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インボイス導入の本当の狙いは「消費税20%超増税」への布石か?

集英社オンライン / 2022年6月23日 10時1分

2023年10月1日より導入されるインボイス制度。実質的増税による収入減少、取引機会の喪失、無駄な事務処理の増加など、すでに様々な問題点が指摘されている一方、肝心の導入根拠がはっきりしない。はたしてこれは将来的な大増税への布石なのか? フリーライターの犬飼淳氏が国会答弁に基づいてレポ―トする。

インボイス導入の根拠はない

6月17日に公開した「インボイス制度導入で「あの漫画家の本名がバレる」は本当か?」では、ペンネームや芸名で活動するクリエーター(漫画家・作家・アーティスト・俳優 等)の本名がバレて、最悪の場合、廃業に追い込まれる可能性があることをお伝えした。

このほか、実質的増税による収入減少、取引機会の喪失、無駄な事務処理の増加など、一般国民が多大な不利益を被るインボイスは百害あって一利なしの制度と言っても過言ではない。



*インボイス制度の問題点をさらに詳しく知りたい場合は「STOP! インボイス」ウェブサイト 参照


「とはいえ、政府が導入を進めるからには それなりの理由があるのでは?」と考える読者もいるだろう。それでは、国会でインボイス導入の根拠を問われた際、政府はどのように答えているのかを確認してみよう。

*今回紹介する2つの国会答弁のダイジェストは上記YouTube動画で視聴可能。動画を再生できない場合、筆者のYouTubeチャンネル「犬飼淳 / Jun Inukai」で視聴可能。動画タイトルは「インボイス導入の根拠はない」

【共産党・山添拓 議員】インボイスを導入しても良いことはひとつも無いわけですね。(中略)財務大臣に伺いますが、ひとつひとつの取引にインボイスを発行し、膨大な事務負担を求める必要など無いのではありませんか。

【自民党・鈴木俊一 財務大臣】私どもと致しましては、複数税率のもとでインボイス制度は必要不可欠であると考えます。

出典:2022年3月17日 参議院予算委員会

日本で消費税が10%に引き上げられ、軽減税率8%との複数税率が始まったのは2019年10月。それから3年近くが経過したが、制度変更を必要とするほどの大問題が起きていると聞いたことはない。

それにもかかわらず、鈴木財務大臣が「複数税率のもとでインボイス制度は必要不可欠」とまで言い切るのはなぜだろうか? 例えば複数税率を原因とする不正や不都合が起きて、現状では適正な課税ができない事態に陥っているのだろうか?


これについては、以下の2つの国会答弁を振り返ると答えは自ずと見えてくる。

コピペしたかのような政府答弁

【共産党・宮本徹 議員】複数税率を原因として具体的にどのような不適正が起きているのか、詳細を述べてください。

【自民党・鈴木俊一 財務大臣】例えば、料飲食業において、軽減された税率8%の食料品と税率10%である酒類の仕入について全額を標準税率10%で税額控除している事例など、取引先への確認を含めた税務調査等で不適正の事例が把握しているものと承知しています。

出典:2022年2月17日 衆議院予算委員会

【自民党・鈴木俊一 財務大臣】売り手が軽減税率で申告しているものについて、買い手が標準税率で控除を行ったとしても、書類が保存されていない場合があり、事後的な確認が困難となっているところでございます。こうしたことからインボイス制度は適正な課税を確保するために必要なものと考えております。

【共産党・山添拓 議員】そうすると今、もう複数税率が始まっていますけど、いい加減な徴税をやっているってことなんですか? 今、何か具体的に複数税率で不都合が生じるような、そういうことになっているんですか?

【自民党・鈴木俊一 財務大臣】個別の具体の案件につきましては差し控えさせて頂きますが、例えば、8%である食料品と10%である酒類の仕入について、全額を標準税率10%で税額控除しているような事例。こういうものが把握されているところであります。

【共産党・山添拓 議員】把握ができているのであれば適正化を図れば良いこと。8%と10%。2種類の税率で、しかも食料品とその他という分け方であれば現在の帳簿方式でも大きな不都合はありません。

出典:2022年3月17日 参議院予算委員会

これらの政府答弁を整理すると、現状は「食料品(8%)と酒類(10%)の仕入全額を10%で税額控除した事例(*)」を把握しているが、「請求書の交付義務や写しの保存義務が無く、税率の事後確認が困難である」ため、「適正な課税を行うためにインボイス制度が必要である」というのである。

たったこれだけである。

冗談でも誇張でもなく、本当にこれしかないのだ。政府のトップである岸田文雄総理も、所管である鈴木俊一財務大臣も、インボイスの導入根拠を問われると一貫してこの内容を答弁している。しかも、用意された原稿がこれしかないのか、コピペしたかのように毎回 一字一句ほとんど同じ内容だ。

*について、例えば飲食店が卸売業者から豚肉を1000円で仕入れたと仮定して補足する。この飲食店が国に消費税を納税する際、食料品である豚肉には軽減税率8%を適用すべきだが、誤って10%の消費税で申告すると、この飲食店は納税額を20円〈=1000円×(10%-8%)〉少なくできてしまう。


しかし、税制度についてある程度の知識を持つ方であれば、普通はこう考えるのではないか。

「この事例はただのミスもあり得るし、そもそも現行制度で把握できているならミスを正せばよいだけではないか。制度変更の必要があるほど頻繁に起きているのだろうか?」

その疑問の答えも、すでに国会答弁で明らかになっている。

政府答弁の「真っ赤なウソ」

【共産党・宮本徹 議員】そうした事例(= 8%の食料品と10%の酒類の仕入全額を10%で税額控除)はどれぐらい起きているんでしょうか。

【政府参考人・住澤整 財務省 主税局長】お答え申し上げます。(中略)そうした事例だけを抜き出した集計は現時点では行っていないと聞いております。

【共産党・宮本徹 議員】そうした事例がどれだけ起きているかも分からないと。しかも、そうした事例も税務調査すれば把握できているわけですよね。インボイス導入する必要性なんてどこにもないじゃないですか。

出典:2022年2月17日 衆議院予算委員会

筆者のYouTube動画より。宮本徹議員の質疑によってインボイス導入の根拠は無いと露呈

このやり取りを見ると、「適正な課税を行うことをインボイス制度導入の唯一の根拠に挙げながらも、その気になれば税務署が調べられる事例数すら調べないということは、正当な導入根拠は無いのでは?」と思う方もいるのではないか。


その通り。インボイス導入に正当な根拠は無いのだ。ここまで紹介した「政府の主張」と「国会での指摘」を図解すると、以下のスライドのようになる。政府の主張は完全に破綻していることは明白だ。

さらに、インボイス導入前と後の請求書を見比べると、政府の「インボイス制度は複数税率のもとで適正な課税を行うために必要」という主張が真っ赤なウソであることが明らかになる。

出典:「インボイス制度の中止を求める税理士の会」記者会見(2022年6月16日)報告資料P10

左右の請求書(左側:現行、右側:インボイス導入後)で大きく異なるのは、登録番号(画像ではTから始まる数字の文字列)の有無のみ。左側(現行)に登録番号が無いからといって適正な課税ができない理由にはならない。現に、日本で複数税率が始まった2019年10月から3年近くにわたって、消費税申告は適正に行われている。

むしろ、右側(インボイス導入後)の請求書に変わることによって、経理担当者等は請求書1枚ずつに対して登録番号の有無、正しさを確認する手間が増える。つまり、「適正な課税を行う」という本来の目的は全く達成されない一方、事務負担は膨大に増えると断言できる。

明らかに動揺する岸田総理

ここまで読んで、インボイス導入はメリットがほとんどなく、導入根拠も乏しいことがお分かりいただけただろう。では、なぜ政府は必要のないインボイスを導入したがるのか?

これについては、すでにインボイスを導入している国の税制度を見ると答えは自ずと見えてくる。

フランス:標準税率20%、旅客輸送・外食サービス 10%、書籍・食料品・スポーツ観戦・映画 5.5%、新聞・雑誌・医薬品 2.1%
スウェーデン:標準税率25%、食料品・宿泊・外食サービス 12%、新聞・書籍 6%

出典:2022年3月17日 参議院 予算委員会の質問中に山添拓議員が例示

上記のように、20%超の標準税率と複数の軽減税率から成る税制度を採用している国の場合、インボイス制度は確かに有効だ。標準税率と軽減税率の差が10%以上と大きいために、納税者の虚偽申告を防止するメリットは大きく、また、3パターン以上もある複雑な税率計算に対応するという意味もある。

だが、日本では標準税率と軽減税率の差が小さく、税率のパターンもわずか2パターンしかない。なのになぜ、インボイス制度を導入しようとしているのだろうか。

勘の良い読者はもうお分かりだろう。つまり、インボイス導入の本当の狙いは、将来的な20%超の消費増税にあるのではないか。この“疑惑”についてはすでに国会で質問されている。

【共産党・山添拓 議員】総理に伺います。現在の日本の消費税のもとでは必要の無いインボイス制度。大きな不都合が生じているわけではない、インボイス制度をわざわざ導入しようとするのは、これは日本にも欧州並みの20%台、そういう消費税を導入することを目指しているのですか。

【自民党・岸田文雄総理】少なくとも消費税について、何か触れる…税率に触れるということは考えてはおりません。今、インボイス導入がそうした税率引き上げを目指しているのではないか、こういったご質問でありましたが、そういった議論とインボイス…税率の議論とインボイス引き上げの議論、これは結びついているものではないと認識をしております。

【共産党・山添拓 議員】それなら、おやめになったら良いと思うんですね。インボイス制度を導入することを。

出典:2022年3月17日 参議院予算委員会

画像:筆者のYouTube動画より。将来的な消費増税の可能性を岸田総理に問う山添拓議員

現時点では岸田文雄総理はこの疑いを明確に否定しているが、答弁の際には言い淀み・言い間違いが多く、明らかに動揺した様子。まさに図星を突かれたという反応に見えなくもない。

*実際の質疑映像は冒頭にも紹介したYoutube動画の6分34秒~ 視聴可能
画像:筆者のYoutube動画より。将来的な消費増税について答えに窮する岸田総理

百歩譲って、日本が欧州のように20%超の消費税を目指すとしても、その大前提は税収がしっかりと国民の社会保障のために有効活用されることだ。しかし、現政権(自民・公明の連立)は16兆円という信じられない規模のコロナ予算を使途不明にしたことが明らかになった上、懐柔された大手メディアが追及責任を放棄しているため、いまだに全容の解明が進まない。

それどころか この衝撃的事実を知らない一般国民も数多くいる。このような惨状のままで大増税を行えば、国民が今以上に搾取され、生活に困窮するのは目に見えている。

インボイス、ヤバい!と気づいた人に今からできること

ここまで読んで「インボイス、ヤバい!」と気づいた方は、「なんとかしてインボイスを止めなくては!」と考えるだろう。しかし、国会でここまで明確に露呈したインボイスの問題を大手メディア(テレビ局、読売・朝日・毎日・日経等の全国紙)はどこも報じなかった。残念ながら、この件で大手メディアの公正な報道は期待できない。

その理由としては、「自らは会社員であるため当事者意識を持てない」「新聞は軽減税率の適用対象のため消費税に関する問題は指摘しづらい」等の背景があると推測される。

だが、大手メディアの公正な報道に期待できない状況でも一人一人にできることはまだ残されている。まずはインボイス反対のオンライン署名に参加することだ。


さらに、7月10日投開票の参議院選挙でインボイス反対や消費税廃止を掲げる以下の政党に投票することも有効だろう。

・共産党(インボイスの問題点を国会で最も具体的に追及。今回紹介した2つの質疑の質問者も共産党 議員)
・れいわ新選組(インボイス反対どころか消費税廃止の立場。消費税が無くなれば、消費税の存在を前提にしたインボイスは必然的に中止となる)
・立憲民主党(今年3月にインボイス制度廃止法案を提出)

既にインボイス制度導入を含む改正消費税法が2016年に成立しているとはいえ、これらの反対勢力が国会で議席数を伸ばし、発言権を増すことはインボイス導入を阻止する上で大きな意味を持つことは間違いない。

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