選管委員長、大学学長、学生団体代表の記者会見の様子
今回の取り組みの特徴の1つは、期日前投票所の運営を全国で初めて学生が行っていることです。投票管理者1人、立ち合い人2人、投票用紙の交付などの事務従事者2人の合計5人が学生。そのほか地域の町会の方1人が立会人、選管職員1人がサポートに入る形で運営されました。同じ大学の学生が関わっているので、同世代には行きやすいと好評でした。学生中心の運営でしたが目立ったトラブルもなく、1日だけの開設でしたが、328人が投票し、このうち学生は58人でした。学生の中には、大学内に期日前投票所がなければ投票しなかった、投票を呼び掛けられなければ投票しなかった、という学生も多数いました。
もう1つの特徴は、学内には、選挙権のない未成年の学生が多数いることから、期日前投票所に隣接したスペースで、「選挙へGO!!」が主催した未成年模擬選挙を実施したことです。期日前投票との混乱を避けるため、架空の政党「観光党」「農業党」「健康党」の3候補者をたてて、それぞれの政策を記載した選挙公報を作成し、それに基づき投票をしてもらいました。選挙権を持たない1~2年生131人が参加し、こちらも選挙の雰囲気ややり方が体験できたと、好評でした。
投票事務を行う学生(左)、模擬選挙の様子(右)
キャンパス内期日前投票所を成功させるには
キャンパス内期日前投票所の成功の鍵は、選管、大学、学生が連携することです。この3者の協力がなければ、キャンパス内期日前投票所の効果は上がりません。特に対象有権者と同じ学生の盛り上がり、投票の呼び掛けは欠かせません。今回の青森中央学院大学でも、「選挙へGO!!」のメンバーによる、啓発、声掛けが大きな効果がありました。大学も、ただ場所を提供するだけでなく、地域貢献の側面も含めて、積極的な広報活動で協力することが求められます。
キャンパス内の期日前投票所の投票者数を増やす上で、大きな課題もあります。それは、引っ越しして一人暮らしをしているにも関わらず、住民票を移していないため、大学の所在地に選挙権のない学生が多数いるということです。大学や家庭で、入学時に住民票の移動を促す働きかけ必要になります。
また、期日前投票所を増やす上で、選管がネックとしてあげるのが、予算的な問題と立会人などの従事者の確保です。予算の問題で一番大きいのは、二重投票の防止の消し込みのために、ネット回線を引く費用があげられます。今回の青森中央学院大学では、ネット回線を引かず携帯電話を活用し、市役所の選管に電話をして確認することで対応、コストを抑えることができました。従事者確保についても、今回は学生にアルバイトを呼び掛け、その学生たちが中心で運営することで、問題を解決しています。
投票を呼び掛ける「選挙へGO!!」のメンバー
18歳選挙権を意味のあるものにするために
6月13日、青森市で、18歳選挙権について考える「選挙カフェ」というイベントが、開催されました。私もファシリテーターとして参加し、10代~70代の年齢、性別、職業などが多様な20人を超える方が参加しました。「18歳選挙権をどう思うか?」「どうすれば18歳投票権を成功させることができるのか?」などの問いで、ワールドカフェ型式で対話を行いました。「大人が行かないから若者も行かないので、大人が手本を示すべきだ」「小中高校での、選挙の仕組みや意義を教える主権者教育が重要だ」「異なる意見を述べ、聴ける対話の場が必要だ」といった前向きな意見がたくさん出ました。こうした場が広がることも重要です。
18歳選挙権に向けて、大学キャンパス内の期日前投票所の設置など、投票環境の整備は欠かせないと思います。しかし、喉の乾いていない馬を水飲み場に連れて行っても、馬は水を飲まないように、学生たちの喉を乾かせる、つまり、選挙や政治に関心を持たせる、そんな地道な取り組みが、家庭、学校現場で必要になってきます。
「選挙カフェ」で出てきた意見
◇
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第32回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
<青森中央学院大学 経営法学部 准教授、早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員 佐藤 淳>
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