【国交省により処分対象に】大手不動産会社も手を染める「不動産の囲い込み」って何? 「売主からカギが届きません」とウソ。手数料を4倍もしぼり取るさらに悪質な手口とは…
集英社オンライン / 2024年9月23日 9時0分
国交省は宅建業法の通達を改正し、2025年から不動産業者の「囲い込み」を処分対象とした。囲い込みとは売主から預かった物件を嘘をついて他社に紹介せず、自社で囲い込んで買主を探し、買主からも手数料を取ろうとする不正行為のことだ。誰もが名前を聞いたことがある大手業者もこの不正を行なっているという。そして囲い込みは、手数料を4倍しぼり取る「さらに悪質なスキーム」の入口に過ぎないという。実態を専門家に取材した。
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堂々と違法行為に手を染める業者
中古の戸建てやマンションなど、物件の売買を仲介する際、不動産業者は売主または買主から「取引額×3%+6万円」を限度に仲介手数料を受け取ることができる(取引額が400万円超の場合)。5000万円の物件だとしたら、156万円の仲介手数料となる。
通常、売主から依頼を受けた業者は「レインズ」など業者間のネットワークを通じて募集をかけ、別の不動産業者を通じても買主を探す。
一方、自社で買主を見つけることができれば「両手仲介」という形になり、売主と買主双方から3%の仲介料を得ることができる。一気に手数料が倍額手に入るというわけだ。両手仲介自体は違法ではない。
だがこの仕組みが、「囲い込み」という不正を誘発する。囲い込みとは売主から依頼を受けた不動産業者があの手この手を使い、他業者の仲介を通じた購入を阻止しようとする行為のことだ。
倍額の手数料が手に入る両手仲介を実現するため、自社で買主を見つけるまで物件を囲い込む。さて、囲い込みには具体的にどういった手段があるのだろうか。ドラマ『正直不動産』の監修も行なう不動産業者、株式会社不動産流通システム【REDS】に取材した。
「あからさまな手段として、そもそもレインズに載せないという方法があります。売主が不動産業者に仲介を依頼する契約には、複数社に依頼できる『一般媒介契約』と、1社だけに依頼する『(専属)専任媒介契約』があります。専任媒介契約では宅建業法上、仲介業者は売りに出された物件をレインズに掲載しなければなりませんが、特に悪徳な業者は法に反して掲載自体をしないのです」(REDS・深谷十三社長)
堂々と違法行為をしている業者がいるということだ。さらに、レインズに掲載したとしても、のらりくらりとかわす手法もあるようだ。
「他の業者からの問い合わせに対し、『担当者が外出している』などといって対応しない手法があります。折り返しの連絡を約束しても電話をしてこないのです。『売主から鍵を預かっていない』と嘘をつく業者もいます。最近では『クリーニングしてから見せる』という口実でかわす方法が流行っていますね。囲い込みをする業者は他社媒介の購入希望者がいかに内覧できないようにするかを考え、自社で買主を見つけるまで先延ばしし続けます」(REDS・渡部親三氏)
レインズでは「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」と3段階で取引状況を表示できる。公開中以外のステータスに設定しておき、他社からの問い合わせが来ないようにする方法もあるという。ではどういった業者が囲い込みに手を染めるのだろうか。
「大手、零細と規模は関係なく、業界で横行している手段です。大手でもエリアや店舗によって積極的に行なうところがあります。さすがにレインズに載せないという手段は零細企業に限られますが、大手でものらりくらりと先延ばししようとします。最初の1か月は囲い込みを行ない、2か月目以降は他社仲介を受け付けるという社内ルールがある業者も存在するようです」(渡部氏)
さらに悪質な「買取再販業者」スキーム
囲い込みはそもそもの取引件数が多い首都圏の中古マンションに集中している。深谷社長によると、肌感覚で10件中2~4件が囲い込みされているといい、業界では当たり前の手法のようだ。そして囲い込みに関しては大手が“目指すべき姿”としてきた理想の形があるという。どういう形式か。
「売主から依頼を受けた大手不動産業者が子分の買取再販業者に買わせる形です。囲い込みをして依頼物件を売らずに干しておき、売主が『この値段では売れない』と勘違いして根負けするのを待って、安い値段で子分の再販業者に売らせるのです。
期限などの都合で現金が早めに欲しい売主に対し、救世主として現れた“白馬の王子様”のように再販業者を紹介します。その後、買ってくれたお礼の『専任返し』という形で再販業者は大手と専任媒介契約を結び、物件が売れればふたたび仲介手数料を支払います」(深谷社長)
この形では、大手が売主―再販業者間の両手仲介で合計6%の手数料を得ることができ、再販業者―買主間の両手仲介で再び6%の手数料を受け取ることができる。安値で売って損をした売主に代わり、大手は“12%”の手数料を手にするのだ。例えば次のケースが想定される。
「この商習慣において、再販業者は売買の差額から利益を得ることができます。例えば売主が5000万円での売却を希望していた物件を囲い込み、根負けするのを待って3500万円で再販業者に買わせる。そして再販業者は物件をリフォームして5980万円で売りに出す形が想定されます。大手が買主を仲介してくれるので再販業者は損することはありません。この取引で再販業者は購入価格の10~20%の利益を得られます」(渡部氏)
このケースで大手不動産会社は3500万円の6%+6万、そして5,980万円の6%+6万円の仲介手数料を得ることができ、総額でおよそ590万円になる。売主は、5,000万円とまではいかなくても、囲い込まれなければ3,500万円より高く売れたかもしれない。買い替えなどで売主の資金繰りに期限があるときに狙われやすいという。
囲い込みを防ぐには
売主が囲い込みを防ぐにはどうしたら良いのだろうか。
「極論からいえば、業者がやろうとしたときに防ぎきることはできません。最初の段階でネットの情報を参考にしながら、囲い込みを行わなそうな業者を見つける必要があります。“未公開物件あり”を標榜している多くの業者は囲い込みをやっています。
不動産業者は自社で買主を見つけるまで引き延ばそうとするので、内覧依頼が来たら業者にその結果を頻繁に尋ね、その結果に対して自分で判断する必要があります。業者任せではダメです。他の不動産業者を通じて、自分が売りに出している物件の内覧依頼を出してみて確認するのも有効な手段です。それで断られれば、囲い込みをされていることになります。」(深谷社長)
専任媒介契約の場合、売主は登録証明書に記載されているURLとIDをもとにレインズでの登録情報を確認することができる。頻繁に確認することも重要だという。
「取引状況が『公開中』以外になっていないか確認しておく必要があります。申込みがないのに『申込みあり』になっていないかどうか。あとは『図面』がちゃんと掲載されているかどうか。図面はいわばチラシです。文字情報だけでは間取りなどの詳細を把握できないため、図面が掲載されていないと買手を媒介する不動産業者は顧客に物件を紹介しづらく、物件情報が流通しません」(渡部氏)
図面がない物件に問い合わせてみると、『作成中』などと言ってかわされることもあるという。やはり売主は仲介業者に任せきりにせず、状況を頻繁に見ておく必要がある。そして前述の通り、国土交通省は宅地建物取引業法の通達を改正し、2025年から囲い込みが処分の対象となった。業界の詐欺的行為を防ぐ効果はあるのだろうか。
「これまでレインズの規則でしか記載のなかった囲い込みも、宅建業法の規制対象となりました。レインズに記載の取引状況が実際と異なっていれば処分の対象になり得ます。
国交省がどこまで取り締まるか次第ですが、ある業者に内覧依頼を出してかわされた際の記録を積み重ね、依頼者に問い合わせることで囲い込みの実態を明らかにすることが可能です。実際に処分が行なわれれば、囲い込みをする業者も少なくなるでしょう。ただし、より巧妙な手法が出てくるかもしれません」(深谷社長)
処分の対象になったことで囲い込みの習慣が是正されるのか、それともより高度な手段が現れてくるのか注視する必要があると深谷社長はいう。
何かとダーティなイメージのある不動産業界、悪習が是正されるまでの道のりは長そうだ。
取材・文/山口伸
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