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“恋のから騒ぎ”出演の元地下アイドルが双極性障害を発症…「人の命を預かる仕事に就けないな」と思った矢先に見つけたやりがい

集英社オンライン / 2024年12月15日 13時0分

「躁の時期には、突発的に陶芸をしたくなり、窯を含む道具を100万円分購入したこともあります。その窯は、今ではベランダに放置しています」とARACO(あらこ)さんは苦笑いしながら語った。双極性障害でADHD(注意欠如・多動症)の彼女は、小中学生時代は壮絶ないじめに遭い、不登校になった。不登校をきっかけに、地下アイドルとしてデビューし、現在は同じくADHDの仲間4人で飲食店の共同経営をしている彼女の人生に迫った。

【画像】芸能活動をしていたときのARACOさん

壮絶ないじめに遭い地下アイドル・モデルに

ARACOさん(39歳)は、兵庫県在住の女性で、大阪ミナミにある「Cafe Bar アデハデ!」の共同経営者の1人だ。

ADHDで、その二次障害として双極性障害を発症した。

現在は、1日3回服薬しながら、シングルマザーとして、育児もこなす。

ARACOさんは、小中学校では、女性の輪に入っていくのが苦手で、給食に画びょうを入れられる、物を隠されるなどのいじめに遭った。

学生時代は、人間関係に悩む日々だったという。

「女性が何でもつるんで行動するノリが苦手でした。幸いなことに、不登校になったものの親には理解があり、気分転換になればと、CMタレントのオーディションを受けることを勧めてくれました」

彼女はオーディションを通過し、CM出演を経て芸能活動をすることになる。同時に、週2日のみ登校すれば済む、通信制高校に進学。

「地下アイドルとしては2人のグループで活動していました。1ステージは3000円ほどの薄給でしたが、楽しくて気にならなかったです。

明石家さんまさんが司会をしていた “恋のから騒ぎ” の高校生スペシャルにも出たことがあります。地方CMにも出ていました」

やりがいがあった芸能活動だが、19歳で結婚したことを機に引退。しかし、結婚生活は1年くらいしか続かなかった。彼女は、これまで2度の離婚を経験している。

「2度目の旦那さんとの間に、息子ができましたが、私は人との共同生活は合わないです」

ARACOさんのメンタルは安定せず、うつになり、突発的に死にたくなることがあった。

「25歳~27歳、直近では35歳のときに、精神科病院に入院したこともあります」

原因が分からず、病院を転々とし、服薬し続けた。

言語聴覚士を目指すも実習でコミュニケーションが取れずに受診

31歳のときに、モデルに復帰するが、芸能活動はいつまでもできる仕事とは思えなかった。

手に職をつけたくて、音声機能や言語機能、聴覚に障害のある人の機能の維持や向上を図る国家資格である、言語聴覚士(ST)を目指し、専門学校に通いだす。

「学校のカリキュラムで、座学のときは問題がありませんでした。だけど、実習のときに、コミュニケーションが取れなかったり、聞きながらメモを取ったりしていても、理解することができませんでした。

学校から、このままでは進級できないと言われて、精神科病院を受診しました。座学で、発達障害についての勉強もしましたが、教科書を読んでいて、 “私に当てはまる” と思いました」

政府広報オンラインによると、発達障害は、脳機能の発達が関係する障害で、当事者はコミュニケーションや対人関係を築くのが苦手だ。受診した病院で下ったのは、発達障害(ADHD)と双極性障害の診断だった。

「今までの経緯を話すと、医師からはうつ病ではなく、双極性障害だと言われました。双極性障害よりも発達障害だと診断されたことがショックでした。双極性障害は薬で管理できますが、発達障害は薬でどうにかなるものじゃないので……」

双極性障害は、躁の時期には、万能感があったり、無敵な感覚があったりするため、受診に至らないことが多い。うつの時期は、躁の時期にやったことへの後悔など、気分が落ちるため、うつ病と誤診されることが多い障害だ。

作家で精神科医の北杜夫氏も、生前に双極性障害だとカミングアウトしている。厚生労働省の調査によれば、受診中の患者数は 80 万人程度と推計される。

「躁の時期に、衝動的に陶芸道具一式を、貯金100万円を使って購入したことがあります。躁の時期はとにかく楽しい。没頭して寝ずに、作品を作ってましたが、80㎝×80㎝の窯は今ではベランダに置いてあります」

診断を受け、人の命を預かる仕事には就けないと思った彼女は、学校を退学した。

SNSで知り合った仲間と「Cafe Bar アデハデ!」を開業

発達障害診断にショックを受けたARACOさんは、X(旧Twitter)でいわゆる “闘病アカウント” をフォローするようになった。そのオフ会で、同じようにADHDの症状がある、女性1人・男性2人と意気投合する。

「最初は、発達障害や精神障害があり、孤独な人たちの居場所を作りたくて、気軽に行けるバーを作ろうと話しました。決まってから開業までは、半年くらいです。店員同士で悩みを共有しやすく、素でいられる場所にしたかったです」

お店は、2023年7月にオープンした。共同経営者は全員ADHDなので、なにか特別な苦労もあるのではないか。

「みんなADHDの特性で物事を先延ばしする癖があります。だから、物の管理はムチャクチャです。 “あれはどこにやったっけ?” となるのは日常で、冷蔵庫を開けたらふきんが出てきたこともあります。

だけど、全員、同じことが苦手・得意なわけではない。それぞれの特性の違いを補い合って経営しています」

当初は、障害当事者の居場所として立ち上げたお店だが、福祉を前面に出さなかったことで、障害など関係ない地元のお客さんも訪れる、愛されるお店になった。

個性的なスタッフで曜日や時間で全く違うお店の雰囲気

「アデハデ!」はそれぞれのシフトも異なるため、訪れる曜日や時間帯で、雰囲気が全く違うという。

「客層は、6~7割は障害のある人やその親御さんです。お客さんが、自分たちの障害を理解してくれ、とても優しい。

“さっきの注文、オーダーが通ってないよ” などお客さんが教えてくれることも多いです」

やりがいは、お客さんの人生の節目に立ち会えることだ。

「お客さんの中には、就労移行支援事業所に通っている人や、休職中・離職中の人もいます。そういった人たちの相談にスタッフが乗ることも多く、就職が決まると報告しにきてくれるので、嬉しいですね」

中には、彼女ができたなどの報告もある。

新たな道を進んでいる彼女に今後の目標を聞いた。

「1人でも多くの人に、お店のことを知ってほしいです。来店して、少しでも気持ちが軽くなる人がいたらいいと思っています。健常者の方も “おもしろいから行く” というような、開かれたお店でありたいです」

障害のあるなしに限らず、まずは、ARACOさんをお目当てに、お店に行ってみるのもいいかもしれない。

取材・文/田口ゆう

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