第108回 住民に興味をもって、理解を深めて、参加してもらう議会への挑戦~北海道鷹栖町議会の取り組み
政治山 / 2021年5月12日 10時0分
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第108回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
小規模町村議会における議員のなり手不足問題近年、地方議会議員選挙における無投票当選の増加の傾向が強まっている。特に小規模町村議会においてその傾向は顕著である。総務省の調べによると、2019年の統一地方選挙における、改選定数に占める無投票当選者の割合は、町村議会議員選挙で23.3%となっている。無投票当選のほか、選挙における定数割れが生じる等、議員のなり手不足問題は深刻だ(第73回「なり手不足の問題から地方議会のあり方を考える」)。
なり手不足による無投票当選は、代表者が固定化されることにつながる。町村議会議員の属性は、男性が89.9%(総務省調査 2018年12月31日現在)、年齢は60歳以上が77.1%(全国町村議会議長会調査 2018年7月1日現在)と、ただでさえ著しく偏っている。議会の意思決定には住民の多様な意見が反映させることが必要であり、その前提として議員の多様化は不可欠だ。
今後、人口減少、高齢化の進展は避けられず、全国でなり手不足の問題は確実に深刻さを増す。無投票、定数割れが常態化すると、住民自治の根幹としての議会が、その求められる役割を果たせなくなる。持続可能な町村議会を創るにはどうすればいいか。
議員のなり手不足の問題にはさまざまな要因が考えられる。議会の活動が不透明、非活発であり、議会、議員の魅力が衰退している。議員報酬が低いといった条件面の問題。地方公共団体との請負を禁止する兼職、兼業禁止等の法制度の拘束等である。解決の第一歩は、議会、議員の活動を住民に知らせ、興味・関心をもってもらうことである。
今回は、2020年の第15回マニフェスト大賞で、優秀コミュニケーション戦略賞を受賞した北海道鷹栖町議会の取り組みを紹介しながら、住民に興味をもってもらう議会、理解を深めてもらう議会、参加してもらう議会になるにはどうすればいいか考えていきたい。
北海道鷹栖町議会の議会広報広聴常任委員会の活動北海道鷹栖町は、北海道中部の上川郡にあり、旭川市に隣接する人口6700人の町である。議員定数12の町議会議員の選挙は、2019年4月の選挙で3回連続無投票。町政への関心の薄さに危機感を持った議員が、「できることからまずやってみよう」というスタンスで、議会広報広聴常任委員会を中心にさまざまな取り組みに挑戦している。
鷹栖町議会では所管する事務が増えたこともあり、2019年の改選後より木下忠行議長以外の11人全議員が、議会広報広聴常任委員会のメンバーである。委員会では、片山兵衛委員長を中心に、興味をもってもらう議会、理解を深めてもらう議会、参加してもらう議会、を活動目標に掲げて以下のことを行っている。
定例会にあわせた年4回の議会報の発行。定例会の内容を速やかに紹介するための議会報速報版の発行(概ね定例会開催1月後 A4両面1枚)。過去の議会の一般質問のその後を追跡し、質問事項について町として現在どの様に取り組んでいるか伝える「追跡リポート」の発行(年1回)。議員が直接地域に出向いて町民の意見を聴く「地域を語ろう会」の運営とその結果を知らせる報告紙の発行。そして、町民に議会傍聴を呼び掛ける定例会の傍聴案内チラシの作成等である。
以下、興味をもってもらう議会、理解を深めてもらう議会、参加してもらう議会に向けた鷹栖町議会の具体的な取り組みを紹介する。
中吊り広告風の定例会傍聴案内チラシ~興味を持ってもらう議会に鷹栖町議会では、2008年から議会事務局が作成した定例会案内チラシを、新聞折り込みで町民に配布していた。しかし、議会が発行する印刷物は議員自身が作るべきとの思いや、事務局職員が2人と少数ということもあり、2019年9月定例会のチラシより、議員が作成を担当することとなった。手に取ってもらうにはどういったデザインがいいか試行錯誤する中、片山委員長が商工会青年部の広報担当としての経験もあり、2019年12月定例会から、電車の中吊り広告風のチラシ(モノクロ)となった。
チラシには、「上西教育長の所信は!?元教育者2名が迫る」「保育園をベテラン青野が質す」「連続質問回数(だけは)No1!今回の片山は・・・」等の目を引く見出しと、一般質問をする議員の写真が並ぶ。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年3月、6月のチラシの作成は見送られたが、9月の定例会でも再度中吊り広告風のデザインで。また、2020年3月は、同じデザインでは飽きられるとのことから、デザインを少年マンガ雑誌風(カラー)にする等、進化している。
リニューアルしたチラシは地元の新聞等でも取り上げられる等、反応は好評だ。チラシを手にした町民や、インターネットでチラシを見た町外の人が、傍聴に来てくれた。実際、2018年12月の定例会の傍聴者は14人だったが、デザインを変えた2019年12月には日曜議会ということも加わり、35人と傍聴者が倍以上に増えている。
PCスキルのある議員だけに負担が掛からないように、デザインソフトの購入費の助成(2万円上限)等により、チラシのデザインを担える議員を増やす取り組みも行いながら、今後ともデザインに拘ったチラシの作成を行っていく。
ジャポニカ学習帳風議会ガイドブック~理解を深めてもらう議会に議会についてより知ってもらい、理解を深めてもらう為の一環として行われたのが、議会傍聴ガイドブックの作成である。片山委員長と傍聴者に近い視点を持つ1期目の議員3人が編集作業を担当し、こちらもデザインにこだわり、ショウワノートのジャポニカ学習帳風の表紙にした(ショウワノート認可済)。A5サイズ24ページ。「アメとかなめてOK?」「一般質問のみどころは?」等、町民目線の素朴な質問をQ&A形式で21項目、分かりやす解説している。ガイドブックは500部作成して、2020年の12月議会の傍聴者から配布。町の図書室にも設置して、なるべく多くの町民に手に取ってもらえるようにしている。
一般質問の通信簿~参加してもらう議会にチラシ効果で傍聴者が増えた2019年12月定例会の傍聴者アンケートで、「一般質問の内容が詳しく分かる資料がほしい」との声が寄せられた。鷹栖町議会ではそれまで、質問通告書に基づき、質問者名と質問項目のみが記載された資料が傍聴者に配布されていた。アンケートに応え、2020年の3月定例会の配布資料には過去の質問項目等、質問者の簡単なプロフィールを載せ、質問項目についても要約文書を加え、町民の方が課題を相談できるように議員の連絡先を掲載している。
それに加えて、傍聴に来た町民に議会により参加してもらいたいといった思いから、5段階評価の一般質問の通信簿欄も設けた。傍聴者は、「テーマの設定(興味の持てる、町民にとって必要と思えるテーマか)」「聞き取りやすさ(声の大きさ、発音等分かりやすい話し方か)」「説得力(調査・分析を行い、話の重点・理由付けが明確か)」「追及力(再質問等で議論を深め、町長等の考えを引き出せたか)」「共感度(これまで4つの項目を踏まえ、質問に共感できたか)」の5つの観点で議員の一般質問を評価する。回収した通信簿はレーダーチャートにし、自由記述の意見もピックアップして議会報に掲載している。
この取り組みに興味を示す町民も多く、議員を評価するのが面白そうだから傍聴に来たという町民もいた。また、通信簿をきっかけに、議員同士で一般質問を話題にする機会が増え、良い質問をするために、議員間でアドバイスするようになったという。議員力、議会力の向上にも寄与している。
また、一般質問だけではなく、町民生活に大きな影響のある予算審査にも興味をもってもらおうと、予算審査のニコちゃんシール制度が、2021年3月定例会からスタートした。予算審査特別委員会では、議場の出入り口に各議員の名前と顔写真が掲示され、傍聴者はナイスと思える質問をした議員の欄にニコちゃんシール(一人10枚)を貼ることができる。一般質問の通信簿と違い悪い評価はなく、前向きな評価が議員の後押しになる仕組みだ。
常識を超越した先に小規模町村議会の未来はある鷹栖町議会の取り組みは、良い意味でこれまでの議会の常識を超越している。裏を返すと、それくらいしなければ、興味を持ってもらう議会、理解を深めてもらう議会、参加してもらう議会になることは難しいということでもある。鷹栖町議会では、やれることは何でもやらなければ議会は変われない、といった前向きな雰囲気があるという。
小規模町村議会における議員のなり手不足の問題は深刻だ。しかし、議会や議員の魅力を高めるために、現状制度の中においてもできることはたくさんある。自分たちのできることを試行錯誤しながら、トライアンドエラーを繰り返すことからしか、進むべき道は拓けてこない。鷹栖町議会の取り組みはそれを示している。
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)を務め、現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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