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東武日光線柳生駅を降りたらキムタクコロッケと三県境に出合った

集英社オンライン / 2022年5月24日 14時1分

「なにもない町」なんてない。おじさんも歩けば棒に当たる。知らない駅で降りて、初めての町をブラブラしてみよう。勝手に決めたルールは「下調べも現地でのスマホ使用も禁止」「池袋駅から片道1000円以内で行ける駅」のふたつ。人生も旅も行き当たりばったりが面白い。今回は東武日光線柳生駅(埼玉県加須市)を目指した。さて、なにが待っているのか。

「キムタクコロッケ! これを食べるとキムタクみたいに男前になれるんですね」

「い、いや、どうでしょうね。ハハハ……」

すみません。お肉屋のおじさんを困らせてしまいました。柳生駅前の「山口肉店」にキムタクコロッケあり! 揚げたてカレーパンもあり! 駅に降り立った10分前は、期待も想像もしていませんでした。さっそく、行き当たりばったりの神様の粋な計らいです。



4月のよく晴れた某日、私の事務所に近い池袋駅から約2時間、JR山手線、JR常磐線、東武スカイツリーライン、東武日光線の急行と各停を乗り継いで着いた柳生駅。片道1000円以内で行けるなるべく遠い駅のうち、行ったことがなくて予備知識もなくて、駅名がなんだか時代劇っぽいというところにひかれて、ここを選びました。東武日光線に乗るのも初めてです。JRと東武線の運賃の合計は953円(ICカード利用)。

小腹が空いたからまずは腹ごしらえかなと思いつつ駅を降りたら、元は商店街だった気配の通りには肉屋さんが1軒のみ。駅前には付きもののコンビニもありません。

「どうしようかな、お店を探して少し歩いてみるかな」と迷いつつ肉屋さんの様子をうかがうと、まさに私を待ってくれていたかのような貼り紙が。

《お店で揚げたてカレーパン 210円》

これは間違いなくうまいはず。期待に胸をふくらませて店内に入ると、さらに衝撃的なオリジナルメニューを発見。

《新商品 キムタクコロッケ 115円》

キムチとたくあん入りだから「キムタク」。木村拓哉さんが考案した……わけではありません

こちらも食べてみなければ!

「揚げますので、5分ぐらいお待ちいただいていいですか」

眼鏡と白衣がよく似合う実直そうなおじさんが、目の前で衣をつけてくれます。揚がるのを待っているあいだに、あれこれ聞いてみました。キムタクコロッケは2021年秋に登場した新メニュー。きっかけは、何気なくテレビを見ていたら、長野県の学校給食で「キムタクご飯」が人気と紹介されていたことだとか。

キムタクコロッケ。おじさん曰く「いろんな新メニューを試してみるんですけど、失敗もあります。最近では、焼き鳥のねぎまをフライにした『鳥串カツ』というのをやってみたんですけど、売れ行きはいまいちでしたね。ハハハ」

「ウチは肉屋だからコロッケかなと思って。お子さんでも食べられるように、キムチの辛さを抑えめにして。でもキムチの風味が感じられないとよくないし、そのへんを調整するのがちょっと苦心しましたね」

ご主人(お名前は「いやあ、恥ずかしいからいいよ」とのこと)の試行錯誤の末に完成したキムタクコロッケ。誰もいない柳生駅前で埼玉の青空を見上げながらいただきました。なるほど、キムチとたくあんとポテトの一体感が絶妙です。そして、揚げたてのカレーパンも、衝撃的と言っても過言ではないうまさ。まだ駅前しかウロウロしていませんが、幸先のいいスタートになりました。

お腹もふくらんだことだし、あらためて駅前の観光案内板をチェック。なるほど、渡良瀬遊水地の近くなんですね。そして「三県境」がすぐ近くにあるのを発見。ここにあったのか! 田んぼの真ん中に、埼玉県、群馬県、栃木県の境が接しているという胸躍るスポットです。前々から行ってみたいと思っていました。

もともとは3県の境目は渡良瀬川の上にありましたが、川の流れを移動させたために、田んぼの真ん中になったとか。「三県境」があるのはたいてい山の上や川の中で、平地は全国でここだけ

庭先や畑の脇に咲き誇る菜の花を愛でつつ、たくさん立てられている案内板に導かれて憧れの「三県境」に到着。駅から徒歩10分ぐらいでした。用水路が交差した真ん中に、緯度や経度が書かれたプレートが鎮座。そのまわりを三県が取り囲んでいて、県名の看板が立っています。

ご夫婦と思しき男女ふたり連れがいらっしゃいました。栃木市から来た結婚34年目のセリザワさんご夫妻で、今日は栃木市内の桜の名所に行ったあとに足を延ばしたとか。「近いんですけどね。これまで機会がなくて初めて来ました」とおふたり。

高校時代にテニス部で知り合って、そのまま結婚。ふたりのお子さんは独立して、今は夫婦であちこち出かけるのが楽しみだとか。「では、手をつないでいただいていいですか」というリクエストにも、笑って応じてくださいました

次々と、切れ目なく人が訪れます。「ちょっと前にU字工事がテレビで紹介していたから」という方が何組かいました。小学生の娘さんとふたりで群馬県館林市から訪れたイセさんに「このへんで、おいしいものといえば何ですか?」と尋ねたら、地面を指差しつつ「うーん、県によって違いますね。どこの県にしますか」と。イセさん、ナイス! この場所でしか使えない三県境ギャグですね。

ひとりでやってきたオシャレな青年は、埼玉県越谷市のセンダイ君。25歳。今日のメインの目的地は、隣の新古河駅から行ったあたりの渡良瀬川の土手だとか。

「高橋優さんの『HIGH FIVE』という曲のミュージックビデオが、そこで撮影されたんです。誰もいなかったので、僕も歌いながら土手を歩きました」

いわゆる「聖地巡礼」ってやつですね。ニッコリと幸せそうな笑顔で答えてくれて、こちらも幸せな気分になりました。

三県境から見えていた立派な建物が「道の駅かぞわたらせ」。なぜか屋上にハートのオブジェがあって、名前を書いた南京錠が大量に付けられていました。関東で初めて「恋人の聖地」に登録された道の駅だとか。ハートの前のベンチにふたりで並んで、ラブラブな写真が撮れるようになっています。せっかく来たので、ひとりで座って、セルフタイマーで自撮り。横にいた犬を連れていたおねえさんが、そんな様子を見てクスっと笑ってくれました。勇気を出して「よ、よかったらごいっしょに」とお願いしたら撮ってくれたかな。……そんなわけないか。

ハートのオブジェに付けられたハートの南京錠。「愛鍵」と呼ぶそうです。ふたりでこれを付けているときは、別れる可能性なんてぜんぜん考えないんでしょうね。でも意外に、片方は「まあ、付けたいって言っているから、自分も嬉しそうにしておくか」という半端なテンションの場合もあるかも

道の駅だから珍しいメニューがあるに違いないと、まだそれほどお腹は空いていませんでしたが「お食事処 さくら食堂」に。なんと「ニラうどん」なる初めて見るうどんが。「ニラそば」もありましたが、加須うどんで有名な加須市ですから、ここは迷わずうどんですね。今年の2月から加わった新メニューで、地元の名物というわけでもないようです。ニラの産地であるのは間違いないので、こういう食べ方自体はきっとあるんでしょうね。シャキシャキのニラとうどんとの相性が抜群でした。

ニラうどん並880円。大きな天ぷらとたっぷりのニラ、そしてシコシコツルツルの加須うどん。オススメです! ちなみにニラそば並は970円

お腹いっぱいになったところで、どこまでも続く河川敷と遠くに大きな湖が見える渡良瀬遊水地に向かって、テクテクと歩き出しました。土手一面に菜の花の黄色が敷きつめられています。これまでの人生でのトータルをはるかに超える本数の菜の花を見ました。先ほどのセンダイ青年にならって、森高千里の「渡良瀬橋」を口笛で吹きながら歩いてみるとしましょう。でも、あとで地図を見たら渡良瀬橋は20kmぐらい上流でした。ま、気持ちよかったからいいか。

こちらから見ると「栃木県栃木市」の入口の看板が。反対の車線には「群馬県板倉町」の看板が。あれ? 手前の右側にある「道の駅かぞわたらせ」の住所は加須市なのに。さすが、このあたりはいろんな境目が入り組んでいるようです

30分ぐらい歩いて、遊水池のメインスポットである谷中湖の入口に到着。この湖がハート形をしていることに引っ掛けて、道の駅が「恋人の聖地」を名乗っているようです。さっきのオブジェは、ちょっとハートがゆがんでいると思ったら、この湖の形だったんですね。さらに湖を突っ切っている広い道路を歩いて、真ん中の「中の島」へ。

うーん、どっちの方向を見ても水面と空が広がっています。歩いている人、ジョギングしている人、自転車の人、ローラースケートの人、ひとりの人、老夫婦、家族連れ、犬を連れたカップル、釣りをしているおじさん……。みんな気持ちよさそうです。ああ、ずっとボーっとしていたい。さらに道を進んで向こう岸にも行ってみたい。でも、そろそろ日が陰ってきました。

正面に見えるのが「中の島」。野鳥観察台が設置されているだけのことはあって、たくさんの種類の鳥が鳴いていました

訪れるまでは何も知らなかった柳生駅。いざ来てみたら、見どころの宝庫でした。そして、未知の味の宝庫でもありました。そうだ、家でも旅の余韻に浸れるように、キムタクコロッケを買って帰ろう。駅に戻って、ふたたび山口肉店さんへ。

お店の方と散歩の成果を話しているあいだにも、次々に揚げ物の予約注文の電話が入ります。やっぱり、きちんと誠実に商いをしているお店は、地域に長く愛され続けるんですね。

待っているあいだに目に入ったのが「ひじきと枝豆の柳生メンチカツ 130円」というメニューの札。

「これもおいしそうですね。また今度来たときにいただきます」
「はい、ぜひぜひ」

そんなやり取りをした次の瞬間、頭に「とは言ったけど、また来ることはあるのかなあ……」という思いがよぎりました。

また来るかもう来ないか、それはどちらでもいいことなのかもしれません。本当に来たら自分もたぶん相手も嬉しい気持ちになれるし、来なかったとしても一期一会の思い出がひとつ増えます。ややこしい思いを抱いたのは、きっとまた来たいから。違う季節の土手も歩いてみたいし、谷中湖だって見どころはいっぱいありそうです。「きっとまた来よう」と思いながら帰りの電車に乗り込みました。春の一日を楽しく過ごした記憶と「また来たいと思う町」がひとつ増えて、とても有意義な旅でした。

(撮影/石原壮一郎)

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