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〈総被害額は約271億円〉「綺麗な人だったので…」コンサル会社社長(70)も引っかかった「SNS型ロマンス詐欺」の一部始終

集英社オンライン / 2024年11月29日 17時0分

「SNS型ロマンス詐欺」の被害者数が、年齢や性別を問わず増加の一途をたどっている。2024年1〜9月期の被害額は約271億円に達し、前年比で約159億円増加した。警察庁もこの状況を重くみて、注意を呼びかけている。今回は被害経験者の鈴木さん(仮名)・70代男性の体験談を、そして一般社団法人詐欺防止ネットワーク代表理事の松田俊也氏に、SNS型ロマンス詐欺の横行の背景、騙されないための身構えについて聞いた。

【画像あり】ハートマークが並ぶ詐欺師とのチャット画面

大企業の名義を騙るなど手口が巧妙化

SNS型ロマンス詐欺とはどんなものなのだろうか。被害経験者の話を聞くと、想像以上に手口が巧妙化していることがわかる。

鈴木茂さん(仮名)は、コンサルティング会社を経営する70代の男性だ。昨年と今年の2件の被害により、総額約340万円を騙し取られたという。

1件目はSNS型投資詐欺だ。2023年10月、暗号通貨やFXで利益を得ているという100人規模のLINEグループに突然招待され、資金を投入し約300万円の詐欺被害に遭った。コンサルタント業で生活が不安定な中、身内の入院費を工面したい思いから、お金を増やそうとしたという。

2件目がSNS型ロマンス詐欺で「ローソンチケット」を利用したケースだ。被害額は約40万円にのぼった。きっかけは2024年8月、Facebookで受け取った友達申請だった。

「ロマンス詐欺の存在はニュースで知っており、LINEでの投資被害にも遭っていたので、警戒心はありました。それまでにもFacebookに何度か、おそらく中国系の人から不自然な日本語のメッセージが来ていたため、当然相手にしていませんでした。

でも被害に遭ったときは、日本人らしい名前と顔写真の人からリクエストが来たので安心し、友達申請を許可しました。その人が綺麗だったので、食事に行くような友達になりたいと思いました」(鈴木さん)

国際ロマンス詐欺の認知度が高まり、不自然な日本語での連絡に対して警戒心を抱く人は増えている。しかし、鈴木さんに送られてきたメッセージは多少不自然な点があるものの、詐欺目的で書かれたものだと疑うほどではない。好みの異性からの好意的なメッセージに悪い気はせず、冷静な判断も難しくなる。

その後、LINEでのやり取りに移行し、他愛もない会話の中で鈴木さんが仕事について尋ねる。相手の仕事の内容は、ローソンチケットの販売数を増やすもので、40回チケットを予約すると、予約金額の1%のキックバックが得られるものだという。

会話を進めると、「私のアカウントでは1日40回しか予約できないが、もっと稼ぎたいので手伝ってほしい」と提案される。同情心が芽生えたこともあり、協力しようという気持ちになったそうだ。

その後、(偽の)ローソンチケットのサイトに招待され、アカウントや口座の登録をした。指示通り40回チケットを注文すると、架空の口座に利益が反映された。鈴木さんによると、実際にお金が振り込まれたことで、完全に信じてしまったそうだ。

そして、新たにチケットを購入するために、指定された口座にお金を振り込んだ。しかし、40回の購入に達する前に残高が不足し、振り込みを繰り返すことになる。当初数千円だったチケットの金額が、次第に数万円へとふくらんでいった。金額が大きくなった段階で、ようやく「おかしいな」と気づいたという。

LINEのやり取りを見ると、「予約したチケットはどこに行くんですか?」という不都合な質問に回答しなかったり、次第に言葉遣いの不自然さも散見されるようになったりするなど、怪しい点も出てくる。しかし、相手の感情に巧みにつけ込むやり取りもあり、判断力が鈍る理由も理解できる。

「暑くてあまり食欲がないので、さっぱりしたものを食べるのはいいですね」
「おいしいお酒、ぜひ一緒に楽しみたいですね」
「今日はもう遅いので、早く休んでくださいね」

こういったさりげないコミュニケーションは日常的に行なわれており、鈴木さんが辛い経験を打ち明けたとき、「私も同じような経験があって…」と共感を示してくる場面もあった。

「下落合に住んでいると言われ、運転免許証まで送られてきたんです。さらに、自撮り写真や食事の写真なども送られてくると、その人が実際にいるような感じがして、信じてしまいました。それに、月に数百万円儲かると言われたら疑いますが、月30万円という控えめな金額にリアリティを感じましたね。ローソンという大企業の名前を利用していることにも、安心感を覚えてしまった」(鈴木さん)

入金額が反映される架空の画面

SNS型ロマンス詐欺の前身にはSNS型投資詐欺があるという。

「2021年頃からLINEを利用した投資詐欺が急速に広まりました。投資の勉強会などを口実にLINEグループに追加され、投資アプリやサイトへ誘導されるのが典型的なケースです」(一般社団法人詐欺防止ネットワーク代表理事の松田俊也氏)

鈴木さんの1件目の被害のケースである。

最初は「10万円が数か月後に数倍になる」といった形で少額投資を促され、軽い気持ちで始めてしまう被害者が多いそうだ。

投資資金の入金先は架空の口座だが、詐欺師たちが作り上げた架空の画面上では入金額が反映される。そして、投資が成功し、利益を獲得しているかのような錯覚を与える。

被害者が儲かると思ったところで、さらなる投資を促すのが常套手段。いざ出金しようとすると、「事務手数料として100万円が必要」などと言われる。この金額を振り込むと突然連絡が取れなくなり、詐欺であることに気づくのだ。

投資の形態は多様化しており、金投資やネットショップの共同経営も増加傾向にあるという。松田氏によるとこれらの詐欺では、使い捨ての口座が利用されるため追跡が困難で、警察も犯人を特定できず、被害金の回収はほぼ不可能だという。

「また、SNSを利用した投資詐欺はロマンス詐欺と親和性が高く、SNS型ロマンス詐欺として近年主流となっているんです」(松田氏)

最終的には必ずお金を要求される

SNS型ロマンス詐欺は、SNSやマッチングアプリを通じて出会った相手の恋愛感情を利用し、信頼関係を築いたうえで、『あなたとの将来のために』、『売上を増やすことを手伝ってほしい』『あなたも儲かるから』といった口実で、投資や副業に誘導して金銭を騙し取る詐欺だ。

鈴木さんの2番目のケースのように、近年は騙す側も工夫を凝らしており、詐欺を見破ることが困難になっている。詐欺師のプロフィール写真は、芸能人のような華やかなものではなく、身近で親しみやすい雰囲気の写真を選ぶ傾向があるという。

プロフィール写真などSNSを頻繁に更新することで、存在にリアリティをもたせる。接触してくる際のメッセージも、「この写真素敵ですね」「これどこか教えてくれますか?」といった当たりさわりないメッセージが来ることが多い。

このように巧妙化した詐欺に騙されないためには、どのような対策が必要だろうか。

「SNS型ロマンス詐欺では、最終的には必ずお金を要求されるので、たとえ親密な関係になった相手でも、突然お金の話を持ち出してきた場合は、詐欺の可能性が高いと考えるべきです。

SNSロマンス詐欺での振込先は、聞いたこともない個人や会社名義の銀行口座への振り込みを要求されます。上述の鈴木さんのケースでは表面上はローソンを騙っていましたが、おそらく振込先はローソンなどではなかったはず。

そもそも、投資は本来財務局に登録された証券会社などを通じて行なわれるべきです。無登録で投資を行なっている業者は違法ですので、調べても出てこないような名義の口座への送金は絶対に避けてください」(松田氏)

詐欺師にとって、出会いを求めている人は格好の標的だ。最近ではSNSだけでなくマッチングアプリが詐欺の入口になっているケースもあるという。

「マッチングアプリのメッセージは、運営会社が監視体制を敷いてチェックしていることがありますが、そこでも詐欺師は“LINEなどで個別にやり取りがしたい”と持ちかけてきます。SNSやマッチングアプリで知り合った相手と、LINEやTelegramなどの個別チャットツールへの移行を提案された場合は警戒していただきたいです」(松田氏)

年々巧妙化し、見破るのが一層困難になっている詐欺。だが、一度も会ったことがない人に金銭を要求してくるような人は、例え詐欺師でなくても信用してはいけない。

寂しいからといって自身の判断が鈍らないよう、注意してほしい。

取材・文/福永太郎 

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